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手術後の治療方針についてなど

[管理番号:2591]
性別:女性
年齢:54歳(閉経前)
 
田澤先生
乳がん手術の入院中に、先生のサイトにたどり着きまして以来、先生のコラムとQ&Aを拝読しております。
拝読させていただくにつけ、「術後のドレーンなし」、
「すぐに腕が自由に動かせる」など、私の受けた手術と大きな違いがあり、非常に驚きを感じています。
(私はドレーン排液が減らず、2週間入院しました。
また、リンパ廓清の影響か腕の可動域も完全には戻らない感じです。)
そんなこともあり、術後の治療方針について、是非、先生のご意見をお伺いしたいと思っています。
お忙しいところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
 
【症状】
昨年11月の健診時のマンモグラフィーにて右乳房に石灰化が見つかり、○○医大の乳腺外科を受診しました。
(前年の健診時には触診のみで、特に異常は見つかりませんでした)
エコー、MRIの検査を受けたところ、画像診断では左側も「癌を疑う」という所見となり、針生検を受けました。
その結果、右側は非浸潤癌、左側は癌ではないが「前癌状態」(大きさ等のデータははっきり聞いていません)と
いうことで、今年2月に右側のみ全摘出、センチネル生検の後、リンパ郭清の手術を受けました。
手術と同時に再建を行っています。
 
手術後、下記のような病理結果が出ております。
HER2に関しては、2+ということで、FISH結果待ちとなっております。
 
【質問内容】
現在、HER2の結果待ちですが、主治医からは入院中に「病理の結果が少し出て来ているけど、抗がん剤投与をおこなうことになると思う」と言われました。
まだ具体的に何を使うという話は聞いていません。
そこで、現在わかっている病理結果に加えてHER2陰性の場合と陽性の場合で、術後の治療について(何をどのくらいの期間投与するか等)、先生のご方針をそれぞれご教示いただけないでしょうか?
いずれにしても抗がん剤は避けられないでしょうか?
(研修など人前で話をする仕事をしており、副作用がどの程度出るかわかりませんが、体調管理の面などで、できることなら抗がん剤を使いたくないという気持ちがあります)
 
病理結果の話の際に、主治医から「癌が元気なので(進行しやすい?)」というようなニュアンスの言葉が出たのですが、どのあたりでそのような診断となるのでしょうか?
また主治医からは「病理の診断はあくまで病理のドクターの判断なので、自分の判断とは少し違うかもしれない」とも言われました。
 
手術で病巣を見ている執刀医と、検体だけを見ている病理医で見解が異なるということもありますでしょうか?
また、抗がん剤の使用は、手術をしていない左側の「前癌状態」のものも見据えての治療ということになりますか?
 
左側は、手術前に念のためということで、2度目の針生検をおこない、その結果も「癌ではない」というものでしたが、今後、この左側に関しては、どのように経過観察していくべきでしょうか?
いろいろお聞きしてすみません。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
 
【検査結果】
Invasive ductal carcinoma, Scirrhous carcinoma, right breast, pT2pN1a(sn)
組織学的には、浸潤性乳管癌が認められます。
細胞外粘液が目立つ成分も混在しています。
面疱型を含む広範な乳管内進展を伴っています。
周囲の乳管内には所々に石灰化が見られます。
腫瘤の大きさ:
全体(浸潤部分+管内性)7.8×6.2×2.0 cm
浸潤部分のみ(多発の場合の最大)3.3×2.5 cm
Nuclear atypia Score:2
核分裂数:3個/10HPF   Score:1
核グレード:Grade1
浸潤度:f リンパ管侵襲:ly+ 静脈侵襲:v+
断端:皮膚側(-) 筋膜側(-) 側方(-)
リンパ節転移(-)Total:(0/3)
LevelⅠ(0/3)、LevelⅡ(0/0)
Sentinel LN:1/2 [(CP16-01745)]
規約分類/UICC 7th:pT2pN1a(sn)
ER:J-score3b(陽性細胞率50%以上)
PgR:J-score3b(陽性細胞率50%以上)
随伴病変:Mastopathy
(規約第17版)
特染 ブロック番号 #19
腫瘍部
ER 0   : 5%
ER 1+  :15%
ER 2+  :40%
ER 3+  :40%
非腫瘍部 陽性細胞:有
PgR 0   :10%
PgR 1+  :10%
PgR 2+  :20%
PgR 3+  :60%
非腫瘍部 陽性細胞:有
MIB-1 index:20.2%(442/2193)
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
 
「私はドレーン排液が減らず、2週間入院しました」
⇒大変でしたね。
 ただ、私もドレーンを入れていたころ(そんなに昔ではありません)には、「ドレーン量」には悩まされていたものです。
 それで、1カ月位入院されていた方もいらっしゃいました…
 ○私はドレーンを入れなくなってから「2年半」ほど経ちました(この2年半での執刀件数は400件以上は優にあります)が、ドレーンの必要性は全く感じません。 
 私の中ではすっかり常識となってしまい、唯一(形成外科と一緒に行う)「一次再建」の際には、ドレーンを入れて「1週間入院(6泊7日)」としているのですが、これが非常に長く感じます。(心なしか、暇そうで不憫に感じます)
 ♯普段は(「温存で2泊3日」「全摘で3泊4日」)ですが、この位が丁度いいですね(乳癌の患者さんは本来、健康な方なのです)
 
 ○ドレーンを入れるという発想は、もともと「消化器外科領域」では「腹膜炎などの強い炎症性疾患での手術」の際に「膿などの汚染物質を体内に貯め込まずに外へ出す」という治療的なものです。
 本来、「極めて清潔な手術」である「乳癌の手術」で入れるドレーンは、それとは全く「意図」が異なります。
 出血やリンパ液など「手術時に漏らさないような努力」をすれば必要無い筈なのです。
 消化器外科的発想である「取るものは取って、あとはドレーンを入れておけ」的なアバウトな手術ではなく、「出血やリンパ液を漏らさない様な精度」を追求すべきなのです。
 
pT2(33mm), pN1, NG1, luminal type(Ki67=20.2%)
 
「現在、HER2の結果待ちですが、主治医からは入院中に「病理の結果が少し出て来ているけど、抗がん剤投与をおこなうことになると思う」
⇒HER2陰性であっても「抗ガン剤を使うつもり」なのでしょうか?
 (もしもHER2陰性ならば)luminalA(Ki67=20.2%)なので、「リンパ節転移1個」では抗がん剤が必要とは思いません。(St. Gallen 2015でのvotingでは、luminal Aでの化学療法の適応は「リンパ節転移4個以上」が最も多い意見でした)
 ♯また、SABCS(2015)で発表されたDBCG77B試験の解析では(例えリンパ節転移陽性であっても)「luminalAでは、化学療法による上乗せは得られない」と結論づけられています。
 
「現在わかっている病理結果に加えてHER2陰性の場合と陽性の場合で、術後の治療について(何をどのくらいの期間投与するか等)、先生のご方針をそれぞれご教示いただけないでしょうか?」
⇒①HER2陰性ならば、 タモキシフェン単独とします(化学療法はしません)
 ②HER2陽性ならば、当然「抗HER2療法」を行います。
 1.Golden standard : アンスラサイクリン(EC/AC ♯FECはしません)4回(3週間に1回を4回:3カ月)⇒ハーセプチン+ドセタキセル4回(同様に3カ月)⇒ハーセプチン単剤14回(3週間に1回を14回:9カ月)ではなく、
 2.TC+HER : TC(ドセタキセル+エンドキサン)+ハーセプチン4回(3週間に1回を4回:3カ月)⇒ハーセプチン単剤14回(3週間に1回を14回:9カ月)
 3.wPTX+HER: パクリタキセル+ハーセプチン12回(毎週投与を12回:3カ月)⇒ハーセプチン単剤14回(3週間に1回を14回:9カ月)
 とありますが、質問者はハイリスクではないので(私なら)1ではなく、2か3を提案します。
 
「いずれにしても抗がん剤は避けられないでしょうか?」
⇒HER2陰性では抗がん剤は不要です。
 HER2陽性ならば、是非「上記抗HER2療法」をすべきです。
 
「主治医から「癌が元気なので(進行しやすい?)」というようなニュアンスの言葉が出たのですが、どのあたりでそのような診断となるのでしょうか?」
⇒ここが私には「全く理解できない」ところです。
 「核グレードは1」だし、「Ki67=20.2%」だし何を根拠に言っているのか?全く不明です。
 
「手術で病巣を見ている執刀医と、検体だけを見ている病理医で見解が異なるということもありますでしょうか?」
⇒これは「断端の判断」などで、あります。
 
「また、抗がん剤の使用は、手術をしていない左側の「前癌状態」のものも見据えての治療ということになりますか?」
⇒全く無関係です。
 
「左側は、手術前に念のためということで、2度目の針生検をおこない、その結果も「癌ではない」というものでしたが、今後、この左側に関しては、どのように経過観察していくべきでしょうか?」
⇒これは実際の病理組織結果によりますが…
 この「前癌状態」という表現が問題です。
 私の「QandA」を注意深く読むと、「如何に多くの乳腺外科医が誤った知識で診療しているか」お解りになることと思います。
 この「前癌状態」なるものが、もしも「ADH」ならば、それは(採取組織が小さいだけで)「中身は癌細胞そのもの」であり、その場合には「外科的生検が必須」です。
 ♯本来「ADH atypical ductal hyperplasia」は、外科的生検で「病変全体を評価した結果でも」小範囲(≦2mm)であった場合に『のみ』用いるべきなのです。
 もしかすると、その「前癌状態」なるものは「fea flat epithelial atypia」かもしれません。
 その場合にも、その病変の周囲に癌が存在する可能性も高く「外科的生検」が考慮されるべきです。
 ○いずれにしても2回針生検をして、(それだけで)経過を見ていることは(私からみると)リスクのある診療に思えます。
 
 ○仮に私が診療をするとすれば…
 まず、(申し訳ありませんが)大学病院の医師の針生検の結果を鵜呑みにして、私が診療をすすめることはありません。(針生検の精度の問題があります)
 とにかく、私自身がマンモトーム生検で病変をかなり広範囲に採取します。
 広範囲にマンモトーム生検で組織採取を行えば、かなりの精度で確定診となりますが、「それでもADHやfea」となれば、迷うことなく「外科的生検」を推奨します。(ただ、最終的に外科的生検を受け入れるのかは、患者さん本人の意志を尊重します)
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
 

先日は、詳しく教えていただきまして、ありがとうございました。
名乗るのも忘れて質問してしまい、たいへん失礼いたしました。
あらためまして、○○と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
 
先生のご回答を拝見して、本当にここでのQ&Aは、セカンドオピニオンと同じ価値があると思いました。
勿論、画像などをご覧いただいているわけではありませんが、知りたいことをしっかりとご教示いただき、たいへん感謝しております。
 
そこで、癌ではないと言われている左側の検査も含めて、今後の治療を田澤先生のところで受けたいと思いますが可能でしょうか?
(東京都内在住ですので、通院時間等の問題はありません。)
 
どうしても、今のドクターのところでは、病理結果も「本当は患者さんには渡さないんだけど」と言われたり(無理にもらいましたが)、何がどうしてこの治療になるのかの説明が少なく、医療そのものがブラックボックスに入っているような感じがして不安が残ります。
また、私は当初、今流行りの近藤誠さんの著作なども読み漁り、
闇雲に「抗がん剤は嫌だ」と考えていたのですが、
田澤先生のQ&Aを拝読するにつれ、抗がん剤は必要なときには使うが、必要なければ使わないということや、
その根拠となるデータについてもいろいろと整理して考えられるようになりました。
そのような意味でも、今後の診療を先生にお願いしたいと思っています。
 
まだ現在通院中の病院で外来日がありますし、紹介状の依頼などがまだですので、準備が整ってからとなりますが、先生の診療を受けられたらと思っております。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
メール内容は了解しました。
 
術側の治療に関しては「FISH結果次第」だと思います。
HER2陽性の場合の「抗HER2療法は絶対的なもの」と私は考えます。FISH-であれば、何ら問題ありません。
問題はむしろ「対側」でしょう。「前癌病変」なる解釈は、あまりにもリスクがあります。
きちんとした診療を望むのであれば「当院への転院」は妥当な判断です。

 
 


 

質問者様から 【結果3 副作用の少ない癌治療】

性別:女性
年齢:57歳
病名:乳癌(ルミナールA)
田澤先生の診察:[診察あり]
田澤先生の手術:[手術あり]

大学病院から転院して、対側の乳癌を見つけていただき、手術していただきました。
その後、骨転移を起こした後も、放射線科との素早い連携と抗がん剤治療で、今は画像上消失まで来ることができ、田澤先生に本当に感謝しています。

抗がん剤治療は不安でしたが、先生が副作用と効果のバランスを第一に考えてくださったおかげで、耐えられないような副作用もなく、抗がん剤治療を受けることができました。
これからも、よろしくお願いいたします!

<Q&A結果>