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トリプルネガティブの術後の抗がん剤治療について

[管理番号:676]
性別:女性
年齢:59歳
先日妻が、乳がんの手術をしました。その後の治療についておたづねいたします。
臨床経過
左D領域野乳がんcT2 cN0 cStageⅡAに対して7月1日左乳房切除術、センチネルリンパ節生検を施工しました。
病理診断
Left breast(Mt):Invasive carcinoma of no special type(#8-10,14,15) Atypical ductal hyperplasia(#20)
所見
Invasive carcinoma(NST)(Solid-tubular ca.) pT2(t=2.2×1.6cm),g,Nuclear grade 3,ly1,v1,comedo pattern(+),EIC(-), Lateral surgical margin(-;>3.6cm) Deep surgical margin(-;0.3cm) pN0{sentinel;0/3} Atupical ductal hyperplasia(#20)
腫瘍は2.2x1.6cm大で、中央部は広範に壊死に陥っています。辺縁部にViableな腫瘍が見られ著明な核異型を呈する乳管癌細胞の充実・胞巣状増殖を認めます。腫瘍辺縁部では
リンパ管侵襲があり、また出血を伴う部分では静脈侵襲を見出します。断端は陰性、リンパ節
には転移のないことを確認しました。また腫瘍とは異なる部位に(#20)に異型細胞が乳管内を充満する像を認めます。組織像も主腫瘍とは異なりAtypical ductal hyperplasia
が示唆されます。これも断端にはおよんでいません。
このような、状況で主治医より、抗がん剤治療①FEC ②ドセタキルをすすめられています。抗がん剤による治療をすると再発率はしない場合に比べると30%が15%の割合くらいになると説明を受けました、抗がん剤による副作用等考えると、選択に迷いますが、いかがなものでしょうか、妻は当初は抗がん剤治療を受け完治を目指すつもりでしたが、抗がん剤の色々な副作用の説明を受けまよっています。ご指導よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 pT2(22mm), pN0, NG3
 「NG3であり、腫瘍が中央壊死」:結構典型的な充実腺管癌と言えます。
 サブタイプの記載がありませんが、「術後療法としてハーセプチンやホルモン療法」の記載が無いところをみると「トリプルネガティブ」でしょうか?

回答

「抗がん剤による副作用等考えると、選択に迷いますが、いかがなものでしょうか」
⇒トリプルネガティブであれば、当然抗がん剤を行うべきです。
 十分早期ですが、「NG3やトリプルネガティブ?なので、抗がん剤の効果も高い可能性があります。」
 
「①FEC ②ドセタキルをすすめられています。」
⇒所謂アンスラタキサンです。
 現時点で「最強の術後化学療法」と言えます。
 ただ、FECよりはECまたはACの方がいいとは思います。(FEC6回とAC4回が効果が同等で副作用が軽度)
 
○副作用についてはご心配だとは思いますが、59歳であれば十分完遂できる筈です。
 ここがターニングポイントとなる可能性があります。(予防と再発してからの治療では、あまりにも差があるのです)
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生、ご回答ありがとうございます。
質問のトリプルネガティブでしょうか? 
ER(-)PR(-)分子標的HER2(-)Ki67 50%のトリプルネガティブとの診断でした。
ご回答では、当然抗がん剤を行うべきとのことでしたが、もし抗がん剤治療をしなくて食事療法等でそのままの場合、どのようなリスクがあるのでしょうか、予防と再発してからの治療ではあまりにも差があるとのことですが、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 トリプルネガティブとの事ですね。

回答

「もし抗がん剤治療をしなくて食事療法等でそのままの場合、どのようなリスクがあるのでしょうか」
⇒30%の再発のリスクがあります。(70%の確率では「何も起こりません」)
 
「抗がん剤による治療をすると再発率はしない場合に比べると30%が15%の割合くらいになる」と言う事を紐解くと
 ①抗がん剤をしなくても再発しない確率 70%
 ②抗がん剤をすると再発しない確率 15%
 ③抗がん剤をしてもしなくても再発する確率 15%
 
 
「予防と再発してからの治療ではあまりにも差がある」
⇒予防投与では30%を15%にできる(つまり根治率が50%ある)のに対し、再発で使用しても根治率は殆ど無い(20年を超えての完全寛解率は2~3%しかない)のです。
 何故、このような差が生まれるかは「相手の大きさ」の違いです。
 「目に見えないほど小さい相手」に対する効果と(再発して)「目に見えるほど大きくなった相手」では効果に差が出てくるのです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

お世話になります。
まだ、術後の治療のことを決めかねています。遺伝子検査をまだしていませんが、術後のことで検査は必要でしょうか、検査後ペーサルタイプだと、化学療法が効きにくいと、聞いたのですがどうでしょうか、
また、妻は緑内症の治療中ですが、抗がん剤による副作用等は心配いりませんか、よろしくお願いいたします。
現在妻は、このまま抗がん剤治療にすすむか、副作用等のことを考え、日常生活をこのまま送るか、決めかねています。自分できめ後悔のないようにと考えているようですが、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 「遺伝子検査」とは「MammaPrint」でしょうか?
 「高リスク群と低リスク群」に分ける検査であり、「Basal type」などのようにintrinsic subtypeを調べるものではありません。
 ♯ちなみに質問者(の妻)はER-なのでOncotypeDXの適応はありません。

回答

「検査後ペーサルタイプだと、化学療法が効きにくいと、聞いたのですがどうでしょうか」
⇒intrinsic subtypeは簡単には調べられないので「大規模臨床試験は不可能」です。
 「抗がん剤が効きにくい」のかは不明であり、ただ「現時点で選択できる唯一の治療法」が「化学療法」であることは間違いありません。
 
「緑内症の治療中ですが、抗がん剤による副作用等は心配いりませんか」
⇒これは眼科医へのコンサルトが必要です。
 ステロイドには「眼圧上昇」という副作用もあるので、定期的なチェックは最低限必要でしょう。
 
「このまま抗がん剤治療にすすむか、副作用等のことを考え、日常生活をこのまま送るか、決めかねています」
⇒前回示した数値をどう考えるか?です。
①抗がん剤をしなくても再発しない確率 70%
②抗がん剤をすると再発しない確率 15%
③抗がん剤をしてもしなくても再発する確率 15%
 
 
○副作用は個人差はありますが、「殆どの人が完遂できる」ものであることも明記しておきます。