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放射線治療や、トリプルネガティブ再発などに関して

[管理番号:913]
性別:女性
年齢:30歳
田澤先生、こんにちは。
以前、若年性トリプルネガティブの予後などについて質問させていただいた者です。
管理番号587(ステージ1、温存手術)
その節は、本当にありがとうございました。
先日、放射線治療を終え、これで全ての治療が終わりました。やっと日常生活が戻り、いつまでもこの生活が続くことを切に願っています。
いくつか質問したいのですが、
①放射線治療は、みなさんだいたい25回ぐらいかなと思いますが、私は1回2.75グレイ×17回+ブースト3回の計20回でした。
放射線科医からの説明に納得した上で受けましたが、田澤先生はこの放射線治療をどう思われますでしょうか?特に問題無いでしょうか?(もう治療を終えているのにすみません)
②手術は執刀医の技量の差がかなりあると思うのですが、放射線治療も同様でしょうか?
技量の違いによって、治療後の副作用の出方(照射後の肺炎など)や、再発率に差は出ますか?
③素朴な疑問なのですが、以前再発率をお伺いした際に、「抗がん剤治療をすれば再発しない群」が10%程度ほどいるとお聞きしました。本やネットでも同じような事が書かれていましたが、それはどのようにして分かったことなのでしょうか?
つまり、同じ一人の人を抗がん剤をした場合、しなかった場合で比べることは不可能ですよね?
ということは、抗がん剤が必要な人が100人いたとして、実際する人達(50人)としない人達(50人)を分けて予後を比べたということでしょうか?
そうであるならば、その人達はステージやサブタイプ、グレードなどの条件は統一されていたのでしょうか?
素人の考えでお恥ずかしいですし、とんちんかんな質問でしたらすみません。
④担当医から、発症が30歳と若いことから遺伝性の可能性も否定はできないと言われています。
家族歴に乳癌も卵巣癌も前立腺癌もいないのですが、それでも遺伝性である場合は0%ではないのでしょうか?
妹や娘がいるので、遺伝子検査を受けるべきか悩んでいます。
⑤左胸の発症でしたが、最近右胸上部から脇にかけてズキズキ痛むことがあります。どんなに触ってもしこりらしき物はないですが…
痛み方が以前左胸にあったしこりの痛みに似ているので心配です。
ですが、こんなに早く対側に再発するなんてありえないですよね?
ただ痛みに敏感になっているだけだと思いたいのですが…
⑥トリプルネガティブは、何年経過すれば大丈夫と言えるのでしょうか?
他のサブタイプと同じく10年経過するまで安心できないでしょうか?
たくさんの質問な上に、それぞれ全く異なる質問内容で申し訳ありません。
毎日ご多忙な事と思いますし、もっと急を要する質問事項もあるかと思いますので、後回しで構わないです。
どうぞ、よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 術後治療に関してですね。

回答

「私は1回2.75グレイ×17回+ブースト3回の計20回でした」「この放射線治療をどう思われますでしょうか?」
⇒「寡分割照射」と表現します。
 これは一応の基準があり、有名な「米国放射線腫瘍学会American Society for Radiation Oncology:ASTRO」では
・50歳以上
・pT1-2N0
・全身化学療法を行っていない
 この基準でいくと「質問者は早期である事(pT1-2N0)にしか該当しない」ことになります。
 おそらく、「放射線科の担当医の方から、その辺についての説明」はされているとは思います。
 また欧米での基準に簡単には当て嵌められない要因として「体格差」があります。
 そのため、現在は「日本人における、寡分割照射の安全性」を他施設共同試験が実施されています。
 ○私個人の考えとしては、「寡分割照射は何ら問題は無い。むしろ通院回数を減らせるいい方法」と位置付けています。
 
「技量の違いによって、治療後の副作用の出方(照射後の肺炎など)や、再発率に差は出ますか?」
⇒通常の「温存乳房照射」では「再発率の差」は殆ど出ないと思いますが…
 『放射線肺臓炎」などには差は出ると思います。
 特に「トモセラピーのように」照射野の「緻密なコントロール」により「肺野への照射を避ける事」が可能となるのです。
 
 ○今回とは話が逸れますが「鎖骨上リンパ節(再発)や縦隔リンパ節(再発)などへの治療照射」となると「周囲の重要臓器を避ける」必要がでてくるため「放射線科医の技量の違いや照射設備」で大きな差が出ます。
 
『以前再発率をお伺いした際に、「抗がん剤治療をすれば再発しない群」が10%程度ほどいるとお聞きしました』
⇒これは「プラセボ試験」をすれば解ります。
 ある薬剤(A)の効果を調べるために、100人の被検者を「Aを投与する50人」と「Aを投与しない50人(プラセボ群)」に分けて比べることで判明します。
 
「ステージやサブタイプ、グレードなどの条件は統一されていたのでしょうか」
⇒勿論、その場合には「全ての背景が同一となる」ように割り付けます。
 
「それでも遺伝性である場合は0%ではないのでしょうか?」
⇒「30歳と言う年齢」「トリプルネガティブ」この2要件から「遺伝カウンセリング」の対象にはなります。
 実際に「遺伝子検査」をしても、確率的に高くはないとは思いますが、(全乳癌の5%程度といわれています)
 
「妹や娘がいるので、遺伝子検査を受けるべきか悩んでいます」
⇒こういう問題は「解ったら解った」で「メンタルな問題など扱いが難しい」ので、まずは「遺伝カウンセリング」です。
 
「こんなに早く対側に再発するなんてありえないですよね?」
⇒ありえません。
 というか、「対側乳腺には再発」などしません。
 「対側乳腺」には「局所再発などありえない」(全く別領域と考えてください)し「血行性に遠隔転移としても、非常に稀」なのです。
○対側乳腺に癌ができた場合には、間違い無く『新病変』となるのです。
 
「トリプルネガティブは、何年経過すれば大丈夫と言えるのでしょうか?」「他のサブタイプと同じく10年経過するまで安心できないでしょうか?」
⇒乳癌である以上「やはり、他の癌に比べ大人しいので」10年以上はみてください。
 ♯トリプルネガティブは「単一の性質の集団」ではありません。
 現時点で「特定の性質を見つけられない」だけの「種々の性質の集まり」です。
 「増殖の早いもの」もいれば「遅いもの」もいる。
 「トリプルネガティブ」と一括りにして考えるのは誤りなのです。