Site Overlay

リンパ節微小転移乳癌への抗がん剤追加要否

[管理番号:861]
性別:女性
年齢:49歳
 
 

質問者様の別の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の別の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:1934「全摘で郭清省略(微小転移の為)後の腋窩照射の要否

 
 
 
 

質問者様の別の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の別の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:1120「浸潤性微小乳頭がん?

 
 
田澤先生
はじめまして。
7月中旬に受けた右乳房切除術の病理結果が8月上旬に出たのですが、主治医から(ホルモン剤(タモキシフェン)に追加して)抗がん剤(アンスラサイクリン3カ月及びパクリタキセル3カ月)を強く推奨されました。
[ 病理結果 ]
浸潤腫瘍径 1.10 X 0.40 X 0.20 cm
乳頭線管がん
核異型スコア 2 核分裂スコア 1 ( 0/10HPF ) 核グレード 1
ER Allred PS5 IS3 TS8 PgR ALLred PS5 IS3 TS8
HER2 score 0
Ki-67 13.0%
リンパ管侵襲 ly2 静脈侵襲 v0
リンパ節転移 SNB陽性(1/5)(0.2mmのmicrometastasis有り。数値的にギリギリだが、isolated tumor cellsではなく、病理医は、定着化されたものと判断した模様)
pT1c pN1mi M0 Stage ⅡA
[尚、他に二件の非浸潤癌有り(腫瘍径 1.30 X0.50cm及び0.80 X 0.50cm)]
主治医が抗がん剤の追加を強く推奨する理由は以下の通りです。
(1)微小転移とは言え、リンパ節転移が1件有ること。(転移巣ができたということは、がん細胞が回数を重ねて流れ出した結果であり、また、既に転移能力を備えたと考えるべき)
(2)リンパ管侵襲が中等度のly2であり、複数の切片標本にて、がん細胞がリンパ管の中にしっかり入っていること。(細胞レベルでは、既にがん細胞が流れ出して全身に回っていると考えるべき。~塞栓状態かは説明無し)
(3)閉経前であり、将来が長いこと。
(4)サンクトガレンのコンセンサス上の「抗がん剤追加基準」は大雑把過ぎ、単純にそのまま適用することはできないこと。
私としては、以下の理由により抗がん剤の追加には抵抗を感じています。
(a)ルミナールAタイプには、抗がん剤による上乗せ効果が余り期待できないと言われていること。(乳癌診療ガイドライン 薬物療法CQ15)
(b)リンパ節転移数は、1個であり、サンクトガレンのコンセンサスによれば、「ER陽性HER2陰性タイプにおける抗がん剤の追加基準」上は、中間の「判断不適」に属すること。
(c)リンパ管侵襲ly2は、サンクトガレンのコンセンサス上の「腫瘍周囲の広範な脈管侵襲」に相当するのかは微妙ですが、センチネルリンパ節生検の理論的根拠である「がん細胞は最初に到達したリンパ節を通り抜けることはできない」という仮説から見れば、ly2の結果として、pN1miというリンパ節微小転移陽性が出ていると思われ、ly2のみを取り出して、特に強く注意すべきかについては疑問を感じること。
以上から「抗がん剤の追加」の妥当性について田澤先生のご意見をお聞かせ願えませんでしょうか。
また、できましたら、私の症例について、「ホルモン療法のみの場合の10年無再発生存率(又は生存率)」及び「抗がん剤を追加した場合の10年無再発生存率(又は生存率)」の大凡の予想値を教えて頂けませんでしょうか。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 pT1c(11mm), pN1mi, luminalAですね。
 しかも殆どITC(pN0)ですね。
 これで「抗がん剤を勧める」とは、私には考えられません。
 それにしても「質問者の理解」には驚きました。
 私が付け加える必要が無いほどです。

回答

『「抗がん剤の追加」の妥当性について』
⇒妥当性はありません。
 明らかに「St.Gallenのコンセンサスを無視」しています。
○St.Gallen 2015でのluminalAでの「化学療法を追加する因子」
 これは「リンパ節転移4個以上」だけであり、その他の因子(リンパ節転移1~3個、腫瘍サイズ、脈管侵襲など)は全く無関係としています。
 抗がん剤は不要です。
 そもそもluminal Aでは化学療法の「上乗せ効果」は小さい
  
 ♯特に注目するのは『核分裂スコア 1 ( 0/10HPF )』です。核分裂している細胞が全く見つからなかった訳です。私の経験でも「0」は殆ど記憶にありません。
 これは「luminal Aの中でもかなり大人しい=化学療法が意味がない」と言えます。
 
「ホルモン療法のみの場合の10年無再発生存率(又は生存率)」
⇒11%です。
 
「抗がん剤を追加した場合の10年無再発生存率(又は生存率)」
⇒7%です。(化学療法追加による上乗せ効果は4%となります。)
 
 

 

質問者様から 【質問2 リンパ節微小転移乳癌への抗がん剤追加要否】

田澤先生、
お忙しい中、早速ご返答下さり有難うございます。
先生から頂いた情報で、大分気持ちが軽くなりました。
(1)念の為、確認ですが、「11%」及び「7%」というのは、「再発率」という理解でよろしいでしょうか。
(2)「脈管侵襲 ly2」については、私としては、最初の質問メールにて、「ly2のみを取り出して、特に強く注意すべきかについては疑問を感じる」と半ば自己流の解釈を持ち出したものの、例えば、2012年6月の日本乳癌学会にて、川崎医科大学の鹿股先生が、「術後に内分泌療法のみを受けた乳癌における遠隔再発の予測因子はPgR陰性、高度脈管侵襲(ly3)及びKi-67値30%以上」という論文を発表されたりしていることが心に引っ掛かって、(ly3とly2という違いはあるものの)正直、強い不安を感じていた次第です。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。

回答

『念の為、確認ですが、「11%」及び「7%」というのは、「再発率」という理解でよろしいでしょうか。』
⇒その通りです。
 
「術後に内分泌療法のみを受けた乳癌における遠隔再発の予測因子はPgR陰性、高度脈管侵襲(ly3)及びKi-67値30%以上」
⇒質問者の心配は解ります。
 ただ、「この世界に身をおいている」私が言えることは
 この手の論文は「あくまでも自施設での限られた症例をretrospectiveに(振り返って)調査したら、こういう結果だった」というものです。
 勿論、そう言う結果を完全否定するべきではありません。
 但し、本当に「信頼できる(エビデンスの高い)研究結果」は「大規模臨床試験であり、前向き研究」なのです。
 
 「ある医師が、自分の病院の過去10年間の(限られた)症例で調査したら、これこれがリスクファクターだった」という情報が「インターネットの中」には溢れています。
 それをひとつひとつ「取りだして」自分に当てはまる。といって嘆く必要はありません。