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抗がん剤は必要かどうか

[管理番号:5041]
性別:女性
年齢:66歳
6/(下旬)に66歳(閉経後)の母が左側の乳房の浸潤性乳管がんと診断されました。
2年に一回はマンモグラフィ・1年に一回は超音波検査をしていたので
すが、検診では問題なしと言われ続けてきました。
6月に入り乳房に違和感(えくぼが出来てきてひきつってる感じ)を覚えかかりつけの婦人科で超音波検査をしてもらったところ
2センチぐらいの腫瘍があるので大きな病院で精密検査を受けたほうが
よいとのことで6/(中旬)に大学病院で精密検査を受け、
6/(下旬)に乳がんと診断されました。
その結果が以下のものです。
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超音波検査報告書の内容です。
(報告書に記載の通りを入力しています。)
【乳腺実質エコー】WNL
【乳管拡張像】なし
【腫瘤性病変】(+)部位CADE
大きさ:(縦×横×深)50×39×17mm、縦横比0.34
形状:不整形
内部エコー:低等、不均質、充実性
境界部:不明瞭、halo(-)
後方エコー:不変、側方陰影(-)
高エコースポット:(+)微細点状点状(※このように報告書には記さ
れてあったのですが、微細点状なのか点状なのかよくわかりません)
血流:(+)内部周囲
【所属リンパ節】
【腋窩リンパ節】(+)
扁平、中心部高エコー(+)
コメント:拡がり=57mm、Nippleとの連続性(+)
カテゴリー4
報告書に記載されている左乳房を4等分した図には
左上(A)、乳頭(E)、右上(C)に充実性病変と石灰化の印が書いてありました。
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次に乳腺針生検の病理組織診断報告書の内容です。
病理組織診断
-Lt.breast CNB-
Adequate,malignant
Invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma ER(+)(90%), PgR(+)(70%),
HER2 score 2, Ki67 5-10%
病理組織学的所見
検体はヒダリ乳房3片です。
いずれの切片にも小胞巣状、索状の腫瘍細胞の増殖が見られます。
組織型:invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma nuclear grade:1(nuclear atypia:2, mitotic counts:1) in situ(+) ER(+)(AS:PS5+IS3=TS8), PgR(+)(AS:PS5+IS3=TS8),HER2 score 2, Ki-67 5-10%
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HER2は再検査するそうで結果に1~2週間かかるそうです。
超音波検査ではリンパ節に影はなかったそうです。
遠隔転移があるかどうかはPET-CTの検査をして(6/(下旬)に検査)、次回の診察時(7/(上旬))に結果が分かるそうです。
現時点でのステージは2B以上、悪性度はわりとおとなしめ。
女性ホルモンによって大きくなるタイプ。
遠隔転移がなかったと想定して主治医をお話をしたのですが、
・手術は全摘手術(乳頭に腫瘍が及んでいるので、部分切除しても整容性がとれないため)
・薬物療法は術前にするか術後にするか、次回の診察までに決めること。
(術前に薬物療法をしたほうが標的が見えるので治療が実感できるとのこと)
・ホルモン受容体陽性の腫瘍だけれども、抗がん剤治療も行う。
※ホルモン受容体陽性なのに、なぜ抗がん剤治療が必要なのか聞きそびれたので、次回の診察時に質問しようと思っています。
・術前薬物療法を選択した場合、薬物療法は早くて7/(中旬)から開始できるとのこと。
 FECを3週間に1回を4クール、
 ドセタキセルを3週間に1回を4クール(HER2が陽性だった場合、
ハーセプチンを追加)
・手術は2月~3月頃、
・手術後にホルモン療法を5年
というようなスケジュールになるようです。
抗がん剤の副作用があるから、早めにウィッグを用意するように言われ、診察のあとすぐにウィッグを買いに行きました。
しかし本当に抗がん剤が必要なのか疑問に思ってきました。
仮に遠隔転移なし、HER2陰性だった場合でも腫瘍が大きいので抗がん剤治療が必要なのでしょうか?
自宅に帰り、病理組織診断書をよく見てみると、典型的なホルモン療法が良く効くタイプ(ルミナールA)だと思うのですが。。。
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」のエストロゲン受容体陽性HER2陰性の乳がんに対する化学療法の追加基準の表を
見てみると、病理学的浸潤径という項目が5cm以上なので確かに化学療法追加に該当しています。
(病理検査の結果のin situ(+)というのは
脈管侵襲のことでしょうか?)
※化学療法追加基準で示されているもの
グレード:3、
増殖指数(ki-67):高い、
ER,PgR陽性割合:低い、
腋窩リンパ節転移:4個以上、
腫瘍周囲脈管侵襲:広範、
病理学的浸潤径:>5cm、
患者さんの意向:利用可能は治療を希望
しかし、田澤先生の過去のQ&Aを見てみると、
・ザンクトガレン2015では60%以上の専門家がルミナールAで腫瘍径が大きい際に化学療法をすべきではない
・ザンクトガレン2015ではルミナールAで脈管侵襲を理由に抗がん剤は使用しないとの意見が2/3を占めている
・術前化学療法は「効果がないときには腫瘍を増大させ、場合によっては手術不能となる」リスクのある治療という認識が必要(特にルミナールAでは要注意と言える)
との回答がありました。
浜松オンコロジーセンター院長の渡辺亨先生のブログにも
ルミナールAは臨床的にも予後がよくホルモン療法がよく効く。
腋窩リンパ節転移が1-3個ぐらい陽性でも化学療法は行わない
※ザンクトガレン2009でしっかりと示されているとのことと記述がありました。
また、術後化学療法の記事になりますが、
米国がん学会サンアントニオ乳がんシンポジウム2015の記事を見たところ、
・ルミナールA乳がんでは術後化学療法の効果は認められない
・ルミナールA乳がんの女性は化学療法を受けた群とそうでない群の10年無病生存率に差がないことを発見したと記述がありました。
がん電話相談室のQ&Aに
ルミナールA型乳がんの全摘術後抗がん剤治療は受けなくて大丈夫かとう質問があり、
「ホルモンが効きやすいがんほど、抗がん剤は聞きにくいと言われています。
抗がん剤を併用したとしても、その治療効果の多くはホルモンの効果と考えられています。」
と回答が書いてありました。
以上の点から、腫瘍が大きくても、仮にHER2は陰性・遠隔転移がない・リンパ節に転移がない場合は、
抗がん剤治療はしなくても予後はあまり変わらないのではと思うのですが、
田澤先生は以前の回答の通り化学療法はすべきでないとの見解でいいでしょうか?
田澤先生がルミナールAタイプのがんに化学療法を追加する場合の判断基準はなんでしょうか?
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
世の中に「術前抗がん剤(neoadjuvant chemotherapy:NACと略します)好き:ここではNAC loversと称します」が多い事は知っていましたが、今回の医師は「super NAC
lovers」と言えます。(どうでもいいですが…)
○術前抗がん剤を勧める前に(そもそも)「化学療法自体の適応があるのか?」となると、
 世にいる「NAC lovers」達はでさえ、質問者(の母)で術前化学療法を勧めることはないでしょう。
私はセカンドオピニオンで「紹介先」へ返事を書く際なのには(強い表現とならない様に気をつけて)「マイルドな返答」としていますが…
さすがに、今回は「厳しく非難せざるをえない」と思います。
第1段階として
全く術前化学療法の適応はない
第2段階として
(術後の)化学療法の適応はない
「遠隔転移があるかどうかはPET-CTの検査をして(6/(下旬)に検査)」
⇒PETを撮影する必要はありません。
「悪性度はわりとおとなしめ。」
⇒Ki67=5-10% は「わりと」ではなく、「かなり」大人しめです。
「遠隔転移がなかったと想定」
⇒当たり前です。
「手術は全摘手術(乳頭に腫瘍が及んでいるので、部分切除しても整容性がとれないため)」
⇒この時点で…
 すでに「術前化学療法する理由」が全くない。
「ホルモン受容体陽性の腫瘍だけれども、抗がん剤治療も行う。」
⇒全く常識外
 
「田澤先生は以前の回答の通り化学療法はすべきでないとの見解でいいでしょうか?」
⇒その通りです。
 一秒も迷いません。
「田澤先生がルミナールAタイプのがんに化学療法を追加する場合の判断基準はなんでしょうか?」
⇒リンパ節転移が4個以上となると考えます。
 St.Gallen2015でもそうですが…
 どうしても(長い間、続いたリンパ節転移=化学療法という習慣が)我々、乳腺外科医の中にも息づいているからです。
 
 しかし、そのようなケースでもOncotypeDXすると「low risk」となるので、その場合には「堂々とホルモン療法単独」でいきます。
★このケースで「術前化学療法など、全くナンセンス」以外の何物でもありません。
 手術(全摘)してホルモン療法が、ごくごく一般的なケースです。
 サブタイプの理解が進んだ今、(どんなに)化学療法好きの人達でも、さすがにこのケースで化学療法を勧めることはないでしょう。