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3㎝の乳癌

[管理番号:195]
性別:女性
年齢:50歳
健診で7~8年前から乳腺症と嚢胞があり、1年後の経過観察でした。1年5か月前の健診では、マンモ異常なしで嚢胞(左、右)の所見でした。
1か月前に胸の強い張り、しこり、皮膚の色の変化、皮膚のくぼみに気づき、あわてて乳腺外科を受診しました。
左胸外下部に3㎝の乳癌が見つかりました。
検査が済み、検査結果を待っている状態です。

  • 腫瘍の部位で乳癌の組織学的な分類は、ありますか。
     
  • 腫瘍は、どのくらいの期間で3㎝になりますか。
     
  • 3㎝の腫瘍で乳房の温存はできますか。
     
  • 嚢胞が癌だったのでしょうか。もし、嚢胞が癌でしたら右も癌になるのでしょうか。
     

お忙し中、申し訳ありませんがよろしくお願い致します。
(2015年3月の質問)
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「1年5か月前、検診で嚢胞」といわれ、その後「3cmの乳癌」ということですね。
 いきなり「3cmの乳癌」と言われても、1年5か月前の健診で指摘された「嚢胞との関連」を考えるのは自然だと思います。
 診察していないので「どうしても」推測の域をでませんが、(私なりに)回答します。

回答

「腫瘍の部位で乳癌の組織学的な分類は、ありますか。」
⇒「部位」と「組織学的分類」に関係性はありません。
 
「腫瘍は、どのくらいの期間で3㎝になりますか」
⇒(癌細胞が発生してから)であれば、5年以上だとは思います。
 ただし、最初の数年は「画像診断で検出不能」な大きさです。
 
 
 それと、「癌のタイプ=組織型」によっても「大きくなり方」は異なります。

  1. 非浸潤性乳管癌として乳管内を拡がり、「ある程度の拡がり、例えば3cm」となったところで、一斉に「浸潤し始める=しこりとなる」タイプ
     ⇒この場合には、あたかも「突然」できたような印象となります。
     
  2. 「小さいうちから」浸潤癌として「しこりを形成」し、「しこりとして」徐々に大きくなるタイプ
     ⇒これだと、3cmになるまでには「2~3年かかる」ことが多いです。(毎年健診を受けていれば1~2cmで見つかることが多い)
     ※ただ、(稀に)非常に増殖スピードの高いものもあるので一概には言えません。

 
「3㎝の腫瘍で乳房の温存はできますか。」
⇒これは「質問者の乳腺の大きさ」と「しこりの部位」によります。
 乳腺が大きくて、「しこりが乳頭から離れていれば」十分温存できます。
※質問者の「外下部」という表現からは、「乳頭に凄く近く無ければ」温存大丈夫だと思います。
 
「嚢胞が癌だったのでしょうか。もし、嚢胞が癌でしたら、嚢胞が癌だったのでしょうか」
⇒「嚢胞は癌にはなりません」
 ただし、(1年5か月前に)「嚢胞だと思っていたもの」が「実は乳癌だった」という可能性はあります。
 「拡張した乳管の中の癌=非浸潤癌」が一見「多発嚢胞」のように見える事はあります。
 ※あくまでも可能性です。
 
「右も癌になるのでしょうか」
⇒嚢胞は癌にはなりません。
 ※但し、この機会に(右も)「本当に嚢胞なのか? 嚢胞に見えるが癌では無いのか?」を確認すべきなのは言うまでもありません。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

ご回答頂き、ありがとうございました。気になっていたことがわかり、安心致しました。
 
3㎝の乳癌と言われてから検査結果がわかるまでの2週間で腫瘍の大きさが3.5㎝大になっておりました。
腫瘍が乳頭から左胸に広がり、腫瘍には石灰化が広がっているとのことでした。
骨には、転移していませんでした。
 
エコー検査をし、鎖骨下リンパ節には転移していませんでした。
左脇の下のはれがあり、細胞診をしました。
喘息があり、造影剤を使わない検査でしたので念の為、肝臓のエコー検査をやる予定です。
 
手術は、4月に予約しています。
 
HER2蛋白があり、術後補助療法として化学療法、分子標的療法を行うそうです。
左胸に腫瘍が広がっていますので、乳房切除した方が良いですか。
手術までに癌が転移しないか心配です。大丈夫でしょうか。手術より先に化学療法を行った方が良いでしょうか。
HER2蛋白が高いと言われましたが、組織診でグレードがわかりますか。
 
お忙しい中、よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 再度のメールありがとうございます。
 1年5カ月前「マンモで異常なし、超音波では嚢胞」から「3cmの乳癌」というのはショックがあると思います。
 ただ、今回の情報から私には「全体像」が見えてきました。
 それでは回答します。

回答

「3㎝の乳癌と言われてから検査結果がわかるまでの2週間で腫瘍の大きさが3.5㎝大」
⇒そんなことはありません。単なる「計測の仕方」の問題でしょう。
 乳癌は、2週間程度で5mmも大きくはなりません。
 
「腫瘍が乳頭から左胸に広がり、腫瘍には石灰化が広がっている」
⇒これで「何故、1年5カ月前に異常なし」なのに「3cmの乳癌」となったかが解りました。
 「コメド壊死を伴う」非浸潤癌が乳管内を広範囲に広がり、その後「浸潤して」シコリとなったようです。(以前のQに対する回答1にあたります)
 このタイプは比較的増殖能が高く、「HER2蛋白陽性」の事が多いことが特徴です。
 
「左脇の下のはれがあり、細胞診をしました。」
⇒「腋窩リンパ節」に転移が無ければ、(手術時に)センチネルリンパ節生検を行います。
 ※センチネルリンパ節生検については、ホームページの「乳癌の治療」の中の「手術」の中の「センチネルリンパ節生検」を参照してください。
 「センチネルリンパ節生検の取り扱い」については「乳癌の治療」の中の「センチネルリンパ節生検」に載せています。
 
「HER2蛋白があり、術後補助療法として化学療法、分子標的療法を行う」
⇒乳癌術後の再発予防の治療(補助療法といいます)は、「癌細胞の性質=サブタイプ」に応じて決まっています。
 「HER2蛋白陽性」であれば、ハーセプチン(分子標的薬です)を含む化学療法を行います。
 
◎この部分は、「自分の乳癌が、どういうタイプ?⇒だから、こういう治療を行う」理解をするのにとても重要です。
 是非、トップページの「乳癌の分類」を見てください。(更に、後半に載せた「治療法の選択」をじっくり見てください)
 

 質問者はホルモン療法感受性(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)はどうでしょうか?

  1. もしホルモン感受性陽性ならば「治療法の選択」の表でluminalB-like(HER2陽性)にあたります。
  2. もしホルモン感受性陰性ならば「治療法の選択」の表でHER2陽性(non luminal)にあたります。

「1」であれば、術後の治療として「化学療法」+「分子標的(ハーセプチン)」+「内分泌療法(ホルモン療法)」となるし、
「2」であれば、術後の治療として「化学療法」+「分子標的(ハーセプチン)」のみとなります。

 
「左胸に腫瘍が広がっていますので、乳房切除した方が良いですか。」
⇒乳頭から「石灰化を伴い」広範囲に拡がっているようですので、「乳房切除が安全」であることは間違いありません。
 
「手術までに癌が転移しないか心配です。大丈夫でしょうか。」手術より先に化学療法を行った方が良いでしょうか。」
⇒4月に手術であれば、全く心配ありません。大丈夫です。
 
「手術より先に化学療法を行った方が良いでしょうか。」
⇒「手術先行」でいいと思います。
◎術前化学療法を勧めるケース
 「腫瘍が大きいために、そのままでは温存できないが、(術前化学療法をすることにより)小さくして温存を希望する場合」には「術前化学療法の最良の適応」となります。
 ただ、質問者の場合は「石灰化を伴い広範に拡がっているので」たとえ、術前化学療法をして「しこり自体が小さくなっても」結局「もともと石灰化の拡がっている範囲は切除」しなくてはなりません。
 (腫瘍が残存している可能性が高いため)⇒結局、「(たとえ術前化学療法をして腫瘍が小さくなっても)切除が安全」なのです。 
 ※また、「化学療法は術前でも術後でも」生命予後に対する効果は同等であることが解っています。私は「手術先行」をお勧めします。
 
「HER2蛋白が高いと言われましたが、組織診でグレードがわかりますか。」
⇒組織診で解っている筈です。
 担当医に尋ねてみてください。
 ※HER2陽性のタイプでは 核グレード1ではないでしょう。(2か3だと思います)