Site Overlay

リンパ転移を放射線照射で大丈夫か

[管理番号:2368]
性別:女性
年齢:53歳
いつも拝見させていただいてます。
乳がんとわかった時はショックでしたが、
田澤先生のホームページを知り大変勉強になります。
年齢53の者です。
質問させてください。
毎年、乳腺専門クリニックで検診していましたが、
昨年3月の検診で問題なく、10月に自分でしこりに気づき、
再診すると結果手術時には21ミリになっていました。
昨年2015年12月に右乳房温存の日帰り手術を受け、今、術後、1ヶ月半です。
手術前の診断では、ステージ2Aと言われました。
手術後の病理結果。
乳房温存術 センチネルリンパ節生検
浸潤ガン 硬癌
腫瘍径 21x21mm (54x27mm)
浸潤度 脂肪織
リンパ管浸襲 +
血管浸襲 0
グレード 1
ホルモン受容体 ER 陽性 針生検時:99 手術後:90
PgR 陽性 針生検時:99 手術後:98
HER2蛋白  針生検時:1+ 手術後:2+
リンパ節転移(郭清した場合):(総摘出数:1個)
転移数 1個
切除断端:陰性
Ki67 針生検時:29% 手術後:12%
質問1 
担当医からはKi67 12%などの判断から、HER2 FISH陽性の可能性はかなり低いので
費用も高いし、FISH検査不要と言われましたが、心配材料を減らすために、FISH法を現在依頼中、2月中旬の結果待ちですが、不要だったのでしょうか?
田澤先生のご意見をお聞きしたいのですが?
質問2 
12月よりホルモン療法と手術、2月中旬以降で放射線治療2ヶ月を予定しています。
気になるのは、手術後の検査でリンパ転移が1個みつかり、大きさ5.5mm、
これも放射線をあてる治療だそうです。
試験の結果でリンパ転移の大きさは問題なしと言われました。
郭清は不要なのでしょうか?
微小はともかく5.5mmと大きさでも放射線照射で
拡大や転移を防いでいけるものなのでしょうか?
質問3 
いまさらですが、昨年3月の検診で見つかっていれば
ガンももう少し小さく、もう少し早期発見になったのにと悔やみます。
痛みをともなう「しこり」を発見したときは癌が痛みがないと聞いた事があり。
実際、現在の担当医から痛いと思うのは気のせいだと言われました。
一年後の検診まで待とうと思ってしましましたが、
心配になって、早めでよかったと思っています。
マンモもエコーでも見つけにくい、または、見落とされる場合があるのでしょうか?
半年くらいでいきなり大きくなるものなのでしょうか?
今回、紹介を受けた病院に提出するCDデータを受け取りました。
例えば検診を毎回CDで受け取り、データ分析を他の病院で依頼できたりしますか?
これからも検診される女性みなさんのために、検診結果もセカンドオピニオン
すべきなんじゃないかと思いました。
よろしくおねがいいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1c(21mm), pN1, luminal type(HER2 2+ FISH中), NG1, Ki67(針生検29% 手術標
本12%)
「質問1 
担当医からはKi67 12%などの判断から、HER2 FISH陽性の可能性はかなり低いので費用も高いし、FISH検査不要と言われましたが心配材料を減らすために、FISH法を現在依頼中、2月中旬の結果待ちですが、不要だったのでしょうか?」
⇒FISHはすべきです。
 HER2 2+でFISHを施行すると「25%で陽性」となります。
 担当医のいうように「Ki67の値」からすると陰性の可能性が高い(核グレード1でもあり)ですが、「HER2陽性かどうかは大変重要」なのでやるべきなのです。
  
「質問2 
手術後の検査でリンパ転移が1個みつかり、大きさ5.5mm、これも放射線をあてる治療だそうです。 試験の結果でリンパ転移の大きさは問題なしと言われました。
郭清は不要なのでしょうか?微小はともかく5.5mmと大きさでも放射線照射で拡大や転移を防いでいけるものなのでしょうか?」

⇒大丈夫かどうか?と言う前に…
 そもそも事前に「センチネルリンパ節生検での取り扱」について同意がされていますか?
 質問者のケースは③にあたります。
 ACOSOG Z0011(臨床試験)での条件「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たしているので、「郭清の有無で生存率も再発率も差がない」との結果が「そのまま当て嵌まり」ます。
 そしてそれは2014のASCOガイドライン『「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転移」であれば、腋窩郭清を省略すべき』にも従っています。
 因みにそれは、乳癌診療ガイドラインでは 推奨グレードC1となっているのです。
 その意味では「郭清は不要」であり、「放射線で十分」という解釈が成り立ちます。
 ★術前に、以上のような根拠を示し、「肉眼的転移を認めても、あなたの場合には郭清省略の基準を満たすので、そのようにします」と同意がされていれば問題ありません。
 以下に「センチネルリンパ節生検についての考え方」を示します。
 ①SLN(センチネルリンパ節)に転移を認めない場合には「腋窩郭清は省略」する
  これについては「疑問の余地」はありません。
  世界のスタンダードと考えていただいて結構です。
  もしもいまだに「日本の地方のどこかで(ひっそりと)明らかなN0症例に対して、センチネルリンパ節生検をせずに腋窩郭清をしている(一般)外科医が居るとしたら、非難されるべき時代」と言えます。
 ②SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
  これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結構です。
 IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
 これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清の省略が勧められる」乳癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
                                   
♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
 ③SLNに肉眼的転移(>2mm)を認めた場合
 ここが、正に「議論の多い」ところです。
 ・SLN転移陽性患者の約半数は非SLN転移を有していない
 ・ACOSOG Z0011(臨床試験)では、以下の条件
 「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」
「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たす場合には「郭清の有無で生存率も再発率も差がない」との結果
 ・2014のASCOガイドラインでは「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転移」であれば、腋窩郭清を省略すべき
 これらの中で「適切な基準に基づいて腋窩郭清省略を考慮しても良い」乳癌ガイドライン推奨グレードC1となっています。
 この「適切な基準」というのが各施設で様々なのが現状です。
 
「質問3 
マンモもエコーでも見つけにくい、または、見落とされる場合があるのでしょうか?」
⇒まず、「マンモグラフィー」は(年齢や乳腺濃度などの条件にもよりますが)もともと「小さな病変の描出には(高齢者以外には)むかない」ものと考えてください。
(その意味でマンモで捉えられなかったとしても仕方がありません)
また「エコー」の場合には「術者による技量の違い」が大きいので「純粋な意味での見逃し」も起こりえます。
♯これは超音波検診の「永遠の課題」となるでしょう。
つまり本来、「エコーは臨床経験豊富な乳腺外科医自身が行うべき」なのですが、まさか「検診に引っ張りだす訳にはいかない」(マンパワー的に)事情が大いにあります。
「半年くらいでいきなり大きくなるものなのでしょうか?」
⇒「病変自体は存在していた」と普通は考えます。
 
「例えば検診を毎回CDで受け取り、データ分析を他の病院で依頼できたりしますか?」
⇒最近、「検診で石灰化を指摘され、経過観察でいい」と言われたけど「本当に大丈夫か?」と「マンモグラフィー画像を持参で」受診される方が目立ってきました。
 これなんかは、該当するケースと言えるかもしれません。
 勿論、それで受診は大丈夫です。
 
「これからも検診される女性みなさんのために、検診結果もセカンドオピニオンすべきなんじゃないかと思いました。」
⇒気持ちはわかりますが…
 但し問題は「エコー画像」です。
 これは実際に行った者(術者)が「何もなしとしてスル―」した場合には何も残らないのです。(マンモと違って)エコーは(術者が気にならない限り)何の写真も残らないのです。