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切除と術後治療について

[管理番号:280]
性別:女性
年齢:42歳
初めまして。
先日乳癌の告知をうけ、手術待ちのものです。
しこり2.6センチ
細胞診断→検体不適正
組織診断→悪性
週明けにCT、月末に手術、
ここまで決まっています。
 
担当医は
「エコーでみる限りはくりっとしてるので、摘出すれば大丈夫でしょう、それで終われるでしょう。温存手術できます」
と説明してくれましたが、四歳と1歳の子供を抱えているので、全摘出を希望しましたところ、珍しいですね、と驚かれたので正直戸惑ってしまいました。
また、腫瘍の大きさから浸潤癌とおもっていますが、取ったら大丈夫と言った根拠は何だろう、と、ここにきて不安になりました。
セカンドオピニオンも考えましたが、一刻もはやく術後したいのとの葛藤でなやんでいます。
CTがまだなので、何ともいえないとおもいますが、先生の見解をお伺いしたく投稿しました。宜しくお願いします。
 

田澤先生からの回答

 おはようございます。田澤です。
 「画像上、腫瘍径2.6センチ」全摘を希望ですね。
 組織診断をしていれば、「悪性=癌 というだけでなく、非浸潤癌か浸潤癌か?まで判明しているはず」ですが、その説明は無いのでしょうか?
 それでは回答します。

回答

「しこり2.6センチ」「くりっとしてる」
⇒担当医の「温存手術できます」というのは理解できますが、「摘出すれば大丈夫でしょう、それで終われるでしょう」という表現は「通常の浸潤癌には本来当てはまらない内容」です。
この場合、2つの可能性があります。

  • 「第1の可能性」
     組織診断(針生検だと思いますが)の結果、「非浸潤性乳管癌、しかもlow grade(低悪性度)」であり「温存術後の放射線治療さえも、省略してもよい」状況である場合
     
  • 「第2の可能性」
     「摘出すれば大丈夫、それで終われる」というのは、単に「温存手術が可能、(断端陽性などで)再手術となる心配は無い」という事を言っているだけであり、
     (本来、術後にするべき「術後放射線」や「内分泌療法などの全身療法」)については、言及していないだけである場合

 
「全摘出を希望しましたところ、珍しいですね、と驚かれた」
⇒若い方で「温存できますよ」と言われた場合、「温存を希望する」方が多いからでしょう。
 
「腫瘍の大きさから浸潤癌とおもっていますが、取ったら大丈夫と言った根拠は何だろう」
⇒前述したとおりです。
 「組織診断(針生検)の結果が非浸潤癌(しかも低悪性度)」で、「術後に追加治療も不要だし、再発リスクも極めてゼロに近い」という(文字通りの)意味なのか、
 ただ単に「温存手術で取りきれる可能性が極めて高い」という「温存手術でも大丈夫」という意味(この場合、術後の放射線照射や全身療法、再発リスクなどは触れていない)なのか、どちらかでしょう。
 

私の感想

 組織診断では「非浸潤癌なのか、浸潤癌なのか」更に「有る程度の悪性度:核異型度」まで判明している筈です。
 それでいて、「質問者の表現で組織診断:悪性」としか知らされていない。
★「腫瘍径から浸潤癌だと思っています」という表現は、裏返すと「本来組織診の結果で解っている筈の」非浸潤癌か浸潤癌かを説明されていない。と言う事になります。
 これは「担当医の説明不足」であることは明白です。
 それでいて(何の根拠も示さないまま)「大丈夫」と言っているので、却って質問者が不安になっているという構図です。
 このままではいけません。
 まずすべきは「組織診断のレポート」を貰いましょう。
 その上で、「きちんとした今後の治療展開」を示してもらう事です。
 それができないのでは、治療をするものとして失格と言わざるを得ません。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

 先生、早速のご回答ありがとうございます。
 当日はやはりショックもあり、家に帰ってから主治医の言葉を一つ一つ思い出してはなやんでいました。
 先生のおっしゃるとおり、細かい点についてもっと追求すべきでした。
 週明け○日にCT、◎日に術前検査とCTの結果報告を受けますので、聞きたいことをしっかりメモして行きたいと想います。またご報告させてください。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 CTの結果も大事ですが(実際のところは、CTの情報はかなり限られており、質問者の場合には「転移の所見はありません」だけだと思います)やはり、針生検(組織診断)の結果を重視してください。
 
 「浸潤癌なのか、非浸潤癌なのか?」「サブタイプがどうなのか(ER, PR, HER2)?」「核異型度は?」この辺を確認してください。
 週明けの結果をお待ちしています。
 
 

 

質問者様から 【質問3 術前検査結果】

先生、おはようごさいます。
本日術前結果を聞いてきました。
「浸潤がん、グレードとサブタイプは、病理の方がいま細かく調べています。悪性リンパ腫の可能性も調べていますが、これは稀ですが、本当に乳ガンかどうかを調べています。CTの結果は、転移などはみらせらません。左のリンパがすこし腫れているので、手術は温存手術で、リンパ郭清をします。」
ということでした。
予定通り27入院、28に手術をします。
ステージは腫瘍を取り除いてからでないと確実なことはわからないが、早期ではないので、再発の可能性はのこります、ということでした。
先生の提示された二つの可能性のうちの二つ目だったと思いましたが、やはり聞き込みがたりなかったでしょうか。
また、温存については全摘を強く希望してきました。子供が小さく、放射線治療に通うのが大変なことと、気持ちの上でもリスクをへらしたい、再建も希望してないことを伝えたら、
「いきなり全摘は過酷ですよ、再発率も今は変わりませんよ。ギリギリまでどちらかの選択は出来ますから入院までよく考えてくださいね」とおっしゃられていましたが、
もうどっちでも先は長くないとしか聞こえなくて、ショックをうけています。
先生のご見解をお聞かせください、
お願いいたします。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんばんは。田澤です。
 正直、担当医のコメントには「??」という問題があるようです。
 それでは回答します。

回答

「浸潤がん、グレードとサブタイプは、病理の方がいま細かく調べています。悪性リンパ腫の可能性も調べていますが、これは稀ですが、本当に乳ガンかどうかを調べています。」
⇒担当医は「病理レポート」を渡してくれないのでしょうか?
 通常は、「言われなくても」説明時にお渡しすべきものだし、今回は質問者から「問われている」にもかかわらず、「病理レポート」を渡さないのでしょうか?(担当医の行動には?がつきます)
 更に、「浸潤癌と診断する際に、(通常)核グレードは同時にレポートされている筈ですが…」(サブタイプは免疫染色なので、通常診断の後1~2週間程度かかります)
 
「転移などはみらせらません。左のリンパがすこし腫れているので、手術は温存手術で、リンパ郭清をします」
⇒ここは、かなり問題のあるコメントです。
 
「CTで左のリンパ節が少し腫れている程度」で「いきなりの通常郭清」は勧められません。
⇒質問者のCT所見からは下記「腋窩郭清の考え方」の中の「4」のケースにあてはまります。
◎腋窩郭清の考え方

  • 通常郭清の適応
    1. 画像診断で「間違いなくリンパ節転移を疑う」場合
    2. (術前に)リンパ節の細胞診をして「リンパ節転移」が証明されている場合
  • センチネルリンパ節生検の適応
    1. 画像診断で「リンパ節転移を疑われていない」場合
    2. 画像診断で「少しリンパ節が腫れているが」、リンパ節転移が確実ではない場合(この場合には、まずセンチネルリンパ節生検を行い、『転移の有無』を明らかにすべきである)

 私であれば(通常の感覚と思います)まずは「センチネルリンパ節生検」を行います。
 その「術中迅速病理診断」の結果、ガイドラインに従います。

※ガイドライン
センチネルリンパ節術中迅速診断
転移無 ⇒ 追加郭清無
転移有(但し2mm未満) ⇒ 追加郭清無
転移有(  2mm以上) ⇒ 追加郭清有

★つまり、「CTですこし腫れている」からといって、いきなり「腋窩郭清」した場合、「結局、転移が無かった」場合には著しい「過剰治療」となり、大変な不利益となります。
 
「いきなり全摘は過酷ですよ」
⇒担当医の意見には賛成できません。
 「過酷」とは何に対して言っているのでしょうか?
 「全摘を強く希望してきました。子供が小さく、放射線治療に通うのが大変なことと、気持ちの上でもリスクをへらしたい」
⇒このように患者さんの「明確な希望」がありながら、「過酷」として退ける意味がわかりません。
 担当医が余程、「乳房切除という手術手技」に自信がないようにしか思えません。
 江戸川病院では「乳房温存は、術翌日退院(トータル2泊3日入院)」「乳房切除は術翌々日退院(トータル3泊4日入院)」と「入院期間に1日の差」をつけてはいますが、正直「術後の状況に何ら、変わりはありません」過酷な事は全くありません。
 
「どっちでも先は長くないとしか聞こえなくて、ショックをうけています。」
⇒(そのように、質問者が感じ取ったとしたら)明らかに担当医の説明不足です。
 実際は全くそんな状況ではありません。(CTでも遠隔転移の所見は無いのです)
 もちろん、今後「サブタイプ」とか「リンパ節転移の有無」とかによってはリスクは上がりますが、今解っているのは腫瘍径が「2.6cm」という事実だけです。
 全く大した問題ではありません。
 

私が思う事(参考までに)

 正直一番驚いたのは、「CTでリンパ節が少し腫れているくらいで」いきなり腋窩郭清をしようとしている事です。
 
「リンパ節転移は間違いない」と言う事ですね。と(担当医に)問いかけてみてください。
⇒そこで担当医が「リンパ節転移が確実」と思っている訳ではないが、「CTで腫れている」から(念の為に)「きちんと郭清した方がいい」のように言う場合は、かなり「問題のある医療」です。
 
★センチネルリンパ節生検はそのためにあるのです。
 「CTで少し腫れている。転移かもしれない」⇒センチネルリンパ節生検を行って、「もし転移が術中迅速で明らかとなれば」(ガイドラインに沿って)そのまま郭清します。(術中迅速で転移無であれば当然、郭清は省略します)
 これが本来あるべき姿です。
 
★★「CTで少し腫れているからといっても」センチネルリンパ節生検で結局陰性(その場合は、反応性腫大という事になります)だった例は山ほどあります。
 
★★★ 私は他施設での「手術記録、病理結果」を見て「リンパ節郭清:0/10」という記載(郭清をして10個リンパ節を摘出したが、結局転移は0個だったという意味です)を見つけると大変悲しくなります。
 勿論「通常郭清」をしても「患肢浮腫などの合併症」は(世間で言われるほど)多くはありませんが、それでも「無駄な侵襲」であることは間違いありません。本来「やってはいけない」事なのです。
◎「病理結果の説明不足(病理レポートを渡していない?)」や「乳房温存をまるで押しつけているように見える態度」「センチネルリンパ節生検の適応について、十分な説明がなされていない」という印象を強くしました。
 これら、全て(質問者の)今後の手術に際して、とても大事な事柄です。
 質問者に対して、十分な説明をしないまま、「温存、郭清」のような強引な治療に持っていかれるのは良くないと思います。
 
 
 

 

質問者様から 【質問4 術前検査結果】

田澤先生
度々ありがとうございます。
私の疑問点を田澤先生は見事に言い表してくたさるので、とても心強くなりました。
私も、どうして全摘を受け止めてくださらないのか、リンパは画像だけなのにどうして郭清なのか、と悩んでいました。
手術まて一週間ありますが、その間に一度田澤先生の診療を受けることはできますでしょうか?
私としては一刻もはやく腫瘍を取り除いて、正体を明らかにし、病気に立ち向かいのです。
難しいとはおもわれますが、先生に今月以内の手術をお願いする事は可能でしょうか?
宜しくお願いいたします。
(○○区在住です)
 

田澤先生から 【回答4】

 質問者の考え方は正しいと思います。
「手術まて一週間ありますが、その間に一度田澤先生の診療を受けることはできますでしょうか?」
⇒可能です。
 是非、そうしてください。
 通常の予約枠は埋まっていますが、「江戸川病院地域連携室(電話03-3673-1221)」へ連絡いただいて「秘書の小平」に直接ルートを取れば可能です。
 (月)~(金)は江戸川病院、(金)夕方と(土)はメディカルプラザ市川駅で外来をしていますが、どちらでも可能です。
 
「難しいとはおもわれますが、先生に今月以内の手術をお願いする事は可能でしょうか?」
⇒相談させてください。
 今月の通常の手術枠は一杯ですが、「場合によっては」(院長に直訴してでも)手術枠の交渉ができると思います。
◎私の気持ちとしては「是非、江戸川で診療」したいと思います。
 納得した診療が必要です。
 江戸川病院地域連携室(電話03-3673-1221)に連絡し「乳がんプラザで質問している者で、田澤から秘書の小平に直接連絡してもらうように言われた」とおっしゃってもらえば、解る様に手筈をしておきます。
 お待ちしております。
江戸川病院 乳腺センター 田澤篤
 
 

 

質問者様から 【質問5 安心しました!】

田澤先生
先日はお忙しい中、診察を快く手配してくださり、ありがとうございました。
不安、疑問が一気に解消され、大変わかりやすく現状を説明して頂いたので、落ちついて癌と向き合う事が出来ました。
(久しぶりに熟睡できました!)
また、悪性リンパ腫の僅かな可能性はあるにしても、いずれにしても全摘で気持ちのリスクを取りたいという私の意向も受け止めていただき、安心して手術ができます。
家族も転院は大正解だと喜びと感謝でいっぱいです。
何よりも、ここでのやりとりだけで、
推測された事を事実としてはっきり見せてくれたこと(リンパの状態は前院ではなにも説明も検査もなかったので…)
いかに疑問を保つことが大事か、そしてより良い治療と自分の体に対する知識も必要だということを先生が教えて下さったと、本当に深く感謝しています。
来月の手術までに体調崩さぬよう気をつけます。
何卒、宜しくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答5】

 さっそくの感想ありがとうございます。
 正直な感想として、当院を選んでいただいて本当に良かったです。
 実際に超音波しCTも拝見しましたが、「明らかにセンチネルリンパ節生検の適応」であるのに前医では(実際に超音波もせずに)「(センチネルリンパ節生検をせずに)最初から腋窩郭清を予定していた」という事実に大変驚きました。
 「薬物療法」などは「標準治療が整備」されていますが、「手術」にかんしては「まだまだ病院間に格差」があることを実感したしだいです。
 当院で安心して治療を受けてください。
 
 江戸川病院 乳腺センター 田澤篤