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温存か全摘か

[管理番号:143]
性別:女性
年齢:44歳
初めまして、最近非浸潤性乳管癌と診断された者です。
主治医の治療方針では、左乳房上部内側、石灰化2cm四方、癌組織1cm四方で乳頭からは1.5cmなので部分摘出で放射線照射という見立てでした。
基本的に4cm四方の切除になるので小さいものの、上部内側が患部ということ、放射線によって引きつれがでる可能性あるため整容性は保証できない的なことを言われました。
元の胸もあまり形が良くないのですが、さらにその形が崩れるとなると辛いです。かといって1cm程度しかない癌のために自前の胸を全部取ってしまうのはあまりに勿体無い気もします(胸は大きめです)
部分摘出で放射線なしは?と主治医に聞いたところ、組織診でとった癌細胞にコメド壊死?があること等からもほっておくと浸潤がんで再発する可能性があるので、それは無理と言われました。
また放射線照射の後は皮膚が硬くなるので乳房再建は難しくなるとも。
いまこの限られた時間に温存か全摘か究極の選択を迫られているようで、悶々としています。漠然とした質問で申し訳ないですが、先生のアドバイス頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「コメド壊死を伴う非浸潤性乳管癌」の診断で「温存か?切除か?」で悩んでいる。との事ですね。
 術式選択は、当事者となった多くの方が直面する悩みです。
 状況確認の上、回答します。

状況確認

 「コメド壊死を伴う非浸潤癌=コメド型の非浸潤癌」の診断で「石灰化2cm四方、癌組織1cm四方」という表現には違和感があります。
 この石灰化は「壊死型石灰化」であり、「石灰化がある範囲、全てに癌細胞が存在」しています。
 つまり「石灰化の範囲=癌の範囲=2cm四方」となるはずです。「癌組織1cm四方」というのは、何かの勘違いで、おそらく「超音波でしこりとして認識できる大きさ=1cm四方」と思われます。
※この「コメド壊死」というのは「癌細胞が乳管内で増殖した結果、中心部で壊死を起こした状態」であり、「壊死した癌細胞に石灰化が沈着する=壊死型石灰化」となります。
 壊死型石灰化については、トップページの「石灰化」の中の「壊死型石灰化」で図を用いて説明していますので、是非参照してください。
 
 温存手術をする場合には「石灰化部分全てが十分余裕をもって切除されている」事を術中に確認します。(標本マンモといって、摘出した組織を撮影して含まれている石灰化の位置関係を確認します)
 「2cmの範囲の石灰化を十分余裕を持って摘出」となると、質問者のいう様に「4cm四方の切除」となるでしょう。
 

回答

「温存術した場合の整容性」に関して
⇒(私の手術経験からすると)「上部内側の4cm程度の範囲」の乳房温存術では「整容性は、それ程問題無い」と思います。
 勿論、中には「美的要求の強い」患者さんもいらっしゃいますので「整容性を保証」はできません。
 しかし、経験上は「皮弁を十分に厚くとる」ようにすれば、「一般的基準では、十分整容性に問題無い」状態になります。
 
 
「温存術後の放射線照射」について
⇒(世の中には、非コメド型の非浸潤癌であれば、温存後の照射を省略する乳腺外科医もいますが)
 私は温存術後は全ての方に放射線症照射を行います。(例外は85歳以上の超高齢者)
 つまり、「コメド型であろうと、非コメド型であろうと」乳房温存後には「術後放射線照射は必須」と考えています。
 「放射線によって引きつれがでる可能性」とありますが、そんなことはめったにありません。
 ●術後放射線照射をしたからといって、変形が強くなることは殆どありません。 術後照射による利益は計り知れません。
   
「放射線照射の後は皮膚が硬くなるので乳房再建は難しくなる」
⇒その通りです。 術後に照射をした場合には「乳房再建が失敗するリスク」が高くなります。
 なので、「乳房温存術⇒術後照射⇒乳房再建」は全く勧められません。(そもそも温存後の乳房再建自体、非常に難しく一般的ではありません)
⇒乳房再建をする場合には 「乳房切除(全摘)⇒乳房再建」となります。(そもそもリンパ節転移が無い状況で、乳房切除した場合には、術後照射は不要です)
 

選択肢

  1. 乳房温存術+術後放射線照射
    ⇒4cm程度の切除では、「余程、美的こだわりが無ければ」整容性は十分だと思います。(無論、術後照射もそれ程の影響はありなせん)
     
  2. 乳房切除+乳房再建
    ⇒非浸潤癌であれば、「乳房切除」することで、「理論上、癌は根治されます」 その上で、「人工乳房(シリコン)」や「自家組織(広背筋や腹直筋)」によって乳房再建を行います。
     無論、術後照射は不要なので、再建に何ら問題はありません。
     
  3. 乳房切除のみ(再建は少なくとも、今回は無し:乳房再建は2次再建といって、あとで再建を行う事もできます)
    ⇒「整容性」の問題はありますが、「癌の根治性」と「放射線照射が要らないという利便性」と「乳房再建による身体的、金銭的負担が無い」という意味では、選択肢となりえます。

 
◎選択肢「1」~「3」は、ご本人が「何を重視するのか?」によって決まります。
 「全ての人に当てはまる様な」正解は存在しません。
 私の感覚では、以下となります。

  • 「整容性」と「術後の負担(乳房再建は金銭的、身体的負担を少なからず伴います)」のバランスが取れているのは「1」だと思います。
     
  • 「少々の負担を覚悟の上で」より積極的に「癌の根治」と「整容性」を追求する場合には「2」となります。
     
  • 「整容性」には目をつぶり、「根治性」と「負担の無さ」を考えると「3」となります。(最もシンプルな形です)