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高齢者の化学療法について

[管理番号:4639]
性別:女性
年齢:74歳
よろしくお願いします。
74歳になる母が、浸潤性小葉がんと診断され、先月下旬に左胸乳房全摘手術を受けました。
手術の結果、リンパ節への転移があり、腫瘍の大きさが9cmであるなど、思ったより進行していることがわかりました。
 
 高齢であり、副作用が怖いことから、化学療法をしない方向で考えていましたが、高リスクなのであれば、化学療法を行うべきか迷っています。
病理検査結果は以下のものでした。
腫瘍径:9cm
リンパ節転移個数/摘出個数 7/21
エストロゲン受容体 陽性5%、プロゲストロン受容体 陰性
組織学的異形度 グレード2
脈管浸潤 あり
HER2 判定 陰性
Ki67 2%
主治医からは、化学治療(タキサン系、TC、3w×4サイクル))を勧められました。
(若い人の場合はアンスラサイクリング系の抗がん剤も行うが、高齢でもあるし、TCのみとのこと)。
また、放射線療法とホルモン療法(レトロゾール)もすると言われています。
相談させてください。
治療をしなかった場合、再発する割合は何パーセントくらいあるでしょうか?
そのうち、化学療法(TCのみ)でどれくらい、再発を減らすことが期待できますか?
ホルモン療法も同様に、どれくらい、再発を減らすことが期待できますか?
母はわりと元気な方ですが、高齢者でも化学療法(TC)を完遂できる可能性は高いものでしょうか
先生も、母の状況(検査結果)を考えれば化学療法を行うことを勧めますか?
年齢を考慮し加減するということだと思いますが、化学療法をTCのみ行い、アンスラサイクリングは行わないことについて、先生はどのようにお考えになりますか。
浸潤性小葉癌で、データがないのかもしれないと思っていますが、大体のイメージでも結構ですので教えてください。
本当に迷っており、いろいろお聞きしすみません。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
まず重要なことは
1.70歳以上での術後補助化学療法の有効性は証明されていない。
2.小葉癌は、大人しいものが多く、浸潤径は大きくなりがちだが、(乳管癌での)浸潤径と同等に評価はできない
3.Ki67=2%は抗癌剤が効くとは思えないが(ER=5%であり)ホルモン療法が効果が期待できない(トリプルネガティブに近いかたち)ので化学療法の適応を検討せざるをえない
以上、1~3より、(私であれば)weekly PTXを勧めるでしょう。
しかし、(化学療法に消極であれば)ホルモン療法単独とすることに「何の躊躇も」ありません。(そもそも化学療法の有効性に根拠はないのです)
「治療をしなかった場合、再発する割合は何パーセントくらいあるでしょうか?」
⇒20%程度です。
「そのうち、化学療法(TCのみ)でどれくらい、再発を減らすことが期待できますか?」
⇒1%程度です。
「ホルモン療法も同様に、どれくらい、再発を減らすことが期待できますか?」
⇒4%程度です。
「母はわりと元気な方ですが、高齢者でも化学療法(TC)を完遂できる可能性は高いものでしょうか」
⇒高いとは思いますが…
 バランスからすると、(もしも)化学療法するならweekly PTXでしょう。
「先生も、母の状況(検査結果)を考えれば化学療法を行うことを勧めますか?」
⇒強くは勧めません。
「年齢を考慮し加減するということだと思いますが、化学療法をTCのみ行い、アンスラサイクリングは行わないことについて、先生はどのようにお考えになりますか」
⇒決してアンスラサイクリンは行うべきではありません。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

回答いただきありがとうございました。
回答内容について、教えていただきたいことがあり、質問させていただきます。
・浸潤性小葉癌であることやリンパ節に転移していたこと、組織学的異型度(がん細胞の悪性度)がグレード2であることなどから、再発するリスクが高いだろうと心配していたため、治療をしないときの再発リスクが20%程度との回答は思ったより少なめで驚きました。
(少し安心しました)
Ki67の値が低いことと関係しているのでしょうか?
20%程度とされた根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。
(もしデータや計算式等があれば教えていただけませんでしょうか。)
・化学療法は、再発する人の30%程度、再発を抑制する効果があると聞くことがあったのですが、それと比べても、またホルモン療法と比べても効果が低いことが意外でした。
化学療法(TCのみ)で再発を減らす効果が1%とされた根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。
・ホルモン療法の効果が4%とされているのは、ホルモン療法単独での効果ですか?もし化学療法と合わせた効果であれば、ホルモン療法単体の場合、4-1=3%の効果と考えてよいでしょうか。
・ホルモン療法の効果4%の根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。
・PTXは「しびれ」の副作用があり、TC療法だとそれが少ないと聞きました。
先生ならPTXを勧められるとのことですが、どの点からでしょうか。
(TCより再発抑制効果の%が上がるのでしょうか。
他の副作用が減るのでしょうか。)
化学療法の再発抑制効果が1%程度であれば、副作用や高齢であることを勘案すれば化学療法はしないのが普通の判断だと思われますよね。
お忙しいところ大変恐縮ですがご教示お願いします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「浸潤性小葉癌であることやリンパ節に転移していたこと、組織学的異型度(がん細胞の悪性度)がグレード2であることなどから、再発するリスクが高いだろうと心配」
⇒そもそも
 「浸潤性小葉癌」は再発高リスクではありません。
 「グレード2」も普通のグレードです。
「20%程度とされた根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。」
⇒統計ソフトと「小葉癌であること(浸潤径を乳管癌と同一に評価ができない)」です。
「・化学療法は、再発する人の30%程度、再発を抑制する効果があると聞くことがあった」
⇒これは、実際にOncotypeDXをすれば解るのですが…
 ルミナールAでは「化学療法の上乗せ」は殆どゼロとなります。
 化学療法の作用点は「DNAの合成」や「核分裂そのもの」の阻害なので、(そもそも)「Ki67が低い=細胞分裂をあまりしていない」癌には効果がないことは予想がつきます。
「化学療法(TCのみ)で再発を減らす効果が1%とされた根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。」
⇒上記理由です。
「・ホルモン療法の効果が4%とされているのは、ホルモン療法単独での効果ですか?
もし化学療法と合わせた効果であれば、ホルモン療法単体の場合、4-1=3%の効果と考えてよいでしょうか。」

⇒その通りです。
「・ホルモン療法の効果4%の根拠・考え方を教えていただけませんでしょうか。」
⇒再発率20%と同様です。
「・PTXは「しびれ」の副作用があり、TC療法だとそれが少ないと聞きました。」
⇒実際にやってみれば明白ですが…
 PTXとDTXの違いというよりは、「weekly」投与と「triweekly」投与の違いが最も大きいのです。
 「triweekly」であるTCは「抗癌剤の副作用が、(3週間分)一気にくる」のに対し、「weekly」であるPTXは「徐々に(ゆるやか)」であるため、継続ができるのです。
「先生ならPTXを勧められるとのことですが、どの点からでしょうか。」
⇒副作用が軽いから、(たとえ高齢でも)安心して継続できます。
 TCの場合には(高齢者であれば)1回の投与で「私、こんなつらい事、もう嫌だ」となり兼ねないのです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

お世話になっております。
先日から「高齢者の化学治療」について質問に重ねて回答いただきありがとうございました。
とても参考になりました。
母と同じような状況の方々の参考にもなればと願っております。
重ねての質問になり恐縮ですが、リンパ浮腫と放射線療法について質問させてください。
母は手術からもうすぐ1ヵ月になるところですが、「胸の手術あとのあたりが、硬く、重たく感じることがある」とか「胸(脇)と腕の部分が、皮膚が擦れているのか、衣服が痛いのか、または他の原因なのか分からないがチクチク痛む」などと不具合を言っています。
とくに疲れた時になるような気がするらしく、そのような時は、マッサージをして改善させているようです。
リンパ浮腫の兆しなのではと心配していますが、どのように考えられますか?
また、リンパ節に転移していたためリンパ節は摘出したものの、放射線療法を勧められています。
他のHPに「放射線治療によりリンパの流れが停滞してリンパ浮腫になる(ことがある)」との記述があり、患部の不具合やリンパ浮腫への不安を感じているなかで、放射線治療を行ってよいものなのかと悩んでいます。
先生はどのようにお考えになりますか?
そもそも温存手術の場合は放射線療法は必要と聞きますが、母のように全摘し、リンパ節をとっていても、7個/21個 リンパ節に転移していれば、転移が多いと考えられるので、放射線療法をしたほうがよいと考えるものなのでしょうか。
また、母は「放射線治療は皮膚が固まるらしいので、放射線治療を行うとしても、手術の創がもう少し回復し落ち着いてからのほうがよいのでは?(例えば1月後とか)」と言っていますが、先生はどのようにお考えになりますか?
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「リンパ浮腫の兆しなのではと心配していますが、どのように考えられますか?」
⇒リンパ浮腫とは無関係です。
 術後の(感覚)神経障害だと思います。
「また、リンパ節に転移していたためリンパ節は摘出したものの、放射線療法を勧められています。」
⇒リンパ節転移4個以上では「乳房全摘後の照射:postmastectomy
radiotherapy(PMRT)」の適応があります。
 勘違いしていけないのは、「リンパ節転移があったから、その部位へ照射する」ではなく、あくまでも照射部位は「胸壁+鎖骨上」です。(つまり転移のあった「腋窩」ではないのです)
 考え方としては(腋窩は郭清しているわけだから、その部位にかける必要はなく)
「リンパの流れのその先へ予防照射したい」というものであり、(胸壁に関しては単純に、「ある程度進行している場合には、局所再発も起こりうる」という考えからです)
 結果として(エビデンスとして)照射を行う事により(局所再発率の低減だけでなく)「生命予後の改善効果もある」のです。
 ♯ただし、「生命予後の改善効果」は、全身療法が現在ほど発達していなかった「少し昔」のデータです。
  根拠となった論文はIs the benefit of postmastectomy irradiation limited to patients with four or more positive nodes, as recommended in international consensus reports? A subgroup analysis of the DBCG 82 b&c randomized trials.2007であり、15年後の生存率の比較ということは、「(解析時に)手術して少なくとも15年以上経っている患者さんが対象」となっています。つま
り1990年前後に手術をした患者さんなのです。(治療のレベルが全く異なります)
「先生はどのようにお考えになりますか?」
⇒(腋窩に照射するわけではないので)それによって「患肢浮腫」のリスクはあまり変わらない筈です。(実際は)
 照射は「副作用も少ない」ので「ガイドライン通り、推奨」します。 推奨グレードA
「手術の創がもう少し回復し落ち着いてからのほうがよいのでは?(例えば1月後とか)」と言っていますが、先生はどのようにお考えになりますか?」
⇒待つ必要はありません。
 特に創部異常がなければ、「2週間以上空いていれば」開始してもいいでしょう。
 
 

 

質問者様から 【質問4 高齢者の化学療法について】

性別:女性
年齢:75歳
昨年、田澤先生にアドバイスいただいた者です。
その際はお世話になり
ありがとうございました。
改めて質問させていただきます。
75歳の母が、昨年2月浸潤性小葉がんと診断され、昨年の3月下旬に
左胸乳房全摘手術を受けました。
 
 病理検査結果は以下のものでしたが、高齢であり、副作用が怖いこと
から、化学療法は行いませんでした。
腫瘍径:9cm
リンパ節転移個数/摘出個数 7/21
エストロゲン受容体 陽性5%、プロゲストロン受容体 陰性
組織学的異形度 グレード2
脈管浸潤 あり
HER2 判定 陰性
Ki67 2%
手術後、放射線治療の後、ホルモン療法(レトロゾール)を続けてきた
のですが、先週受けたCT検査の結果、肝臓に5cmくらいの転移した腫瘍のほか複数の腫瘍が見つかりショックを受けています。
主治医からは完治は見込めず、腫瘍の進行を遅らせるよう化学療法(アバスチン+パクリタキセル)を示されました。
副作用が怖く、抗がん剤の使用に消極的であることを伝えているので、副作用が少ない、飲む抗がん剤(TS‐1)も示されました。
それぞれ副作用や効果も人それぞれでわからないとのことで、抗がん剤治療を行わないことにするのかどうかを含めて、悩んでいます。
脱毛がTS-1はなさそうなことや、通院等の負担、副作用を考えると、
飲む抗がん剤(TS‐1)の方が生活水準を下げなくて済みそうな気がしています。
田澤先生は飲む抗がん剤(TS‐1)を選択することについてどのように考えられますか。
点滴による抗がん剤(アバスチン+パクリタキセル)と飲む抗がん剤
(TS‐1)は、効果にどれくらいの違いがあるのでしょうか。
それぞれ、どれくらいの効果が見込めるものでしょうか。
また主治医からは効果が見られれば抗がん剤を継続して使うと聞きましたが、高齢者が点滴による抗がん剤(アバスチン+パクリタキセル)による治療を、生活水準をそれほど落とさず、日常生活を続けながらずっとできるものなのでしょうか。
TS-1による治療であれば生活水準をそれほど落とさず、日常生活を続けながらできるものなのでしょうか。
抗がん剤を試してみて、副作用があまりなければ続け、いやであればやめるというつもりで考えるべきでしょうか。
自覚症状や痛みが出てきてから、抗がん剤を行うという考え方はありますでしょうか。
現在、元気なので、残りの人生を抗がん剤の副作用に苦しむ期間に費やして寿命を延ばす道を探るべきなのか、できるだけそのままの今の時間を長く過ごすべきなのかとか悩んでいます。
抗がん剤治療をせずにそのままにしておいたときの苦痛と、抗がん剤による苦痛にその延命や症状改善の効果を差し引いたものを比べて、どちらがましなのか等、悩んでいます。
アドバイスいただけませんでしょうか。
ご教授いただければと考えております。
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答4】

こんにちは。田澤です。
抗癌剤に対して、「かなりの勘違い」がありますね。
Bevacizumab + paclitaxel(bev+PTX)はとてもいい抗がん剤です。(効果と副作用のバランスが抜群!)
ちなみに肝転移で上記治療+eriblinなどで2年以上「生活の質を落とさずに」過ごしている患者さんが居ますよ。(80歳代です)
その患者さんは、「いい状態を維持」したまま ホルモン療法+パルボシクリブで「何ともないねー」という状態です。
「点滴による抗がん剤(アバスチン+パクリタキセル)と飲む抗がん剤(TS‐1)は、効果にどれくらいの違いがあるのでしょうか。」
⇒雲泥の差があります。
 (私の経験上)TS-1の効果は、かなり限定的です。
「それぞれ、どれくらいの効果が見込めるものでしょうか。」
⇒bev+PTXであれば…
 画像上、消失させることも夢ではありません。(そこまでいかなくても、「いい状
態にまずは持ち込める」可能性は高い)
 TS-1だと、「いい状態まで持ち込む」ことは困難で(考え方としては)「現状
維持」となります。
「高齢者が点滴による抗がん剤(アバスチン+パクリタキセル)による治療を、生活水準をそれほど落とさず、日常生活を続けながらずっとできるものなのでしょうか。」
⇒勿論!
 冒頭の患者さんがいい例です。
 それと『今週のコラム 123回目 QOLを保ったまま(胸部Xpも正常だし、無症状)、副作用も問題なく継続できる。』もご参考に。
「TS-1による治療であれば生活水準をそれほど落とさず、日常生活を続けながらできるものなのでしょうか。」
⇒逆です。
 TS-1は意外と副作用が強く(食欲低下や下痢など)、私からみれば「bev+PTX」の方が「効果も強く、副作用も弱い」です。