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トリプルネガティブ(ステージ3)の治療について。

[管理番号:6357]
性別:女性
年齢:35歳
田澤先生、初めまして。
先日、乳がんの告知~病状の説明を受けてからとても不安な時間を過ごしています。
情報を調べているうちに乳がんプラザのことを知り、他の患者さんたちと先生の質問と回答を拝見させて頂いております。
日夜大変お忙しいことと察しますが、このような場を設けて下さっていることを本当にありがたく感じています。
現在、担当医師から複数提案された治療の選択を決めきることが出来ず、
先生のご意見を伺いたく相談をさせて頂きました。
【私の情報について】
・35歳 女性
・4月上旬に触診、エコー、マンモ、細胞診を行い、4月中旬にがんの告知。
 左乳房の乳首やや上側に2.5cmのがん、左腋窩リンパに数個のがん(レベル2)がありました。
・ホルモン感受性なし、HER2陰性、ki-67は50%以上(詳細の数値は不明)、グレード2。
トリプルネガティブの診断でした。
・その後、PET・CTなどの検査によって、胸骨傍リンパにもがんがあり、乳がんのステージは3Aもしくは3Bだろうとの事でした。
担当医師からの説明では、術前化学治療を半年ほど行い、その後に手術で左乳房の全摘と腋窩リンパ郭清(胸骨傍リンパは手術しない)、手術後に放射線治療(左乳房・脇・胸骨傍リンパに照射)を行うとの方針です。
がんの増殖スピードが速いため、当初5月9日から抗がん剤の治療を開始する予定でしたが、5月(上旬)日に医師と面談を行った際に標準治療(タキサン系、アンスラサイクリン系)をすぐ開始する案の他に、トリプルネガティブを対象とした治験を2つ案内して頂きました。
①標準治療終了後にオラパリブを処方する治験。
(アストラゼネカ 簡易試験名 OlympiA)
※私がBRCA遺伝子に変異があるかは、まだ未検査の為わかりません。
②エリブリン、カルボプラチン、カペシタビンなどを使う治験。
〇〇大学主催の治験 JBCRG-22
JBCRG-22に、予後がより良くなる可能性を感じて参加を検討しているのですが、治験に参加するための検査や準備のために、治療開始が早くても3週間程度遅れることになるそうです。
進行が速いがんであることを感じているため、治療開始が遅くなることが不安です。
担当医師からは、「治験に参加することで3週間の間にがんの成長が進んだとしても、抗がん剤が奏効した場合は十分に後れを打ち消すことができる。
だから3週間の遅れ程度ではその後に影響はない」とのことでした。
以下、質問です。
①JBCRG-22の治験参加により治療開始が遅れる事について。
私の病状や進行の程度において、本当に治療開始を3週間遅らせることにデメリットはないのか? もちろん、治験は自分の為でなく「今後の医学に貢献したい」という意思で参加を決めるものだと思いますが、もし抗がん剤が有効に効かなかった場合や転移が進んだら?という事を考えると、すぐに治療を開始すべきでは?という思いがあって決断できません。
先生はいかが思いますでしょうか?
②エリブリン、カルボプラチン、カペシタビンなどの付加効果について。
上記治験薬について、現在のステージ・状況で使用できるかもしれないことに治験参加のメリットを感じていますが、先生はどうお考えでしょうか?
③胸骨傍リンパのがんについて。
化学療法後の手術によって、乳房の原発巣と腋窩リンパのがんは除去の予定ですが、
胸骨傍リンパのがんについては手術での除去による負担(胸骨・肋骨の切除など)以上のメリットがないため、化学療法と放射線治療のみで対処するとの説明でした。
負担の大きな手術には抵抗がありますが、果たして本当にそれで良いのか?
抗がん剤・放射線治療で胸骨傍リンパのがんを完全に除去できなかった場合は、手術、もしくは他の方法をあたってでも胸骨傍リンパのがんを除去しきるほうが良いのではないか?
④抗がん剤の処置が手術に先行することについて。
先生のご回答を拝見していると、そもそも乳房の温存を希望していなければ、化学療法を行う前に手術を先行することが基本と思います。
私は治すこと、可能な限り転移や再発のリスクを抑えることを優先したいので、温存は希望していません。
 その場合は、やはり手術を先行するべきでしょうか?
それとも、手術で対応することができない胸骨傍リンパにがんがあることも考えると術前に化学療法を行うことが良いのでしょうか?
5月(上旬)日に予定している担当医師との次回面談時に治療の方針を決めなければならず、只々気持ちばかりが焦っています。
拙い文章で申し訳ありませんが、先生のお考えを教えて頂きたく思います。
ステージ3、トリプルネガティブ、再発リスク、5年生存率などの情報を調べるほど、不安な気持ちが大きくなります。
まだ小さな子供たちもおり、なんとしてもがんを治したいです。
何卒、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
重要なポイントは
1.術前抗がん剤は(抗癌剤の効果が無かった際に)「手術不能に追い込まれる」リスクがある。(もしも参加するなら、責任をもって「手遅れ=手術不能」とならないように主治医自ら3週間に1回のエコーが行われることを確認すべき)
2.臨床試験は「あくまでも新しいエビデンスを得るため」に行うものであり、患者さん本人ではなく「未来の患者さんのために」という意思のもとに行うべきものである。
3.抗癌剤は「術前」に行っても「術後」に行っても予後は一緒
☆私は、其の主治医のように「術前抗がん剤ありき」という考えには全く賛成しません。
「抗がん剤が奏効した場合は十分に後れを打ち消すことができる。だから3週間の遅れ程度ではその後に影響はない」
⇒「奏効した場合」という、この文章に説得力があるのだろうか??(とても不思議です)
「もし抗がん剤が有効に効かなかった場合や転移が進んだら?という事を考えるとすぐに治療を開始すべきでは?という思い」
⇒その通り。
 ただし、質問者には重要な観点が欠落しています。
 「抗癌剤は効くとは限らない」(上記1) 
 もしも術前抗がん剤しないなら、上記1については細心の注意を払うようにしましょう。
「先生はいかが思いますでしょうか?」
⇒私は「効くのか効かないのか?」解っていない(だから、試験するわけですが)ことに「大丈夫だから、やりましょう」などと無責任に勧めることはありません。
 (温存目的でない)術前抗がん剤自体ににメリットがあるとは思っていませんし、
(更に)臨床試験に入れるには「後の患者さん達のために協力して欲しい」という言い方をしなくては、(本来)間違いだと思います。(まるで「効果があるから大丈夫だよ!」みたいな言い方は…)
「先生はどうお考えでしょうか?」
⇒純粋に、医学的に興味はありますが…
 
 ☆誤った理解をしてもらいたくないのですが、「転移再発に効果があること」と「術後補助療法(再発予防)で有効(差が出る)であること」とは、レベルが違うのです。
「抗がん剤・放射線治療で胸骨傍リンパのがんを完全に除去できなかった場合は、手術、もしくは他の方法をあたってでも胸骨傍リンパのがんを除去しきるほうが良いのではないか?」
⇒今から、そんなことを考える必要がありません。
 まずは手術+術後抗がん剤+PSへの照射をしてから、その際に考えるべきことです。(おそらく画像上は消失します)
「温存は希望していません。 その場合は、やはり手術を先行するべきでしょうか?」
⇒勿論そのとおり。
 (全摘するのであれば)術前に抗癌剤をする利点はありません。(むしろ、「抗癌剤が無効」であった場合の「手術不能に追い込まれるリスク」があるのです)
「胸骨傍リンパにがんがあることも考えると術前に化学療法を行うことが良いのでしょうか?」
⇒全く無関係
☆何らかの理由で術前抗がん剤をすることに決めた場合には、必ず「手術不能となるリスクを回避するため」3週間に1回の(主治医自らの)超音波を要求しましょう。
 それが叶って、ようやく「リスクは最小限にできる」のです。