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右:乳がん温存、左:乳管内乳頭腫切除

[管理番号:2909]
性別:女性
年齢:48歳
はじめて相談させていただきます。
先生のQ&Aで日々勉強させていただいています。
3月中旬に左右乳房にしこりを発見しマンモグラフィ、超音波、針生検、乳房造影MRI、造影CTの結果、右は乳癌ステージⅠA、左は乳管内乳頭腫との診断を受けました。
①右は10mm~15mmの早期濃染される結節性病変が少なくとも3個あり結節の造影パターンは悪性パターンに合致しているとのことですが、同じ乳管に連なっているため、温存術でその乳管部分を扇状切除(もしくは1/4切除)か、または全切除の選択肢を与えられています。
位置は乳房上部内側です。
この場合、温存術で病変を取りきるために執刀医にお願いすべきことはありますか?
また整容性はどの程度保たれると想定できますでしょうか。
②左の乳管内乳頭腫は、マンモグラフィでは不整形腫瘍様陰影、MRIでは9mm大の早期濃染結節あるが、造影パターンからは良悪性の断定は困難とのこと。
針生検の結果は、IDPの疑い、検体少量で確定できなかったため、追加の染色検査で判断。
治療法は経過観察、もう一度1段階太いゲージ(14G)で針生検、右と同時に切除して確定診断、のいずれかの選択肢を与えられていて、迷っています。
左は針生検の時に何回も針を刺していたにもかかわらず「検体少量」という結果なので針生検をもう一度してもうまく組織が取れない可能性があると思っていて、切除してはっきり確定させたほうがよいかと考えていますが、一方で無駄な切除はしない方がよいか、決断できずにいます。
アドバイスいただければありがたいです。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「左は針生検の時に何回も針を刺していたにもかかわらず「検体少量」という結果」
⇒針生検する限り「100%の診断をつける」という診療をしてもらいたい(質問者のために)と切に願います。
 
「この場合、温存術で病変を取りきるために執刀医にお願いすべきことはありますか?また整容性はどの程度保たれると想定できますでしょうか。」
⇒同じ乳管系だから「daughter」とも表現されます。
 温存で問題ありません。
 「整容性にも問題ない」でしょう。
 ○乳管は「きっちり末梢まで」切除してもらうことでしょう。
 
「針生検をもう一度してもうまく組織が取れない可能性があると思っていて」
⇒極めて残念ながら…
 あまり期待はできないようです。
 
「切除してはっきり確定させたほうがよいかと考えていますが、一方で無駄な切除はしない方がよいか、決断できずにいます。」
⇒切除すべきでしょう。
 そもそも「乳管内乳頭腫」は近傍に「同時性もしくは異時性に」乳癌が発生するリスクがあります。
 曖昧な診断のままでは「極めてリスク」があります。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生、前回の質問にお答えいただきありがとうございました。
先生のアドバイスで勇気をいただき、右乳房温存手術、左乳房は乳管内乳頭腫部分の切除生検、を決断しました。
温存術は扇状切除でしたが、心配していた術後の変形はほとんどなく嬉しかったです。
なお、右乳房はセンチネルリンパ生検の結果、Level1,2のリンパ郭清を行いました。
右乳房温存手術の病理結果がおおむね出たので、術後の薬物治療について相談させていただきたく、よろしくお願いいたします。
病理結果所見
TMN:pT2N1M0,stage2B
大きさ:Rt,A, multiple, 25x10x10mm(最大)
組織型:浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
波及程度:f
ductal spreadingの多寡:+(浸潤部>管内成分)
脈管侵襲:ly2、v0 <リンパ管侵襲あり>
LN転移:pN0(1/15)[Level1:0/10、Level2:0/2、SLN:1/1、n-SLN:0/2]
<センチネルリンパ生検で1/3個転移あったが、リンパ郭清部分には転移なし>
核異形度:N-grade 1(核異形:2、核分裂1)
ER(score3b)、PgR(score3b)<ホルモン感受性は強陽性>
HER2(+);score(2+) ⇒現在FISH検査中
Ki-67:15%
complete resection(yes)<断端陰性>
乳頭側から抹消側にかけて11平行全割スライスを作成。
腫瘍は#4,5,7,8,9に浸潤巣を認め、他に微小病巣が多発している。
術後の薬物療法ですが、主治医からは以下のように説明を受けています。
・HER2陰性(ルミナルA)の場合はホルモン療法が基本だが、大きさ25mm、リンパ節転移1個、脈管侵襲ly2でリンパの流れに少々乗りやすいタイプとも考えられるので化学療法を検討してもよい。
リンパ節転移4個以上は化学療法をやるべきだが、1個な
ので上乗せ効果と副作用を比して恩恵をどう考えるかによる。
要検討。
・HER2陽性(ルミナルB)の場合、化学療法、分子標的薬、ホルモン療法を適用する。
また、薬物療法のレジメンは以下の予定です。
HER2陰性(ルミナルA)の場合
AC(ドキソルビシン+エンドキシン)3週1回×4
⇒パクリタキセル(アブラキサン、もしくはタキソール)毎週1回×12
⇒ホルモン療法 内服5年間(同時に温存後の放射線治療)
HER2陽性(ルミナルB)の場合
ルミナルAのレジメンに加え、
パクリタキセルの時に同時にハーセプチン毎週1回×12
⇒ホルモン療法と同時にハーセプチン3週1回、トータル1年間
質問事項
①HER2陰性(ルミナルA)の場合、化学療法を選択すべきかどうかのメリット/デメリットをどう考えたらよいでしょうか。
過去のQ&AでガイドラインによればルミナルAのリンパ節転移3個以下は化学療法不要とのことではありますが、大きさ25mmリンパ節転移1個リンパ管侵襲2は予後に大きく影響するでしょうか。
副作用を受けてまで化学療法の上乗せ効果を期待すべきでしょうか。
②薬物療法の組み合わせで他に推奨される選択肢はありますか。
 先生はECとACはどういう場合に使い分けされていますか?
 また、先生のQ&Aでは非アンスラサイクリンをお勧めされているようですが、
心疾患に問題なければ、非アンスラサイクリンよりもアンスラサイクリンを選択する方が上乗せ効果はあるのでしょうか?
③ルミナルA抗がん剤あり/無しと、ルミナルBの場合の10年再発率と10年生存率はどの程度になるでしょうか。
以上、よろしくお願いいたします。
このQ&Aで様々なケースの勉強をさせていただいているおかげで、主治医の話が
とてもよく理解でき、色々な質問をすることができ、納得のいく診察面談ができていると思っています。
大変感謝しております。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「リンパ節転移1個、脈管侵襲ly2でリンパの流れに少々乗りやすいタイプとも考えられるので化学療法を検討してもよい。」
⇒全く根拠がありません。
 リンパ行性転移は「あくまでも局所」です。
 結果として「郭清」して、それ以上の転移が無かったのだから「化学療法を勧める根拠」にはなりません。
 明らかなルミナールAなので「化学療法による上乗せ」は殆ど無いと思います。
 SABCS2015での報告でもそうだし、おそらくOncotypeDXをしたとしても「low
risk」となる可能性が高いと思います。
 
「・HER2陽性(ルミナルB)の場合、化学療法、分子標的薬、ホルモン療法を適用する。」
⇒HER2陽性であれば、勿論「抗HER2療法の絶対的適応」となります。
 アンスラタキサンではんく「非アンスラサイクリンレジメン」とします。
 
「①HER2陰性(ルミナルA)の場合、化学療法を選択すべきかどうかのメリット/デメリットをどう考えたらよいでしょうか。」
⇒メリット(上乗せ)は、実際には殆どないと思います。
 もしも不安であればOncotypeDXをお勧めします。
 デメリットは有害事象です。
 
「過去のQ&AでガイドラインによればルミナルAのリンパ節転移3個以下は化学療法不要とのことではあります」
⇒実際に「化学療法による上乗せがない」と思います。
 
「大きさ25mmリンパ節転移1個リンパ管侵襲2は予後に大きく影響するでしょうか。」
⇒全く問題点が見つかりません。
 
「副作用を受けてまで化学療法の上乗せ効果を期待すべきでしょうか。」
⇒不要と思います。
 
「②薬物療法の組み合わせで他に推奨される選択肢はありますか。」
⇒HER2陰性では何も勧めません(化学療法自体、勧めません)
 HER2陽性であれば「非アンスラサイクリンレジメン」です。
 
「先生はECとACはどういう場合に使い分けされていますか?」
⇒使い分けていません。
 全く同等です。
 
「、非アンスラサイクリンよりもアンスラサイクリンを選択する方が上乗せ効果はあるのでしょうか?」
⇒直接比較がないので「不明」です。
 
「③ルミナルA抗がん剤あり/無しと、ルミナルBの場合の10年再発率と10年生存率はどの程度になるでしょうか。」
⇒ルミナールAの時

10年再発率 10年生存率
ホルモン療法のみ 23% 84%
ホルモン療法+化学療法 13% 88%

 ○Neoadjuvant.comではこの様になりますが、これはKi67が考慮されていないデータです。
 もしも「本当に抗ガン剤の意義があるのか?」と疑問におもうのであればOncotypeDXすべきと思います。
ルミナールB   3年再発率 6% 3年死亡率2%(抗HER2療法による術後補助療法の歴史は浅いので、これ以上の長期については現時点で不明)