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進行の早い乳癌

[管理番号:1739]
性別:女性
年齢:55歳
田澤先生
はじめまして。
ご質問させていただきます。
2ケ月前の人間ドックで約4cmの腫瘍が見つかり、都内某総合病院の乳腺外科を紹介され、先月乳癌告知されました。
・浸潤性乳管癌(硬癌)
・大きさ 8cm
・グレード 3
・ホルモンレセプター ER(-)・PgR(-)
・HER2蛋白(3+)
・リンパ節転移 陽性
・遠隔転移 なし
・ステージ Ⅲa
主治医には確認していませんが、サブタイプは「HER2陽性タイプ」というものですよね?
昨年までの人間ドックでは異状もなく、今年の人間ドックで指摘されるまではしこりなどの自覚症状も気にならない状況でしたが、指摘されてからは、しこりも気になり、そのしこりがどんどん大きくなっていく感じと張りやチクチクする痛みも感じてきました。
治療方針として、進行の早い乳癌には抗癌剤が効きやすいという主治医のお話で、術前化学療法で癌を小さくしてから手術することを薦められ、今月より仕事も休職して、AC療法を開始しています。
AC療法ののち、パクリタキセル+ハーセプチンを3ケ月行い、手術となる予定です。
そこで、ご質問です。
①こんなに早く乳癌が進行してしまうことは稀なことなのでしょうか?
2ケ月前に4cm、先月はそれが8cmの大きさにもなり、主治医も針生検の結果が出る前までは乳癌ではないのでは、という言葉に少し期待もしていたのですが、いきなりステージⅢの乳癌と言われ、驚きと大きなショックを受けました。
②術前化学療法という治療法は妥当だと思われますか?
確かに1回目の投与の翌日くらいから乳房が張っていた感じが楽になり、柔らかくなっている感じはしています。
手術先行というお話もありましたが、ゆっくり考えている間もなく、術前化学療法を開始しましたが、主治医の言われることを信じて、このまま治療を継続していくべきでしょうか?
抗癌剤の効果が出ない場合には、その時点で手術になるようですが、もしも遠隔転移してしまったら、と考えますととても不安です。
③治療がうまくいき、通常の乳癌ですと手術後10年以内に再発しなければ完治と見なしてもよいようですが、進行が早い乳癌のケースでは、5年以内に再発しなければ完治と見なしてもよいと言われましたが、進行の早い乳癌は通常の乳癌とは考え方(完治とか生存率など)は違うものなのでしょうか?
青天の霹靂のような出来事でしたので、暫く落ち着かないままに今月より抗癌剤治療を開始し、最近やっと気持ちが落ち付き、少し不安を感じております。
そんな中、このサイトを見つけ、ご質問させていただきました。
先生のご意見をいただければ幸いです。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
突然のことで、お気持ちお察しします。
「サブタイプは「HER2陽性タイプ」というものですよね?」
⇒その通りです。
 
「こんなに早く乳癌が進行してしまうことは稀なことなのでしょうか?」
⇒稀と言う程では有りませんが…
 確かに「早い方」だと思います。
 
「主治医も針生検の結果が出る前までは乳癌ではないのでは」
⇒「葉状腫瘍」を考えたと思います。
 
「術前化学療法という治療法は妥当だと思われますか?」
⇒この大きさでは(例え、術前化学療法が著効したとしても温存術をするのはリスクが高いので)「術前化学療法の意味」がありません。
  ♯「術前化学療法」の適応は「小さくして温存」なのです。
○抗がん剤が「効いている」ようで何よりです。
 ただ、「一歩間違える」と「手術不能となって後戻りができない状況に追い込まれてしまう」リスクがあることには十分注意してください。
 
「術前化学療法を開始しましたが、主治医の言われることを信じて、このまま治療を継続していくべきでしょうか?」
⇒「いつのタイミング」でも「手術に方針変更」できます。
 たんに「残した抗がん剤は術後に行えばいい」ことなのです。
 
「進行の早い乳癌は通常の乳癌とは考え方(完治とか生存率など)は違うものなのでしょうか?」
⇒イメージとしては「そうなります」が…
 実際は「同じ乳癌」です。
 
○安全性を優先すべきです。
 「目に見える病巣を切除」し、その後「じっくりと(安心して)再発予防目的での抗HER2療法を行うこと」が肝要です。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
こんにちは。
先日はご回答いただきまして、ありがとうございました。
今週、AC療法2回目の投与を行いました。
投与前の主治医の診察では、しこりが6cmに縮小しているとのことでした。
確かに、1回目の投与後から乳房の張りや痛みも楽になり、しこりも若干小さくなっている感触はありました。
このまま治療を続けて、「手術不能となって後戻りができない状況に追い込まれてしまうリスクもあるのか」、主治医にも確認しましたところ、「リスクはあり、今後方針変更も可能である」ことも確認でき、AC療法2回目以降の効果を見て、ご検討いただけるとのことでした。
田澤先生の言われていることと、ほぼ同じお話でしたので、このまま治療を継続していきたく思いますが、気になることもありましたので、ご質問させて下さい。
①1回目の投与後3週目(2回目の投与の数日前くらい)にまた少し痛みが出てきました。
この乳房の痛みが癌の悪化ではないか不安に思い、主治医にも確認したのですが、特に心配のいらない痛みで、あまり痛い場合には、痛み止めを飲めばよいとのことでした。
ちなみに、2回目の投与後、この痛みはなくなりました。
AC療法が3週間のサイクルというのは、効き目も3週間なのでしょうか?
②もしも、しこりがこのまま小さくなり続けていくようであれば、そのまま術前化学療法はパクリタキセル+ハーセプチンの投与を含めた半年間を予定通り進めていくべきでしょうか?
それとも、やはり手術できるうちに手術してしまうべきなのでしょうか?
主治医のお話では、しこりが小さくなり続ければ、乳房温存手術が可能となる場合もあるとのこです。(私くらいの大きさでも、癌が消失してしまうケースもあるとのことでした。)乳房温存の場合、放射線療法も必要とのことでしたが、乳房温存手術ができるくらいの状態になった場合、全摘出でも乳房温存でも再発率のリスクも変わらないとのことでした。
ただ、私自身としては、より安全に、よりリスクの少ない治療や手術を選択したいと考えています。
主治医にも、そのことはお伝えしましたが、田澤先生のご意見もいただければ幸いです。
どうか、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「AC療法が3週間のサイクルというのは、効き目も3週間なのでしょうか?」
⇒違います。
 3週間のサイクルは、「効き目ではなく、副作用からの回復」のためのサイクルです。
 効き目は「もう少し早く」現れます。
 
「もしも、しこりがこのまま小さくなり続けていくようであれば、そのまま術前化学療法はパクリタキセル+ハーセプチンの投与を含めた半年間を予定通り進めていくべきでしょうか?それとも、やはり手術できるうちに手術してしまうべきなのでしょうか?」
⇒抗がん剤は「どのタイミング」でも効果は同じです。
 効いているからといっても「術前に全て行った方がいい理由」はありません。
 途中で手術として、「残りは術後」でいいわけです。(腫瘍を体に残したままでいることのリスクは考えなくてはなりません)
 
「しこりが小さくなり続ければ、乳房温存手術が可能となる場合もある」
⇒「温存乳房内再発のリスク」があります。 
 
「私くらいの大きさでも、癌が消失してしまうケースもある」
⇒それは、そうですが、「画像上、消失」したからといっても「もともと腫瘍の有っ
た範囲」を残しておくことにはリスクが伴います。
 「病理学的消失」しているかどうかは「その部分すべてを切除」して病理診断するしか方法はないのです。
 
「乳房温存手術ができるくらいの状態になった場合、全摘出でも乳房温存でも再発率のリスクも変わらないとのことでした」
⇒「8cmの癌」でのデータではないと思います。
◎画像上消失することと、癌細胞が消失することとは別です。
 この大きさでの「小さくして温存」は「乳房内再発のリスクを承知しておく」必要があります。