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非浸潤性乳管癌で乳房全摘後の化学療法について

[管理番号:322]
性別:女性
年齢:46歳
非浸潤性乳管癌という術前診断で、今年3月、右乳房を全摘しました。
5週後に病理検査の結果が出て、複数箇所に浸潤部が認めれるため、化学療法(FEC療法を3週おきに4回)を提案されました。
術前には、全摘すれば完治といって差し支えない状態になる可能性の高さを示されていたので、予想外の展開に気持ちがなかなかついていきません。
癌サイズは53×22×41㎜、浸潤部の最大サイズは7×4㎜。
Her2が3+で、FISH法で浸潤部が同じ値であれば、FEC療法のあたに分子標的もと言われています。
やはり化学療法が必要でしょうか。
脱毛、吐き気などの副作用も心配です。
よろしくお願いします。
(2015年4月の質問)
 

田澤先生からの回答

 おはようございます。田澤です。
 状況の確認が必要です。
 その上で回答します。

状況の確認

「Her2が3+で、FISH法で浸潤部が同じ値であれば」
⇒この表現からは「術前の針生検による(非浸潤癌の部位での)HER2が3+」であるという意味だと思います。
 実際には「浸潤部分のHER2は2+の筈」です。

※HER2の診断は以下の通りであり(FISHの適応はHER2が2+の場合のみ)となるのです。
免疫染色でHER2 0または1+ ⇒ 陰性
免疫染色でHER2 2+ ⇒ 「FISH法で遺伝子増幅を確認」
免疫染色でHER2 3+ ⇒ 陽性

 
「最大浸潤径が7x4mmなのにFEC4回を提案」
⇒これは、(浸潤部分での)ER及びPRが陰性である事が条件です。(ERが陽性であれば、ホルモン療法の適応となり、化学療法の適応ではありません)
 「リンパ節転移もない」と思われます。
 
★まとめると、「最大浸潤径7mm」「リンパ節転移なし」「(浸潤部での)ER陰性、PR陰性、HER2 2+」という事でよろしいですね。
 以下の内容は、それを前提とした内容となりますので、「もしも、誤りがある場合には」お手数ですが再度、メールでご質問ください。
 

回答

「やはり化学療法が必要でしょうか。」
⇒かなり微妙な状況です。
 (信頼のおける)NCCNのガイドラインでは「最大浸潤径が5mm以下なら」化学療法は不要(ハーセプチンも含めて)となります。
 つまり、ガイドラインでは「僅か2mm」のために、「化学療法」を推奨するケースとなります。
 
◎私であれば
 「ガイドライン」では「僅か2mm」であることをお話しした上で、選択してもらいます。
 質問者の「浸潤径7mm」とは、「治療をした方が安心」と「副作用が心配」を天瓶にかけて「本人に選択してもらっても構わない」状況だと思います。
 
 

 

質問者様から 
【質問2 術前データと病理検査データの違い】

お忙しい中、ご丁寧に教えていただきありがとうございました。
回答を拝見した上で、化学療法を受ける選択をしようと考え始めました。
データの示し方が十分ではなかったので、一部訂正ですが、術前の針生検ではER陽性、Her2が2+で、浸潤していたとしてもホルモン療法適応だろうという可能性を示唆されていました。
それが、病理検査データではERが陰性、Her2が3+となったため、ホルモン療法は選択肢とならず化学療法を提案されたという流れでした。
Her2については、 浸潤部でも同様の値がでるかをFISH法で検査するという説明だったと記憶しています。
もし、この流れで、すでにいただいたご回答とは別の所見が考えられるようであれば、あらためて教えていただけるとありがたく存じます。
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答2】

 おはようございます。田澤です。
 『病理結果の補足』ありがとうございます。
 私の予想と違ったのは「浸潤部でHER2が3+(本来はFISH不要)なのに、HER2-FISHをしている」事です。
◎「HER2 3+であれば無条件にHER2陽性」であるので、(万が一でもFISHが陰性の場合にはどうするつもりだろう?と余計な心配をしてしまいますが…)
 現実には、当然HER2-FISHは「増幅あり」となると思います。
 質問者が文面にあるとおりに「化学療法」を選択する場合には、当然「ハーセプチン」も行う事となります。
 
◎今回の「病理結果の追加(HER2 3+でHER2-FISHを行っている)による」回答の変更はありません。
 ポイントは『浸潤径7mmと5mm以下の違いをどう考えるか?』となります。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

3回目の投稿になりますこと、お許しください。
 
FISHに関する前回の先生の回答で、「万が一にも陰性だったら」とご心配いただいたのですが、実はその「万が一にも陰性」であることがわかりました。
つまりは、トリプルネガティブというのが最終データによる診断です。
 
トリプルネガティブは再発率、死亡率を含め、予後が悪いと聞いていますので、不安ばかりが先立ちますが、私の場合、アポクリン癌であるため、抗がん剤の効きはよいだろうという説明を受けました。
 
Her2の増幅なしなので、もちろんハーセプチンは選択肢にならず、結局、今週末からFECの4回投与のみを受ける予定です。
 
リンパ節への転移はなく、悪い予後ばかりを想像して不安に駆られていても仕方ないとは思いながら、二転三転のデータに、正直気持ちの整理が追いつかない状態です。
病理でHer2が3+、FISHでは増幅なしというこの結果をどのように受け止めればよいのか、教えていただければありがたく幸いです。よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 今回のメール内容にはやや驚きがあります。

  1. アポクリン癌であった事
     私は、まさか特殊型である予後良好群の「アポクリン癌」だとは思っていませんでした。
     従来から「アポクリン癌は、トリプルネガティブが多い」事は知られており、St. Gallen 2009でも「アポクリン癌は特殊型(予後良好群)に含まれており」リンパ節転移が無ければ「化学療法は不要」とされていました。
     
  2. HER2 3+なのに、FISHが陰性であった事
     HER2 3+であれば90%以上がFISH陽性となります。(無駄な検査として)HER2 3+ではFISHは推奨されていません
    今回はかなり稀なケース(但し、アポクリン癌であれば、HER2陰性は当然とも言えます)

 

回答

「トリプルネガティブは再発率、死亡率を含め、予後が悪いと聞いています」
⇒本来、特殊型である予後良好な「アポクリン癌」しかも7mmでリンパ節転移なし
 これは「通常のトリプルネガティブと同等に扱う」べきではありません。
 予後は「極めて良好」です。
 
「アポクリン癌であるため、抗がん剤の効きはよいだろう」
⇒これは誤った考えだと思います。
 正しくは「アポクリン癌だから、抗癌剤をしなくても予後はいいだろう」です。
 「アポクリン癌が抗癌剤が効く」などという事実はありません。
 それに対して「アポクリン癌が(化学療法などしなくても)予後が良い」事は一般に知られています。
 
「Her2の増幅なしなので、もちろんハーセプチンは選択肢にならず、結局、今週末からFECの4回投与のみを受ける予定」
⇒私なら「絶対に化学療法はしません」
 アポクリン癌 pT1b=7mm, pN0 大変な予後良好群です。
 
「病理でHer2が3+、FISHでは増幅なしというこの結果をどのように受け止めればよいのか」
⇒「免疫染色(HER2 3+)が誤り」でしょう。
 FISH法の方が正しいのです。
 アポクリン癌なので、当然だと思います。
 
●ここには記載はありませんが、Ki67も(測定していれば)かなり低い(一桁~せいぜい10前後)と思います。
 質問者が「化学療法をする」決心であれば、止めませんが、「予後不良などと勘違いだけは、しないように」してください。(主治医はどんな説明をしているのでしょうか?)