Site Overlay

追加切除判断・全摘出への切り替えについて

[管理番号:2729]
性別:女性
年齢:43歳
 田澤先生、この1カ月ほど拝見し、大変勉強になり参考にさせていただいております。
 本当にありがとうございます。
 さて、1点質問があり、送信いたします。
 ぜひ田澤先生のご意見を伺いたく、よろしくお願いいたします。
<質問>追加切除判断・全摘出への切り替えについて
主治医は、「手術材料の組織診断結果によれば、断端陽性があるものの、このレベルであれば放射線治療で十分と判断できるので、追加切除は不要」との見立てです。
一方、本人は温存したものの「再発の心配がなくなるなら、全摘出してもいい」と言っています。
私(質問者、夫)は、主治医の考えを支持しておりますが、全摘出の効果が(温存+放射線治療)に比べて有意に高く且つ本人の強い意向があるならば、全摘出を選択するのがよいかも、とも思うものの、どうしたものか悩んでおります。
田澤先生は、この場合、追加切除を要すると判断しますか?
また、放射線治療が有効であると判断されたとしても、患者本人が全摘出を望んだ場合、それを容認して実施しますか?
(なお、温存の場合は、放射線治療必須と理解しております。)
<経緯>
1月中旬、乳がん検診(約1年半ぶり)で、新しいしこりを発見。
診察時のエコーで2.5cmあることからMRIを予約。
このとき穿刺はなし。
1月下旬、MRI
2月初旬、受診してMRIの結果を聞く。
悪いものではないが、比較的大きいので本人が希望するなら取ります、とのことだったので、取ることを希望し、入院・手術予約を入れる。
入院までの間、大きくなってくることを知覚。
3月初旬、入院(2泊3日)。
入院時の問診でこの1カ月の間に大きく
なった気がする、と伝えたところ、葉状腫瘍の可能性も否定できないとのことで、マージンを確保した切除を行うとの方針が決定。
また、腋窩リンパ節エコーで見て「腫れてるね」とのコメントもあり。
入院中日に手術。
3月下旬、外来受診。
病理診断結果で乳がんと診断。
腋窩リンパ節郭清
(レベルIとII)を実施するので入院、手術予約する。
免疫染色は結果
待ちとのことで、薬物療法の方針は入院日に決めましょう、ということに
現在、4月中旬の入院・手術待ち
<病理診断結果>(印字された紙を転記しました)
・臨床経過:左乳房5時方向に3.00cmの腫瘍。
ABCではFAを疑っており
ますが、内部血流が豊富で、左腋窩リンパ節も腫れており、癌、葉状腫
瘍の可能性も否定できません。
病理組織診断を御願いします。
・臨床診断:左乳房下外側腫瘤
・臓器名:乳房、左
・病理診断:
Invasive ductal carcinoma (solid-tubular~scirrhous),
left breast, partial resection
・病理所見:
左乳房 部分切除材料
検体の大きさ:5.0×5.0×2.0cm(皮膚:2.5×1.2cm)
腫瘍占拠部位:左乳腺C領域
腫瘍径(浸潤癌):3.5×2.4cm×2.2cm
腫瘍径(乳管内成分含む):4.0×3.0×2.5cm)
組織分類:浸潤性乳管癌(充実腺管癌~硬癌)
組織学的波及度:g(+) f(-)、s(-)
脈管侵襲:ly(+)、v(-)
切除断端:浸潤成分:陰性、乳管内成分:陽性(検体の尾側、乳頭側とは反対面)
各グレード 2(核異型スコア 3点、核分裂増スコア 3点(>11個/10HPF))
UICC(7版):pT2NxMx Stage IIA
肉眼的に乳腺領域に比較的境界明瞭な結節状の病変が認められます。
組織学的に、肉眼観察時病変と認識した部分に一致して、胞巣状~索状に増殖する腫瘍細胞が認められ、一部では周囲の乳管内にも腫瘍細胞が充満しています(#1-8、10、11、12、15)。
浸潤性乳管癌(充実腺管癌~硬癌)です。
浸潤部の大きさは3.5×2.4×2.2cmです。
個々の腫瘍細胞は核の大小不同、形状不整が目立ち、二核・多核のものも散見されます。
核分裂像が非常に多く認められます。
腫瘍は周囲の脂肪組織に対して圧排性に増殖しており、境界は比較的明瞭です。
脂肪組織への明らかな浸潤や皮膚浸潤は認められません。
静脈侵襲は明らかではありませんが、リンパ管侵襲が認められます(#3)。
尾側(乳頭側と反対側)の切除断端に腫瘍の乳管内成分が露出しています(#15)。
その他の部分にも切除断端から非常に近接した(<1mm)部分にも腫瘍の乳管内成分が認められます(#11)。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「1月中旬、乳がん検診(約1年半ぶり)で、新しいしこりを発見」
⇒そもそも「43歳」で「1年半前に無かった新しいシコリ、しかも25mm」であれば「乳癌を疑うべき」ものです。
 ここで「針生検せずにMRIを撮影」していることが、「全ての誤りの根源」と言えます。
 (針生検ではなく)「MRIで診断」しているから、(葉状腫瘍を疑っているような)「おかしな生検」となっているのです。
 
「3月下旬、外来受診。病理診断結果で乳がんと診断。腋窩リンパ節郭清(レベルIとII)を実施するので入院、手術予約」
⇒センチネルリンパ節生検を行わない理由は?
 エコーで「転移が明らか」な訳ですか?
 ○もしもエコーで、「転移が明らか」であれば、『(生検をする以前に)そもそも乳癌を疑わなくてはいけない』わけです。
  (質問者には、お気の毒ですが)普通では考えられない診療と言えます。
 
「手術材料の組織診断結果によれば、断端陽性があるものの、このレベルであれば放射線治療で十分と判断できるので、追加切除は不要」
⇒尾側断端が陽性であり、「その他も近接」とあるので(私であれば)追加切除(追加切除による温存)を判断します。
 
「主治医の考えを支持しておりますが、全摘出の効果が(温存+放射線治療)に比べて有意に高く且つ本人の強い意向があるならば、全摘出を選択するのがよいか」
⇒「そのまま」は勧めません。
 せめて「追加切除による再温存」した方がいいでしょう。
 より安全性を考えて、「乳房切除」がより確実なことは間違いありません。
 
「田澤先生は、この場合、追加切除を要すると判断しますか?」
⇒追加切除します。
 今回は(何れにせよ、再手術として)「腋窩郭清をする」わけですから、「躊躇する理由」がありません。
 
「また、放射線治療が有効であると判断されたとしても、患者本人が全摘出を望んだ場合、それを容認して実施しますか?」
⇒実施します。
 我々治療する側からは「乳房切除がより安全なので、それに反対する理由」はありません。