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ルミナルB・ステージ1抗がん剤について

[管理番号:5416]
性別:女性
年齢:45歳
本年5月に右胸温存手術をしました。
最近このHPにたどり着き拝見し大変参考にさせていただいています。
在薬物治療中ですが抗がん剤の選択についてご教示願います。
本年5月 右胸温存手術
浸潤性乳管がん
大きさ 15mm
センチネルの結果、リンパ節管・血管への入り込みなし、リンパ節転移マイナスだがごくごく微少な細胞の入り込みはあり
petによる画像上の転移なし
エストロゲン受容体 70% 強陽性
HER2タンパク 陽性
Ki67 35%
グレード2
現在抗がん剤FEC100を4クール終えたところです。
この後、更にタキサン系の抗がん剤4クールとハーセプチン18回(1年)+ホルモン治療5年+放射線照射を予定していますが、担当の先生よりタキサン系の抗がん剤はやらなくてよいかも、という提案がありました。
当初は再発リスクが少しでも下がるのであればできる治療はできるだけやろうと考えていましたが、どうしたものかと悩んでいます。
担当の先生はタキサン系の抗がん剤をしたとしても上乗せ効果は数%だしがんの大きさ等を考えると過剰かと思うとのことでした。
下記についてご教示お願いいたします。
①タキサン系の抗がん剤の上乗せは必要か?
②やった場合とやらなかった場合では再発率はどれだけ変わってくるのでしょうか?(数%とは5%以下という認識でよいのでしょうか)
数値やデータ等、詳細でなく申し訳ありません。
ご教示よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
抗HER2療法の歴史の話をしましょう。
もともと化学療法の流れは
1.アンスラサイクリン前の時代(CMF)
     ↓
2.アンスラサイクリンの時代(CEF, FEC)
     ↓
3.アンスラ+タキサンの時代(EC+タキサン)
     ↓
4.非アンスラサイクリンの時代(タキサン)
大まかに上記となります。
ここで現時点でも3(アンスラ+タキサン)が最強である(4との直接比較はなし)
という認識は変わらず、「リスクが低い場合には3ではなく、4でいいのでは?」という状況です。
抗HER2療法は、(化学療法の歴史の中では)比較的新しい治療なので最初からハーセプチンと組み合わせる抗癌剤は(スタンダードが)3でした。
つまり抗HER2療法といえば(唯一の選択肢として)「アンスラ+タキサンと組み合わせる」だけだったのです。
そこに、現在「低リスクには、4(非アンスラサイクリンの時代)で、いいんじゃね?」的発想が押し寄せ、さまざまなエビデンスが確立されてきています。(やはり、3と4の直接比較はありません)
前置きが長くなりましたが…
質問者のケースでは(最初に提案されたのは)スタンダードである「アンスラ+タキサン」だったのが、急に「タキサンは止めようか?」と提案されている状況と言えます。
抗HER2療法は(もともと)心毒性のある薬剤同士である「アンスラとハーセプチンは(同時)併用はできない」という認識もあり、「アンスラサイクリンとタキサンどちらか一方なら、どちらと組み合わせるか?」といえばタキサンと組み合わせることが多かったのです。
現状としては
1.スタンダードレジメン
 アンスラ+タキサン+ハーセプチン
2.(低リスクレジメンとして)非アンスラサイクリンレジメン
 TC+HER
 weeklyPTX+HER
 TCH
の4種類が存在しますが、(質問者のように)「アンスラサイクリンのみ」というのは、イレギュラーと言えます。
「①タキサン系の抗がん剤の上乗せは必要か?」
⇒冒頭にコメントした通りです。
 抗HER2療法として「非アンスラサイクリンレジメン」は一般的になりつつありますが、「非タキサンレジメン」はイレギュラーです。
 その意味ではタキサンをやった方が(感覚的には)いいと思います。
 ♯ただし次の②の質問に回答したように、(実際には)上乗せは大きくはないだろうとは推測されます。
「②やった場合とやらなかった場合では再発率はどれだけ変わってくるのでしょうか?(数%とは5%以下という認識でよいのでしょうか)」
⇒抗HER2療法において「非タキサンレジメンのエビデンス」は十分とは言えませんが…
 (抗HER2療法ではない)一般的な化学療法では「アンスラサイクリン単独」と「アンスラ+タキサン」の差は大きくありません。
 それを(抗HER2療法である質問者にあてはめれば)5%以下と考えても大きな間違いではないと推測します。
☆結論として
 私は抗HER2療法において「非アンスラサイクリンレジメン」には賛成ですが、「非タキサンレジメン」には反対の立場なのです。
 それで(抗HER2療法において)「タキサンは不要?」と問われれば「非タキサンは、(自分としては)認められない」となります。
 その一方で(質問者のような)低リスクでは(おそらく)「非タキサンレジメンでも、実際には問題無いだろう」と内心思っている事もまた事実なのです。