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術前細胞診で転移陽性なのに、リンパ節転移陰性

[管理番号:862]
性別:女性
年齢:40歳
 
 

質問者様の別の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の別の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:796「リンパ節転移について」

 
 
先生、いつも返信していただきありがとうございます。
言葉ではありきたりになってしまいますが、田澤先生からお返事をいただけることを、本当に感謝しています。ありがとうございます。
また質問させてください。忙しいのに申し訳ありません。
病理検査の結果が出ました。
ステージ2a
50×25×18(浸潤部23mm)
リンパ節転移 0/9
手術方法 : 乳房全摘、リンパ廓清
ER;J score 3b,PgR; J score 3b,ki67 LI 80%
HER2 陰性(境界域 2+ dish法にて陰性)
異型高度(3点)
分裂像20以上/10HPF(3点)
ly0,v0,核グレードG3
壊死:あり
とありました。
今後の治療として、TC療法(タキソテール、エンドキサン) 4回、その後5年のホルモン療法となりました。田澤先生はどう思われますか。
また、私の病理検査の結果で、ki67が80%というのと、核グレードが3というのがショックでしたが、やはり再発しやすいのでしょうか。
また、分裂像というものはどんなことなんでしょうか。壊死ありということもどんな意味なんでしょうか。(調べてもわかりませんでした)
また私のような状態だと再発率はどのくらいでしょうか。(知るのもこわいですが、知りたいと思います)
私の場合、手術後の痛みなどよりも、精神的な苦痛の方が辛いです。本当に辛くて、不安になります。
先生の経験上、私は治るのでしょうか。教えてください。よろしくお願いします。
お返事頂けたら幸いです。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 結局、リンパ節転移陰性だったのですね。
 今更ですが、無駄な郭清をしたことになります。
 『術前細胞診が偽陽性だった』ということになりますが、やはり「絶対確実で無い限り」は(細胞診に100%の信頼をおかずに)「術中センチネルリンパ節生検」を行うべきでしょう。
 質問者に今更、言っても仕方がないことですが、このブログを読んでもらっている (これから手術にのぞむような方達のために)コメントをしておきます。
pT2(23mm), pN0, luminal B(Ki67=80%), NG3

回答

「今後の治療として、TC療法(タキソテール、エンドキサン) 4回、その後5年のホルモン療法となりました。田澤先生はどう思われますか」
⇒私もTC療法を行います。
 
 Luminal typeですし、リンパ節転移無しなので「アンスラタキサン(ECx4⇒DTXx4)は不要」と思います。
 ただ、「その後5年のホルモン療法」となっていますが、私であればホルモン療法は最初から行います。(TCとホルモン療法を併用してはいけない理由は何らありません)
 
「ki67が80%というのと、核グレードが3というのがショックでしたが、やはり再発しやすいのでしょうか。」
⇒そんなことはありません。
 十分な早期乳癌(あと3mm小さければⅠ期)なので、再発率は低いです。
 「核グレード3」などよりも重要なのはステージなのです。
 
「分裂像というものはどんなことなんでしょうか」
⇒これは「癌細胞を顕微鏡でみて、10視野で何個の核分裂が見られるか?」をカウントしたものです。
 ♯細胞分裂の個数は『癌細胞がどれだけ増殖しているか=癌の増殖スピード』を表しています。
 「転移し易さ」とは無関係であることに注意してください。
 『20以上/10HPF(3点)』を解説すると「10視野で20以上の核分裂像を認めた:スコアは3点」となります。
 
○分裂像は以下のように「核異型のスコア(点数)」と足し算をして「核グレード」を決定する因子となります。
「核グレード」は「核異型の点数」+「核分裂の点数」です。
・核異型 
弱い:1点
中間:2点
★強い:3点
・核分裂 
5個未満(10視野で):1点
5~10個(10視野で):2点
★11個以上(10視野で):3点
・核グレード(NG) 核異型の点数+核分裂の点数
2点、3点 :核グレード1 
4点    ;核グレード2
5点、★6点 :核グレード3 
♯質問者はそれぞれ、★に当てはまり「核グレード3」となったのです。
 
「壊死ありということもどんな意味なんでしょうか」
⇒壊死は「腫瘍内部で癌細胞が死滅した」事を示していますが、これは通常「増殖スピードと相関」します。
 想像してみてください。
 癌が増殖していく過程では、「周囲から血管(腫瘍血管と呼びます)新成を伴いながら」増殖します。(例えて言えば、育ち盛りの子供が栄養を要求するように、血流を要求するのです)
 ここで、「増殖スピードが速すぎて、血管新生が追い付かない場合」はどうなるでしょう?
 「増殖した癌細胞が血流(栄養と酸素)不足」となるのです。そうすると、(表面の癌細胞には血流が届きますが)奥(中心部分)の癌細胞には「血流が行き届かずに、死滅=壊死」するのです。
 これを『腫瘍の中心壊死』といいます。
 典型的な例は「核グレード3の充実腺管癌」で「腫瘍増大が速すぎて、血流供給が追い付かず、中心壊死をする」ケースです。
 
「私のような状態だと再発率はどのくらいでしょうか」
⇒26%となります。(因みにホルモン療法で-15% 更に化学療法の上乗せ効果-13%を行った場合の再発率です)
 
「先生の経験上、私は治るのでしょうか。教えてください」
⇒治る確率の方が、かなり高いです。
 上記に数字が出ている様に4人に3人は再発しません。
 私の経験では、「再発率はせいぜい20%程度」だと思いますが、概ねこの数字(Adjuvant!Onlineより)と矛盾しません。
 
○私は、このQandAでしばしば言っていますが、「Ki67とか核グレード」などにに「惑わされ過ぎ」(トリプルネガティブも同様)です。
 やはり、「ステージが低い」人は「核グレードやサブタイプに関係無く」再発しないのです。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

こんにちは。
以前に、862で質問させていただいたものです。
先生から答えをいただくことができ、本当に感謝しています。
乳癌と告知されてから、先生のQ&Aを毎日読ませていただいています。
先生の的確な、そして沢山の経験からの答えに本当に感謝しています。
文面だけですと、ありきたりになり、伝えきれませんが、心から本当に本当に感謝しています。
お忙しい中申し訳ありませんが、教えていただければ幸いです。
7月に手術を受けました。その後、抗がん剤(TC4回)を終え、今日初めてのゾラテックスの注射とノルバデックス20mgのお薬をもらいました。
その診察の時に、今後、ゾラテックスの注射は何年したほうがいいですか?と質問したところ、5年したほうがいいと言われました。
飲み薬は5年と思っていたのですが、注射は5年と思っていませんでした。
やはりki67の数字が高いので、念のため5年しておきましょうといわれました。
術後の病理検査の結果は
ステージ2a
50×25×18(浸潤部23mm)
リンパ節転移 0/9
手術方法 : 乳房全摘、リンパ廓清
ER;J score 3b,PgR; J score 3b,ki67 LI 80%
HER2 陰性(境界域 2+ dish法にて陰性)
異型高度(3点)
分裂像20以上/10HPF(3点)
ly0,v0,核グレードG3
壊死:あり
でした。
田澤先生も5年のゾラテックスとノルバデックス20mgをすすめますか。
やはり再発リスクが高いのでしょうか。
また、思いの外、注射が痛くて1時間ぐらいジンジンしていたのですが、今後の注射は3ヶ月、もしくは、6ヶ月の注射も可能でしょうか。
それとも、やはり1ヶ月に一度の方がいいのでしょうか。
 
また、余談ですが、忙しい予定の中更新される先生のコラム、楽しく読ませていただいています。
週末になると、次はどんな主題なのか楽しみになります。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
pT2(23mm), pN0, luminal B
私がまず気になったのは結果リンパ節転移無しなのに『腋窩郭清をしている』点で
す。
何故、「センチネルリンパ節生検が為されなかった」のでしょうか?
おそらく「術前画像診断でリンパ節転移が疑われた」からなのでしょうが、本来は
「センチネルリンパ節生検すべき」でした。
無駄な「腋窩郭清」のために(全く不必要な)「有害事象の可能性」があるのです。
「その後、抗がん剤(TC4回)を終え、今日初めてのゾラテックスの注射とノルバデックス20mgのお薬をもらいました。その診察の時に、今後、ゾラテックスの注射は何年したほうがいいですか?と質問したところ、5年したほうがいいと言われました。」
⇒「ルミナールBだから」TC療法の適応があります。(私も全く同意見です)
⇒「化学療法閉経から回復した患者さんにはLH-RHagonistが有効」(SOFT試験)からは(まだ再開した訳ではなさそうですが、年齢的には再開する可能性が高いので、予めLH-RHagonistを開始しておく」という考えは「有り」です。
 
 ○更に「LH-RHagonistの至適投与期間」については諸説ありなすが(以前は何の根拠もなく2年から3年と言われてきましたが)St.Gallen2015では『5年継続という意見が過半数を占めていた』のです。
 
「ki67の数字が高いので、念のため5年しておきましょうといわれました。」
⇒これは「履き違えて」います。
 「Ki67の数値」はあくまでも「細胞分裂指数=抗がん剤の効き易さ」であり、「ホルモン療法を強くやるか?」とは無関係です。
 
「田澤先生も5年のゾラテックスとノルバデックス20mgをすすめますか。」
⇒私であれば、「TC終了後に」月経が再開するか?確認して「再開兆候があれば」
開始します。
 ただ、冒頭のコメントにあるように、「40歳だし、月経再開を予め予測して、先回りしてLH-RHagonist開始」は決して「悪い選択」ではありません。
 
「やはり再発リスクが高いのでしょうか。」
⇒そんなことはありません。
 「1期に限りなく近い2期」であり、「ルミナールタイプ」なのです。
 
「今後の注射は3ヶ月、もしくは、6ヶ月の注射も可能でしょうか。それとも、やはり1ヶ月に一度の方がいいのでしょうか」
⇒「長期投与でも可」です。
 初回は「1カ月」製剤で試しますが、それ以降は「長期製剤」でOKです。