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トリプルネガティブⅠ期の化学療法について

[管理番号:3937]
性別:女性
年齢:74歳
田澤先生はじめまして。
74歳の母にトリプルネガティブの乳癌が見つかり、乳房切除術+センチネルリンパ節生検をうけました。
術後の抗がん剤治療を受けるかどうかで悩んでおります。
持病は高コレステロール血症のみで、元気な母です(副作用のため、無治療ですが)。
何卒よろしくお願いいたします。
<針生検結果>
Apocrine carcinoma
1.ER(-), PgR(-)
2.Negative study for HER2 test(IHC score 2, DISH(-)) 3. Ki-67 labeling index = 15.0%
組織上、異形細胞の索状、小塊状増殖が見られます。
部分的に腺腔形成を伴います。
浸潤性乳管癌で、硬癌あるいはアポクリン癌を推定します。
腫瘍は脂肪組織に浸潤しています。
免疫染色にて、ER(-), PgR(-), GCDFP-15(+)であり、アポクリン癌と考えます。
HER2(IHC)はscore 2 相当であり、equivocal です。
HER2 DISH はHER2/Chr17= 1.39 であり、増幅なしと判定します。
<手術標本の病理結果>
Breast cancer, rt-C, 19x18x9mm, apocrine carcinoma, f, pT1c, ly(+), v(+), surgical margin(-)
Macro: 19x17.5x3cm 大の乳腺切除標本で、割面では19x18x
9mm 大の不整形結節が見られました。
Micro: 腫瘍部では豊富な好酸性細胞質を有する腫瘍細胞の索状、胞巣状増殖が見られます。
細胞質は顆粒状であり、生検所見と併せてアポクリン癌が考えられますが、免疫染色を追加し確認します。
腫瘍は乳腺周囲脂肪組織に浸潤し、軽度の静脈侵襲、リンパ管侵襲を認めます。
腫瘍胞巣内および辺縁に乳管内病変が見られますが、腫瘍は概ね肉眼的に確認された範囲に分布し、広範囲への乳管内進展は見られません。
標本
上、切除断端は陰性です。
追加報告:免疫染色にて、腫瘍細胞はER(-), PgR(-), GCDFP-15
(+) です。
アポクリン癌として矛盾しません。
HER2(IHC) score2
で境界領域であり、HER2 DISH を追加します。
<術後の主治医の説明>
浸潤癌(アポクリン癌)で、リンパ節転移なし(0/3個)
ステージⅠ期
ホルモン感受性なし、HER2陰性、Ki-67 15%
脈管侵襲あり
今後の治療は抗がん剤(FEC療法(3週ごと)x4回
副作用が気がかりであれば薬の量を60%まで減量できるが、ほかの抗がん剤は標準治療でないためできない。
高齢であり、抗がん剤を使わないという選択肢もある。
再発のリスクは、抗がん剤をしない場合は5-10%、すればもう少しさがる。
ただし、脈管侵襲ありのため、転移をおこしやすい。
再発する場合には2-4年と比較的短期間で再発しやすい。
先生に教えていただきたいのですが、
①先生のお考えでは、抗がん剤を使用しない場合の再発のリスクはどのくらいでしょうか。
主治医のお話では、10%以下と低め(?)でしたが、脈管侵襲のため転移はしやすいとの説明があり、どう受け止めたらいいのか悩んでいます。
ly(+)v(+) では再発リスクは高いのでしょうか。
主治医より、核グレードのお話は無かったのですが、グレードが不明ではわかりませんでしょうか。
②抗がん剤を投与(100%または60%量)した場合に再発のリスクがどのくらい下がるのでしょうか。
Kiが15%と低いと、薬は効きにくいのでしょうか。
③アポクリン癌は予後が良好(再発しにくい)なタイプと、普通(硬癌と同等?)なタイプが混じっていると聞いたことがあるのですが、母の場合は、どちらのタイプかは判別できるのでしょうか。
長くなってしまい申し訳ありません。
このサイトで色々と勉強させていただいております。
先生の真摯なコメントを読み、勇気づけられることが多いです。
アドバイスいただけるとありがたく存じます。
よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1c(19mm), pN0
完璧な早期癌です。
つい10年前だったら、文句なしの無治療だったでしょう。
ただ最近はサブタイプの考え方が入ってきて(我々、乳腺外科医も)それに(不本意にも)「縛られてしまう=標準治療をしないと非難されかねない」という状況です。
つまり本音では(抗癌剤は不要だな)と思っても「口に出せない」風潮なのです。
○私であれば、
 トリプルネガティブの場合は(例え予後良好な)アポクリン癌でも「70歳未満なら」抗癌剤をせざるを得ないでしょう。
 しかし、ここに「70歳以上は、術後補助療法の有効性は証明されていない」という要素が加わると、状況は一変します。⇒結論として『無治療』です。(1期だから、何の迷いもありません)
「①先生のお考えでは、抗がん剤を使用しない場合の再発のリスクはどのくらいでしょうか。グレードが不明ではわかりませんでしょうか。」
⇒その通り、グレードが不明なので正確な数字は出せません。
 実際のところ(アポクリン癌ということも考え合わせれば)化学療法をしなくても10%程度だと思います。
「②抗がん剤を投与(100%または60%量)した場合に再発のリスクがどのくらい下がるのでしょうか。Kiが15%と低いと、薬は効きにくいのでしょうか。」
⇒大人しいアポクリン癌だから、殆ど「上乗せなし」と思います。
「③アポクリン癌は予後が良好(再発しにくい)なタイプと、普通(硬癌と同等?)なタイプが混じっていると聞いたことがあるのですが、母の場合は、どちらのタイプかは判別できるのでしょうか。」
⇒判別しようがありませんが(逆に言うと、そんなことを知っても何の意味もありません)
 Ki67=15%だから、予後良好だと推測されます。