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診断の理解と術後の治療について

[管理番号:2879]
性別:女性
年齢:54歳
田澤先生
地方に住む者です。
初めて相談をいたします。
思いがけず乳癌告知を受け、
以後、本やネットで情報に接する度に一喜一憂する
日々が続いていましたが、田澤先生のQ&Aに辿り着き、
その明快なご意見にようやく心が晴れ、前向きな気持ちになれました。
ありがとうございます。
私は6年前に右胸に石灰化が見つかって以降、
頻繁にマンモグラフィとエコーで検査を繰り返してきましたが、その度に医師の見解は「怪しいので経過観察」というものでした。
そこで今年、病院を変えてマンモトームを受けたところ(以前の病院ではこの検査の案内はありませんでした)、乳癌が発覚。
3月(上旬)日に乳房温存手術を受けました。
術後の病理検査結果は、
浸潤性乳頭腺管癌6ミリ、非浸潤性小葉癌1.2×0.3センチ
切除断端陰性
リンパ節転移の個数 0/2
ki-67 3.1%
ER 陽性79%
PgR 陽性80%
HER2 陰性0
タイプ LuminalA
ステージ 1
でした。
この結果が出るまでに約1カ月かかったのですが、その理由は、マンモトーム検査で取った組織の中に問題の癌が含まれていて、手術で取った組織には非浸潤性小葉癌しかなかったからとのこと。
担当医は、「非浸潤性小葉癌は前癌病変なので気にしなくていい」と言います。
手術前には、「乳癌は発症した時点で全身を巡っているので、浸潤性か非浸潤性かは重要ではない」とも言っていました。
これらの発言からは、私の病状がどの程度深刻なものなのか(癌ですから深刻であることに変わりはないのですが)、どうとらえたらいいのか、よくわかりません。
核異型度が示されない理由を尋ねたところ、「とても小さいから」との答えでしたが、浸潤性の癌なので私としては小さくても気になります。
ステージ1とはいえ、小さいうちから浸潤型の癌は、危険度は高いのでしょうか?
また、そもそもマンモトームのような針検診で、6ミリの癌が取り除かれてしまう
ものなのでしょうか?
その点も不安です。
マンモトーム検査の組織診断結果は、以下の通りです。
【診断】
Breast rt.(mammotome):Atypical ducts proliferation
【所見】
Breast rt.(mammotome):Invasive ductal carcinoma
2時(1)、4時(3)2相性のはっきりしない小型乳管の増生が部分的に認められる。
核は類円形で、軽度の大小不同、配列不整を示す。
その他の乳腺組織に異型性は見られない。
石灰化物あり(1、3)。
良悪性鑑別のため免疫染色を行います。
3時(2)小型乳管の集族が所々に見られる。
上皮に異型性はない。
8時(4)、12時(6)小型乳管を含む乳腺小葉が少数認められる。
上皮に異型性
はない。
10時(5)軽度に拡張した乳管など、比較的多彩な像を示す乳腺組織が見られる。
上皮に異型性はない。
【追加報告】
免疫染色標本(1)では、小型乳管の周囲にはαSMA,CD10,p63陽性細胞は認められない。
E-cadherinは陽性であり、浸潤性乳管癌、乳頭腺管癌と考えられる。
今後の治療としては、5月中旬から放射線治療を始め、5月下旬からホルモン治療を受けることになっています。
あるサイトの情報では、「放射線治療は術後8週間以内にスタートする」とありましたが、私の場合、10週目あたりからのスタートになりますが間に合うのでしょうか?
また、担当医はホルモン治療にアロマターゼ阻害剤を使う予定のようです。
しかし、先日、かかりつけの婦人科医にホルモン治療の話をしたところ(私は、子宮内膜異型増殖症と卵巣膿腫で1年半ほど前に子宮と卵巣の全摘出手術を受けています)、「できればノルバデックスにしてもらいなさい。
そうすれば今の更年期障害の症状を下げるかもしれないから」とアドバイスを受けました。
これは抗エストロゲン剤ですが、どちらの方が私の体調にメリットがあるのでしょうか?
ホットフラッシュや手指のこわばりなど、更年期障害の症状は数年前から出ています。
それから、子宮・卵巣全摘開腹手術に伴う腸の癒着なのか、数カ月前から腹痛が続き、腹部CTを撮った方がいいかもしれないという話を胃腸科の先生としていたのですが、これから放射線治療が始まるとなると、しばらくはレントゲンやCTは控えていた方がいいのでしょうか?
腎臓と膝の調子も悪く、他科にもかかりたいのですが、乳癌治療と並行して受診しない方がいいでしょうか?
私は決して病院巡りが好きなのではありませんが、この2年間でいっきに身体の不具合が噴出したかのような状況に、何から手を付けて治療を受けたらいいのか途方に暮れている状況です。
まずは乳癌治療を軸にして、身体としっかり向き合いたいと考えています。
お忙しいなか恐縮ですが、田澤先生のご意見をいただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「私は6年前に右胸に石灰化が見つかって」
「そこで今年、病院を変えてマンモトームを受けたところ(以前の病院ではこの検査の案内はありませんでした)」
⇒これは「いい決断」でしたね。
 それにしても「6年間も経過観察」した挙句に「浸潤癌」では、気の毒に思います。(6mmの浸潤癌というのは不幸中の幸いと思います。)
 
「手術前には、「乳癌は発症した時点で全身を巡っているので、浸潤性か非浸潤性かは重要ではない」とも言っていました。」
⇒無責任なコメントです。
 「(無駄に)不安を煽るようなコメントをする」医師の気がしれません。
 
「ステージ1とはいえ、小さいうちから浸潤型の癌は、危険度は高いのでしょうか?」
⇒そんなことはありません。
 十分な早期(しかもKi67もかなりの低値でルミナールA)なのでご安心を。
 
「また、そもそもマンモトームのような針検診で、6ミリの癌が取り除かれてしまうものなのでしょうか?」
⇒マンモトーム生検で「石灰化部分(病変の中心部)をガッチリ採取」すると、そのようなこともめずらしくはありません。
 
「あるサイトの情報では、「放射線治療は術後8週間以内にスタートする」とありましたが、私の場合、10週目あたりからのスタートになりますが間に合うのでしょうか?」
⇒5カ月以内で十分です。
 
「どちらの方が私の体調にメリットがあるのでしょうか?
ホットフラッシュや手指のこわばりなど、更年期障害の症状は数年前から出ています。」

⇒卵巣摘出後1年半であれば、アロマターゼインヒビターでしょう。
 ○タモキシフェンの方が「更年期症状が弱い」とは思えませんが…
 
「これから放射線治療が始まるとなると、しばらくはレントゲンやCTは控えていた方がいいのでしょうか?」
⇒大丈夫です。
 無関係です。
 
「腎臓と膝の調子も悪く、他科にもかかりたいのですが、乳癌治療と並行して受診しない方がいいでしょうか?」
⇒無関係です。
 通常通りに受診しましょう。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

前回管理番号/2879
前回タイトル/診断の理解と術後の治療について 
田澤先生
過日はお忙しいところ、ご丁寧な回答を誠にありがとうございました。
落ち込みそうになるときは先生の言葉を読み返し、元気を出しています。
今日は新たな質問があります。
5月(中旬)日~6月(下旬)日の期間で放射線治療を受け、6月(上旬)日からアロマターゼ阻害剤のアリミデックスを服用していました。
先日、内科受診でたまたま採血した結果、肝臓の数値が跳ね上がっていました。
その後、再度採血すると、多少数値は改善していましたが、やはり高値です。
AST 18、ALT 22、γGTP 21(3月(上旬)日採血/乳癌手術時)
AST 25、ALT 31、γGTP 34(4月(下旬)日採血/放射線中・服用前)
AST 51、ALT 116、γGTP 47(7月(下旬)日採血/服用57日目)
AST 35、ALT 56、γGTP 37(8月(中旬)日採血/服用79日目)
乳癌の主治医に相談したところ、アリミデックスの副作用と考えられるということ
で8月(中旬)日から休薬しています。
次回の診察は9月(下旬)日で、その際に再度採血をし、その結果次第で打つ手を考えるということになりました。
そこでお尋ねいたします。
肝臓の数値の変化がアリミデックスによるものならば、他のアロマターゼ阻害剤でも同じような副作用が出るものでしょうか?
残り2つのアロマターゼ阻害剤を試してどれも合わない場合は、他に再発転移を抑制するための治療法はあるのでしょうか?
また最終手段ですが、「身体全体のバランスを考えてアロマターゼ阻害剤を飲まない」という選択肢は考えない方がいいのでしょうか?
先生のコラム40回目「AI投与は5年より10年の方が優れている」は拝読しております。
また、手術した右乳房がたびたび痛むのですが、これは再発ではなく放射線治療の後遺症と考えていいのでしょうか?
来る(下旬)日が術後半年、初めての定期検診となりますが予定されている検査は採血のみです。
これで検査内容として足りるのでしょうか?
お忙しいところ何度も恐縮ですが、先生のお考えを伺わせていただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
浸潤径6mm
副作用(肝機能障害も含む)が現れたら「中止」というのは大賛成です。
これが「再発高リスク」となると躊躇するところはあります。
「AST 51、ALT 116、γGTP 47(7月(下旬)日採血/服用57日目)」
⇒これが最高値ですか。
 この程度なら(質問者ほどの低リスクでなければ)ホルモン療法を継続してもいい位の値ではあります。(私の感覚ではAST, ALT共に2桁であれば、即中止です)
「次回の診察は9月(下旬)日で、その際に再度採血をし、その結果次第で打つ手を考えるということになりました」
⇒「AST 35、ALT 56、γGTP 37(8月(中旬)日採血/服用79日目)」程度なら、全く問題ありません。
「肝臓の数値の変化がアリミデックスによるものならば、他のアロマターゼ阻害剤でも同じような副作用が出るものでしょうか?」
⇒大体同じです。
「残り2つのアロマターゼ阻害剤を試してどれも合わない場合は、他に再発転移を抑制するための治療法はあるのでしょうか?」
⇒トレミフェン(閉経後のみ適応)もしくはタモキシフェン(閉経前後、どちらにも適応)があります。
 ただ、質問者程の低リスクでは中止でもいいとは思います。
「また最終手段ですが、「身体全体のバランスを考えてアロマターゼ阻害剤を飲まない」という選択肢は考えない方がいいのでしょうか?」
⇒十分な低リスクとして、当然考えられる選択肢です。
「また、手術した右乳房がたびたび痛むのですが、これは再発ではなく放射線治療の後遺症と考えていいのでしょうか?」
⇒放射線後の浮腫みも関係しているでしょう。(再発に痛みは無関係です)
「来る(下旬)日が術後半年、初めての定期検診となりますが予定されている検査は採血のみです。これで検査内容として足りるのでしょうか?」
⇒診察、超音波はしないのですか? (せめて半年に1回くらいはすべきです)
 
 

 

質問者様から 【質問3】

管理番号/2879
診断の理解と術後の治療について
いつも分かりやすいご説明をありがとうございます。
お忙しいところ何度も恐縮ですが、もう一度質問をさせてください。
すみません。
肝臓専門クリニック医師の見解では、今回の私の肝臓数値悪化はアリミデックスによるものとは考えにくいとのことでした。
もともと肝機能に多少の問題を抱えているようです。
しかし、であるならば尚のこと、身体全体のバランスを考えてアロマターゼ阻害剤を飲むのを止めようと考えていました・・。
しかし、Q&Aをさまざまに読んでいたところ「LCISと浸潤性乳管ガン/管理番号556」の記事に行き着き、読んで驚きました。
これによると、LCISつまり非浸潤性小葉癌が存在しての浸潤性乳管癌は、再発率が高いということなのでしょうか?
私は浸潤性乳頭腺管癌6ミリと非浸潤性小葉癌12×3ミリでしたが、主治医からは「非浸潤性小葉癌は前癌病変だから気にしないでいい」と言われ、非浸潤性小葉癌のことは頭からすっぽり抜け落ちていました。
そこであわてて小葉癌で検索をかけてQ&A内の記事を読んだのですが、前癌病変とはいえ、非浸潤性小葉癌も充分にリスキーであることを理解しました。
私のLCISは、【pTis、ly(ー)、v(ー)、g】(3a,3b,4-6)と記されています。
断端は陰性。
この場合、今回の肝機能悪化とアリミデックス服用に関連性がないならば服用を続けた方がよいと、先生ならお考えになりますか?
それから、肝臓を診ていただいた先生から、肝機能を上げるための薬を1カ月分処方されました。
その間、効果を見るために、できればアリミデックスの休薬を続けてほしいと言われました。
現在すでに、アリミデックスの服用を中止して1カ月が経ちます。
さらに休むと2カ月の休薬となりますが、その長い休薬間隔によるリスクはありますか?
「アリミデックスを今後は飲まない」と決めてしまえば、この質問は無意味ですが・・。
再発予防と弱い肝臓との間で、心は揺れています。
いただいた薬は、ウルソ錠100mgとEPLカプセル250mgです。
EPLカプセルには夥しい量の大豆油が凝縮されていると説明を受けました。
それを毎食後2粒飲みますが、乳ガンに多量のイソフラボンは良くないと聞いていますので、アリミデックスを飲まずにEPLカプセルを服用することには抵抗があります。
気にする必要はないのでしょうか?
ささいなことをいちいち質問して、大変申し訳ありません。
手術後の組織診断で浸潤性乳管癌の残存が検出されなかったことがずっと心に引っかかっている上に(もともと癌のない見当違いの場所を切り取られ、実は癌は乳房に残っているのではないかという不安がぬぐえません)、
今さらですが、小葉癌の説明を全く主治医から受けていないことに気づいてあわててしまい、気が動転しています。
何卒、ご意見をよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「肝臓専門クリニック医師の見解では、今回の私の肝臓数値悪化はアリミデックスによるものとは考えにくいとのことでした。もともと肝機能に多少の問題を抱えているようです。」
⇒正しい様な、正しくないような。
 実際には…
 「肝予備能が低い」という解釈でいいようです。
  つまり普段の程度の「肝臓への負荷」であれば「肝臓の(代謝)能力の範囲内」であっても、ここで「アリミデックスの代謝」という特別な負荷がかかると「肝臓の(代謝)能力の限界を超える」ということです。
  ♯原因がアリミデックスであることは間違いないでしょう。
「LCISつまり非浸潤性小葉癌が存在しての浸潤性乳管癌は、再発率が高いということなのでしょうか?」
⇒勘違いをされているようです。
 「再発率」ではなく、「新たに浸潤癌が発生する確率」です。
 そのリスク因子ということです。
「前癌病変とはいえ、非浸潤性小葉癌も充分にリスキーであることを理解しました。」
⇒あくまでも(手術で摘出している以上)「新規病変のリスク因子」ということです。
「この場合、今回の肝機能悪化とアリミデックス服用に関連性がないならば服用を続けた方がよいと、先生ならお考えになりますか?」
⇒考え過ぎです。
 あくまでも「早期乳癌」なのだから身体(肝)第一としましょう。
「さらに休むと2カ月の休薬となりますが、その長い休薬間隔によるリスクはありますか?」
⇒休薬によるリスクというか…
 正確には「内服することによる再発抑制効果」が失われるということです。(同じ様で、違います)
 「何を優先するのか?」を考えて治療を行いましょう。
「乳ガンに多量のイソフラボンは良くないと聞いていますので、アリミデックスを飲まずにEPLカプセルを服用することには抵抗があります。気にする必要はないのでしょうか?」
⇒大丈夫です。