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遠隔転移とリンパ節郭清について

[管理番号:5779]
性別:女性
年齢:87歳
田澤先生、はじめまして。
今月、母が乳がんステージ2bと診断されました。
十数年前にも反対側に乳がんができ手術しているので
本人家族ともに、なんでまた、、とやはりショックでした。
今は比較的元気な母ですが高齢なので、なるべく心身ともに負担の少ない治療を目指しています。
そう言った意味で、正確な診断、より負担の少ない手術のためのセカンドオピニオンを探しており、先生のサイトへたどり着きました。
情報が多彩で、すごく勉強になっています。
お忙しい中恐縮なのですが、
母の件についていくつか質問させていただけると助かります。
まずは現状と経過を記載させていただきます。
性別:女性
年齢:87歳
<病歴>
・十数年前に乳がん(ステージは1か2)で温存手術+リンパ郭清+放射線+
ホルモン療法を実施現在まで再発無し
<今回の乳がんの診察経緯>
・健康診断で、反対側にしこりがあり「乳がんの疑い」で地元の病院で再検査
<検査一覧>
・CT検査を実施
・マンモグラフィー検査を実施
・乳房のエコー検査
<検査後の診察1回目>
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乳腺外科 医師からの話
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・CT、マンモグラフィー、エコー検査の結果、乳房の乳頭部
 近く上に3センチ位のしこりを確認
・同じ側のリンパにも2センチ位のしこりが1つ確認された
・乳がんが疑われるので乳房の生検+リンパの細胞診検査を行いましょう
<同日に追加検査>
・乳房の生検+リンパの細胞診検査
<診察2回目>
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乳腺外科 医師からの話
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・生検と細胞診の仮結果(サブタイプ後日)で乳がんと確定
・グレード3、浸潤性ありと判定
・進行スピードが速い良くない乳がん
・リンパの細胞診結果も癌細胞でリンパ転移あり
・ステージ2の真ん中くらい
・十数年前の乳がんの再発(転移)ではなく、新たな乳がん(原発)
(理由は、反対の乳房に遠隔転移することは滅多にないため)
・CTなどで肺には転移はなさそうだし、現状の遠隔転移はなさそう
・医師としては、今回の結果を受け、全摘手術を勧める
・3cmの乳がんは乳頭に近く、部分切除だとほぼ中央直径6cmを乳房を含めて切除することになり、中央がくぼんだドーナツ型の乳房になってしまい見た目も悪いので全摘がオススメ
・術後の抗がん剤治療は副作用があるし、年齢的にも体力奪うのであまりお勧めしていない
・ホルモンが効くタイプならホルモン療法にする(サブタイプ結果を見てから考える)
・リンパ郭清手術をして、脇リンパの癌が3つ、4つ以上あれば、術後の放射線を考える(手術後に相談)
・リンパ郭清をすると、今後点滴が出来なくなる。
・前回の乳がんでリンパ郭清手術をした方の腕がすでに点滴できないので、今回の術後の点滴は脚から針を入れるか、胸にCVポートを埋めて点滴用穴を作っておく方法がある
・乳房の再建術については、希望があれば筋肉の下に袋を入れ後日シリコンを入れる術式を提供している。
・温存か全摘か、再建するかどうかの判断はお任せする
・遠隔転移はないと思うが念のため少しきになる胆管のエコー検査を追加
<追加検査>
・心臓エコー検査(以前手術したため)
・腹部(胆管の影)エコー検査
→上記2検査の診断結果は今週金曜に聞く予定です
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ここまでが現状で、今週金曜にサブタイプの検査結果を聞きに行きます。
<田澤先生への質問>
◇遠隔転移がないことを願っているので、いくつか質問させてください。
・そもそも今回は十数年前の乳がんが反対側へ再発(遠隔転移)した可能性は考えなくて良いでしょうか?
・上記の検査項目で遠隔転移の有無は十分わかると思って良いでしょうか?
(最近母が首が痛いと言い出したので少し心配です)
◇腋窩郭清の負荷を母がかなり気にしているので質問させてください。
・母の脇のしこりは細胞診で「がん」と診断されたので、センチネルリンパ節生検はしないで最初から切除&郭清すべき、なのでしょうか?(高齢なのでなるべく体への負荷を下げたいのと、術後に点滴ができない状態は避けたいと思っています)
先生のQAに以下の記述がありました。
ーーー
●「リンパ節郭清をレベルⅢまでやる」ことが後遺症と繋がる訳ではありません。
 問題となるのは以下の2点です。
 ①レベル1などで、転移したリンパ節が「正常なリンパ網」を破壊している場合
 ②稚拙な手術手技で、本来不要な「リンパ網の損傷」をする場合
 つまり、「リンパ節か術者か」どちらかが「リンパ網を破壊しない限り」レベルⅢまで郭清しても「全く問題」ないのです。
ーーー
→ということは、術者がうまければ、母の2センチの腫瘍とリンパ節切除を万が一レベルⅢまで郭清しても、術後の点滴は腕からできる(転移したリンパ節が「正常なリンパ網」を破壊していなければ)という理解で正しいでしょうか?
そして他の医療サイトに以下のような記述があり、腋窩郭清時にはリンパ菅を切ることが前提(普通)になっているように感じたのですが、もしかして「腋窩郭清=リンパ管切断=点滴不可」が日本医療の標準ということでしょうか?
(地元の先生も術後は点滴できないと普通に言っていたのでリンパ菅切ること前提のようでした)
ーーー
医療サイトから抜粋・・・
<リンパ漏> 腋窩郭清をしたときには切断されたリンパ管からリンパ液が漏れ、脇の下に溜まります。
そのためリンパ液を吸引するドレーンという管が挿入されます。
ドレーンを抜いたあとも脇の下にリンパ液が溜まるため、外来で注射器で抜くことがあります・・・
ーーー
・以前の乳がんでお世話になった東京の病院(今検査をしている地元病院とは別です)にセカンドオピニオンをお願いしてリンパ手術のことも聞こうかと考えているのですが、「腋窩郭清=リンパ管切断=点滴不可」が標準なのであれば、聞くだけ気まずくなるのでは?最初から田澤先生に診てもらったほうがいいの?など、ぐるぐる迷っております。
・そこで最後にもう一つだけ質問なのですが、田澤先生の診察はとても混んでいるとサイトに書いてありました。
そんな中でも、まずはセカンドオピニオンとして田澤先生に診察していただき、その後手術をお願いするかどうか考える、というお願いは可能でしょうか?もし失礼な質問でしたら申し訳ありません。
**以下、生検と細胞診データの写しです。
すみませんがこの部分はサイト掲載
なしでお願いできると助かります**
ーーー以下乳房のしこりの生検データーーー
【組織診報告書】
診断:
Adequate specimen. malignant(invasive ductal carcinoma). breasr, CNB
所見:
乳腺CNBが3本提出され、全てに腫瘍が認められます。
腫瘍は充実性の胞巣を
形成するinvasive ductal carcinomaです。
核グレード3(異型スコア3点、分裂像スコア3点)
ーーー以下リンパのしこりの細胞診データーーー
【細胞診報告書】
推定組織像:
適正:class V
malignant cells are seen
adenocarcinoma pattern
所見:
血液を背景に多数のatypical cell(異型細胞)、をみとめます。
大小不同、核は類円形で腫大、クロマチン増、核小体(+)のadenocarcinoma
pattern(腺がんパターン)のmalignant cell(悪性細胞)です。
乳腺のmetaに矛盾しません。
====================
以上です。
お返事を心待ちにしております。
よろしくお願いします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
まず根本的な考え方が私と、その医師とは「かけ離れ過ぎて」いて参考にはならないかもしれません。
87歳という年齢で、私なら「術後補助療法は一切しない」という考え方そします。
☆80歳代になると、結構「本人や家族」から「この歳で手術するの―? 薬で何とかならない?」的な反応をされることが多々あります。
 そんな際に私は、『乳がんの治療で最も楽なのは手術です』『手術をしてください。そのかわりに、それで治療は終わりです。放射線もホルモン療法もしません。
(そもそも80歳代に術後化学療法など、ありえません)』
☆☆手術に関して
 私なら… 「乳房全摘+(腋窩リンパ節は)明らかに転移しているリンパ節のみ郭清」とします。
  (87歳なら)「10年後、20年後の再発予防よりも、可能な限りQOLを重視した手術」そうあるべきです。(そのようにすれば、腕の浮腫等起こらないでしょう)
「・進行スピードが速い良くない乳がん」
⇒こんなことを言うようでは…
 87歳の患者さんに「そんなことを言う」ようでは…(センスを疑います)
「・十数年前の乳がんの再発(転移)ではなく、新たな乳がん(原発)(理由は、反対の乳房に遠隔転移することは滅多にないため)」
⇒これは100%正しい。
「・CTなどで肺には転移はなさそうだし、現状の遠隔転移はなさそう」
⇒いちいち、CT撮るか??
 やるべき治療は決まっているのだから、余計な負担を高齢者にかけるな!!(と、言いたい)
「・術後の抗がん剤治療は副作用があるし、年齢的にも体力奪うのであまりお勧めしていない」
⇒「あまり」どころか、(術後の抗癌剤は)絶対に行ってはいけない治療です。(どうも、主治医のセンスを疑ってしまいます)
「・ホルモンが効くタイプならホルモン療法にする(サブタイプ結果を見てから考える)」
⇒私であれば、ホルモン療法も勧めません。(本人や家族が希望すれば、勿論行います)
「・リンパ郭清手術をして、脇リンパの癌が3つ、4つ以上あれば、術後の放射線を考える(手術後に相談)」
⇒??
 治療方針に「年齢の考慮がない」この主治医が心配になります。
 どう考えても、(術後補助療法目的の)放射線の適応はありません。

「・リンパ郭清をすると、今後点滴が出来なくなる。」

⇒そういう「負担が起こらない様な」手術を行うべきです。
「・乳房の再建術については、希望があれば筋肉の下に袋を入れ後日シリコンを入れる術式を提供している。」
⇒この主治医の頭の中は???
 87歳に「全摘同時再建の話」をするか???
 全く適応はありません。(術後落ち着いたところで再度考えましょう)
「・遠隔転移はないと思うが念のため少しきになる胆管のエコー検査を追加」
⇒全く無駄!!
 何でもかんでも検査すれば良いというのは(いいように聞こえるが)「(実は、自分の頭の中で物事を考えずに)器械的にこなしている証拠」です。
「今回は十数年前の乳がんが反対側へ再発(遠隔転移)した可能性は考えなくて良いでしょうか?」
⇒100%ありえません。
「・上記の検査項目で遠隔転移の有無は十分わかると思って良いでしょうか?」
⇒ハッキリ言って
 「やり過ぎ」です。
 物事の本質に立ち返りましょう。
 今必要なことは何なのか?
 それは(解っている)「乳腺の腫瘍と(転移している)リンパ節を切除すること」それだけです。
 ☆少し厳しく聞こえるかもしれませんが…
  やはり、将来「数十年ある」若い人と87歳で「全く同一のことを行う」ことは誤りなのです。(その点はご理解ください)
「母の脇のしこりは細胞診で「がん」と診断されたので、センチネルリンパ節生検はしないで最初から切除&郭清すべき、なのでしょうか?」
⇒センチネルリンパ節生検の適応外です。
「高齢なのでなるべく体への負荷を下げたいのと、術後に点滴ができない状態は避けたいと思っています」
⇒通常の郭清ではなく、「転移しているリンパ節(と、その周囲のみ)を綺麗に採ってあげる」ような「適切な手術」をすべきです。
○(何度もいうようですが)10年後の再発リスクよりも、今後10年のQOLの方が「年齢的に優先する」そう思いませんか??)
「ということは、術者がうまければ、母の2センチの腫瘍とリンパ節切除を万が一レベルⅢまで郭清しても、術後の点滴は腕からできる(転移したリンパ節が「正常なリンパ網」を破壊していなければ)という理解で正しいでしょうか?」
⇒正しいですが…
 そもそも87歳の患者さんに「レベル3まで郭清する」という考え自体、誤りです。
「まずはセカンドオピニオンとして田澤先生に診察していただき、その後手術をお願いするかどうか考える、というお願いは可能でしょうか?」
⇒勿論、可能だし(全く)構いません。
「失礼な質問でしたら申し訳ありません。」
⇒全く失礼ではありません。
 ただ、正直な話…
 私の手術レベルは全々違います。
 患者さん自身のことを思うのなら、当院で手術すべきでしょう。(87歳に「下手な」腋窩郭清が行われて、「無駄に」2週間も入院させることは、忍びない思いなのです)