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局所再発の治療方針

[管理番号:4948]
性別:女性
年齢:53歳
田澤 先生 
はじめまして。
先生はお忙しい中、皆さんの質問に丁寧にかつ分かり易くご説明されており、大変感銘を受けています。
今日は、私の局所再発の治療方針について質問いたします。
病歴  2001年9月(15年半前)に初発の乳がん左胸全摘手術
病理検査結果 腫瘍大きさ:多発 2.5cm 1.8cm 
       リンパ節転移:7個(13個中) 全て1群(1番大きいもの 
       で、2㎜) 2群無し
       エストロゲン、プロゲステロン受容体共に、陽性反応、
       高い数値
       HER2 陰性
       組織異形度 2
       切除組織断末 陰性
       (口頭での説明だったので、少しあやふやな点がありま
        す)
治療歴 抗がん剤CEFを6クール(12回)
  LH-RHアゴニスト(ゾラデックス) 2年間
    ノルバテックス(タモキシフェン) 5年間服用
    (当時の主治医の知識不足か、全部同時スタートでした)
    放射線治療はなし
    乳房再建もしておりません
再発 今月、左胸胸壁傷跡にしこりを発見し、6月17日、エコー、生検
   の結果、悪性でした
病理組織検査結果  大きさ 12㎜大  浸潤性乳管癌
         悪性度  2
ER 陽性 98.4% PgR 陽性 14.5%
Her2 陰性 (score 1+)
         Ki67 9.6%
ルミナル型(A型)
PET-CT結果  腋窩、鎖骨上、縦隔リンパ節転移なし
        肺、肝、副腎、骨、脳に転移なし
治療 (中旬)日より、フェマーラ錠を服用
生検の結果が出るまでに、こちらのQ&Aを拝見して、田澤先生の治療方針を学ばせていただきました。
 局所再発は、取り残したがん細胞が大きくなったもので、第一選択は、手術で、必要ならば+放射線治療で、再び根治を目指すという方針です。
私もそのようにしたいと思っていたのですが、主治医の判断は以下になります。
今見えている癌をとれば良いように思われるかもしれませんが、目に見えない癌細胞が広がっていて、採ってもまた出てくる可能性が高い。
 
今すぐ採ったら、フェマーラの効き目が分からないので、小さくなるかひと月様子をみたい。
 小さくならなかったら薬を替えてみる。
 私が、小さくなったら手術してもらえるのか尋ねたら、曖昧な返事でした。
私が手術を希望すると、あなたが採りたいと望むのであれば、採るのはいつでも簡単なことで手術します。
 ただ、(エコー画像を見ながら)組織をどこまで拡大して採るか判断が難しい。
採った後に、腹か背の筋肉を回して蓋をするとか。
 放射線治療も聞いてみましたが、そのような対処療法はいつでも出来ると言われました。
とにかくゆっくり考えて決めてくださいとの事でした。
 なんとなく、再発転移することが前提で、お話されている印象を持ちました。
私は、しこりを採って、胸壁に放射線治療をすれば良いのかと思っていました。
 が、筋肉を回してくるといった形成外科的な手術に、それが必要なのか分かりませんし、大掛かりな手術をしてもまたすぐにしこりができたらと思うと、恐怖ですし、なにを選択したらよいのか分からなくなってしまいました。
しかし、ぐずぐずして癌が大きくなり、遠隔転移したら取返しがつかないので、今こそ迅速にかつ重大な判断をしなければならないと覚悟しております。
再発転移に関しては、治療のガイドラインや情報も少なく、先生の意見もまちまちで、どうすれば良いのか大変悩みます。
田澤先生のご意見をお聞かせいただければと思います。
放射線治療に関しては、体に負担の少ないトモセラピーをと考えていますが、今のクリニックにはありません。
 関西在住ですが、良い治療を望んで、東京まで出向くことも視野に入れています。
ちなみに今の主治医は、初発の執刀医ではなく、以前に通っていた病院の乳腺外来が閉鎖された時に転院させられた病院の主治医で、クリニックを独立開業されました乳がんの認定医専門医の先生です
どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
局所再発に関しては、私が最近感じていることを今週のコラムに掲載しているのでご理解していただけていると思います。
ただ、(当然ながら)質問者にとっては(言っている事が異なっている場合に)「主治医と私とどちらを信用すればいいのか?」と悩むのも無理はないでしょう。
質問者にとっては担当医は「real」であり、私は(ネット上の)「仮想の自分物」なのですから…
ただ、その担当医は「純粋な局所再発」という概念がなく、(おそらく頭でっかちに)「乳癌は全身病だから、局所再発は必ず全身にも(PETで見えなくても)ある筈」という固定観点があるようです。
確かに、そう言うケースは「乳がんの再発がコントロールを失った状況(癌の末期への入り口)」などに起こることがあります。
そういう(全身のコントロールを失った)「兆候の一つとしての局所再発」と「純粋な局所再発」の区別はつけなくてはなりません。
☆私が見ている限り「後者」の方が圧倒的に多いのに、巷では「みすみす不適切な治療に終始することで、(癌に無駄な時間を与えることで)局所を手術不能として、結果として(そこからの)全身への進展を起こす」ケースがあるようです。
(余談ですが)
私が「局所再発」について取り上げていることが影響しているのだと思われますが…
最近、全国から局所再発について相談(手術依頼)が増えています。
『今週のコラム 83回目 それを(手術せずに)「みすみす、進行させて手術不能へ追い込む」としたら、それは看過できません。』のようなRotterリンパ節再発はほんの一例で…
「腋窩リンパ節再発」の手術など(私自身の術後にはいらっしゃらないのに)他院での術後再発の手術が増えています。
 中には、「鎖骨下リンパ節再発」の患者さんに対し、担当医は「そこを手術すると神経麻痺になる可能性があるから手術はしない」と患者さんを説得して化学療法を行っていましたが、
 実際には「鎖骨下リンパ節」は普通に手術する部位であり「神経麻痺などおこりようがない」のです。
「再発 今月、左胸胸壁傷跡にしこりを発見」
⇒部位が「傷跡そのもの」であることに注目してください。
 手術時に存在していたものが、ゆっくりと(16年かけて)可視化したのです。
  ♯『全身の再発が「たまたま」前回の傷跡に現れた』では、幾らなんでも説得力がないでしょう。
「PET-CT結果  腋窩、鎖骨上、縦隔リンパ節転移なし 肺、肝、副腎、骨、脳に転移なし」
⇒この時点で「単純な局所再発」として手術すべきです。
「目に見えない癌細胞が広がっていて、採ってもまた出てくる可能性が高い。」
⇒この医師は「目に見えない」もの好きですね。(おそらく、こう言う医師は術前化学療法好きで、その理由として、手術より先に「目に見えない癌細胞を叩く」など、口癖になっているのでしょう)
 
「今すぐ採ったら、フェマーラの効き目が分からないので、小さくなるかひと月様子をみたい。 小さくならなかったら薬を替えてみる。」
⇒かなり危険。
 「小さくならなかった」と薬を変える内に「本当に」手術不能となる可能性があります。
○もしも現在「12mm」ならば…
 担当医に「手術したい」という強い意志をしめすことをお勧めします。
 担当医も「その熱意」に対抗する程の確信は無い筈です。
 ここがターニングポイントとなることは十分考えられます。
 くれぐれも(変な治療をして)「手術不能となってから悩む」ことのないように願います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤 先生
こんにちは。
前回質問した際には、ご多忙のところ適切な回答をすぐにいただき、心から感謝しています。
その後の治療の選択に大きな指針となっています。
本当にありがとうございました。
あれから主治医とも話し合ったのですが、地域の基幹病院にセカンドオピニオンをとり、診察をへて、転院し、すぐに手術の予約を入れてもらいました。
8月中頃手術予定です。
(手術枠がいっぱいで最短でも1月半後でした)
以前のクリニックの主治医は、話す度に提案が変わるといいますか・・・
エコーで悪性腫瘍が見つかった時には、15年経って出てきたから採ったら良くなる、部分麻酔で日帰り手術でも出来る。
と言われたのに、針生検の結果の時には一転、(前回の質問で書いたように)全身病なので薬で小さくなるか見たいと言われ。
再度話し合った時には、大き目に採って形成外科的な手術(腹や背の筋肉を回してくる)をした方が良いと言われました。
私はできれば形成外科的な手術は望まないので、セカンドオピニオンを取ることにしました。
転院先で診察してもらったところ、形成外科的な手術をしなくても、切除出来るとの判断です。
先生が、私の皮膚が縫えるだけの余裕があるか、マジックでしこりに印を付けマージンを付けた箇所でつまんで確認して下さいました。
手術は、しこりにマージンを付けて切除してみて、
顕微鏡で癌細胞の広がりを確認してから、必要なら追加切除しますとの事。
一つ一つの診察、判断が丁寧なのと、希望に沿った治療方針なので、転院することにしました。
あと、不必要に人を不安にさせる言動がなく、
十分に根治が望めますと励まして下さったのも大きなポイントです。
手術後病理結果が出てから質問しようと思ったのですが、前もって自分の考えを持っていたく、気の早い質問をお許しください。
〇きちんと切除できた後、やはり再々発を防ぐ為に放射線治療をした方が良いですか?(初発の時にリンパ節転移が4個以上あったのに当時の執刀医の判断でしていませんでした) 1回しか使えないカードをここで使うと、もし再々発した時に放射線は使えないと心配しますが、再々発はあってはならないと思っています。
〇放射線治療の際は、胸壁だけでなく、腋窩(初発に郭清しています)、鎖骨にもした方が良いですか?
〇放射線の種類はリニアックで良いのでしょうか? 転院先の病院はリニアックなのですが、同じ地域にトゥルービームとトモセラピーを併設した施設があるので、出来れば体に優しい治療を受けたいと思っています。
(しこりを切除する際に胸筋をかなり削ることになるので、肺や肋骨までの距離が近くなり副作用を心配しています。)
胸筋局所再発という結果に大変ショックを受け、落ち込む日々ですが、
過去のQ&Aを読んで、先生が繰り返し発信されているポリシー(自分なりの解釈です)を拠り所に治療に前向きに取り組んでいきたいと思っています。
適切な医療機関で信頼できる医師にガイドラインに沿った標準治療してもらう。
自分の病状を理解し、物事をシンプルに考える。
余計な不安にとらわれず、やるべき事をしていく。
どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
非常にいいですね。
手術する事に大賛成です。
「〇きちんと切除できた後、やはり再々発を防ぐ為に放射線治療をした方が良いですか?
(初発の時にリンパ節転移が4個以上あったのに当時の執刀医の判断でしていませんでした) 1回しか使えないカードをここで使うと、もし再々発した時に放射線は使えないと心配しますが、再々発はあってはならないと思っています。」

⇒局所再発に術後照射が必須なのかは議論のあるところですが…
 私も(質問者同様)「後に取っておくという消極的考えでは無く」可能な限り、完璧を狙う(つまり術後照射)がいいと(感覚的に)思います。
「〇放射線治療の際は、胸壁だけでなく、腋窩(初発に郭清しています)、鎖骨にもした方が良いですか?」
⇒これは不要です。
 その部位は、きちんと術後に定期的にUSチェックすべきです。
「〇放射線の種類はリニアックで良いのでしょうか?」
⇒ただの胸壁照射なのだから、それ(リニアック)で十分です。
「適切な医療機関で信頼できる医師にガイドラインに沿った標準治療してもらう。自分の病状を理解し、物事をシンプルに考える。余計な不安にとらわれず、やるべき事をしていく。」
⇒素晴らしい。
 このQandAをご覧になった方々に響くことを願います。