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今週のコラム117回目 更に、術中に『出血しながら手術している』医師の場合には「血液も視野の妨げ」となるので、ますます、「SNの誤認のリスクが増す」のです。

 こんにちは。田澤です。

もう一週間前になりますが…

月曜日、雪降りましたね。

正直、こんなに降るとは思っていませんでした。(それにしても、首都高が数日間「通行止め」続くとは!)

 

雪と言えば、いつも思い出す風景。

岩手高原スキー場(リスのキャラクターのスキー場:当時はスキー場のステッカーを車に貼るのがスキーヤーの証でした?)

(大学生の特権である)誰も滑っていない「ガランとした」ゲレンデ。

冷たくキーンと冷えた空気を吸い込んで、ガチガチに凍ったロングコース。

硬い雪面の凹凸を拾い「暴れようとする板」を膝で押さえこみながら、猛スピード。

(次の瞬間)転倒して、硬い雪面に(腹から)叩きつけられて息がつけず、「やってしまった。これが肝破裂?」(幸い、大したことありませんでした)

あー。「あの頃は若かった。」なんて、年寄りくさいことは言いたくもないけど、今なら(仕事のこととか、考えてしまって)そんな思い切ったことはできないなぁ。

 

FMから流れたshort story

「落ち着いて、聴いてほしい。 さっき僕はこう言われたんだ。『残念ですが、もう望みはない』と。」

「えっ、嘘でしょう。あなた。それ本当なの??」

「本当なんだ。そしてこうも言われたんだ。『望みはないけど、まだ光はあります。』って。」

「そうなの! お医者さんから、そう言われたのね。」

「えっ、違うよ。(お医者さんではなく)緑の窓口の人だよ。」

 

 

このQandAをやっていると、皆さんのメール内容から「これを理解してほしい」と感じることがあります。

今回は、「転移再発」です。

よく、QandAで「転移再発のリスクは?」と聞かれます。

★この質問自体「全く異なる2つ(局所と遠隔)を混同している」証拠なのです。

 

重要なことは「局所再発」と「遠隔転移再発」に分けること。

そして「局所再発」は以下の2つに分けられます。

1. 原発巣の再発 :(温存なら)「乳房内再発」(全摘なら)「胸壁再発」となります。

2. (領域)リンパ節再発 : (主として)腋窩リンパ節

 

 

 

今回は(上記)「2. リンパ節再発」を取り上げます。

私はあくまで「外科医」なので「解剖学的に」解説したいと思います。

「遠隔転移再発」は(血管からの)「血行性転移」に対して、「リンパ節転移」は(リンパ管からの)「リンパ行性転移」で全く異なります。

 

 

○リンパ節の位置関係

人間の体は「層構造(深い部分/浅い部分)」となっています。

できるだけ解りやすいように、「深い部分」⇒順に「重ねていく」ようにします。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①リンパの流れ

「乳腺」からのリンパ流と「腕」からのリンパ流は

腋窩で合流し、「鎖骨下静脈」沿いに内側へ流れ、

やがて「頸部」に連続します。

 

♯この腕からのリンパ流が、「腋窩」で乳腺からのリンパ流と合流するため、腋窩郭清により(時として)「腕からのリンパ流の阻害⇒腕の浮腫み」の原因となりうるのです。 注)きちんとした手術をすれば起こりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②リンパ節の配置

(乳腺からの)リンパ節は、このように

「乳腺からの」リンパ流の途中に

(リンパ管に串刺しされたイメージで)

存在します。

♯ 方向は一方向です。

 

★乳腺からのリンパ流は、まずは「腋窩」そして(腋窩静脈沿いに)「鎖骨上」へ向かいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③小胸筋の配置

ここに小胸筋という筋肉が被さります。

★小胸筋は血管やリンパ節の真上に接しています。

 

♯小胸筋の裏側の部分を「level Ⅱ」として、

それより外側を「level Ⅰ」

(逆に)それより内側を「level Ⅲ」と呼びます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④リンパ節の名称

小胸筋より外側を「level Ⅰ」

小胸筋の真裏を「level Ⅱ」

小胸筋より内側を「level Ⅲ」

♯ level Ⅰの中で最も最初のリンパ節をSNと呼びます    SN: sentinel lymph node (センチネルリンパ節)

♯♯ level Ⅲの先が(血管を乗り越えて)SC

SC: supraclavicular lymph node(鎖骨上リンパ節)

♯♯♯ SCの更に先が「頸部リンパ節」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤(その上に大胸筋が配置されます)     ⑥(更に、その上に乳腺が配置されます)

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑦腫瘍からのリンパの流れ

リンパ流は「腋窩」へ向かいますが、

その「最初に流れ込む」リンパ節をSNと呼ぶのです。

♯ SNはあくまでもlevel Ⅰの中の一つです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑧ リンパ節の名称

SN: sentinel lymph node

1: level Ⅰlymph node

2: level Ⅱ lymph node

3: level Ⅲ lymph node

PS: parasternum lymph node(胸骨傍リンパ節)

 

 

 

 

 

 

 

よくある疑問

case 1  センチネルリンパ節生検で「陰性」だったのに「腋窩再発」した場合。「どうして?」

図A)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これに対する回答は

(SNでないリンパ節を)「SNと誤認して術中に提出した」のだと解釈します。

つまり上図A)のようになります。

 

当然ながら「最初に転移するリンパ節がSN」だから、

正しい状況は「SNに転移あり」一方で「2番目のリンパ節には転移なし」だったわけです。

これを、術中の「センチネルリンパ節生検」の際に

(正しいSNを発見できずに)「(転移していなかった)2番目のリンパ節をSNと(勘違いして)提出」した。と推測されます。

♯そうすれば、(SNと誤認された)2番目のリンパ節は転移が無いので「術中SN陰性」として郭清省略されて、(転移のある)SNが残された状態となったのです。

この「残されてしまった本来のSN(転移あり)が時間をかけて腫大し、「腋窩再発」となるのです。

★当院には「他院で手術されたけど、担当医が定期的にエコーしてくれない」と不安となり通院している患者さんが結構いらっしゃいます。

そうすると、 上記のようなcaseに「たびたび」出くわすのです。

♯ 実際、(仙台時代には)「腋窩再発」症例に出くわすことは皆無(ではなかったかもしれませんが、記憶にない位、超rare caseでした)だったのに、ここ「江戸川」に来てからは、「年間数例、腋窩再発で手術」しているのが現状(幸い、「当院の手術症例」では皆無です)です。

 

『なぜ、SNの誤認などと言う事が起こるのか? その医師もプロでしょ?』

皆さんの当然の疑問です。

おそらく(私の解釈では)、その原因は2つあると推測しています。

1.「センチネルリンパ節生検」する際の「皮膚切開の位置が悪かった」

2. それと、考えられるのは「術野の視野の妨げとなる出血」ですね。

 

日頃から「出血しながら手術するのに慣れている(それではイカンのですが…)術者は「視認すべきものが視認できていない」のです。

(以下、図解)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来は、リンパ管が入ってくる最も上流で皮膚切開(図①)して

そのリンパ管を(下流に)追っていけば、

正しいSNを認識することができます.

 

それに対して、皮切の位置が「下流(図②)」だと、

誤ったSN認識(2番目のリンパ節をSNと誤認)となりがち

 

 

 

 

 

 

 

(上図の拡大)

拡大した図をよく見てください。

②の皮切を行うと、「SNを見逃しやすい」ことが

視覚的に納得できますね?

(この視野だと、最初に目に入るのが2番目リンパ節となるのです)

♯実際の術野には脂肪があり、(そもそも正しい皮切でないと脂肪で(SNが)隠されてしまうリスクもあるのに、

更に、術中に『出血しながら手術している』医師の場合には「血液も視野の妨げ」となるので、ますます、「SNの誤認のリスクが増す」のです。

 

 

 

★ 次回は局所再発のもう一つである、「原発巣の再発」について、解説します。