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非浸潤か浸潤か、検査結果について

[管理番号:1313]
性別:女性
年齢:52歳
母の乳がんの検査結果についてお伺いします。
右乳首にびらんがあり、9月頭に乳腺外科で検査を受けました。
細胞診の結果、非浸潤でステージは0だろうとのこと。総合病院で手術を受けて下さい。とのことでした。
9月中旬に総合病院でCTやMRI、細胞診も再度し、右脇のリンパ節に腫れが見られるため、浸潤癌です。との診断でしたが、総合病院でも細胞診の結果は非浸潤と出て、画
像と細胞診の結果が一致しないと言われました。
明日、マンモトームとリンパ節の細胞診を行う予定です。
このように、画像と細胞診の結果ぎ食い違うということはあるのでしょうか。
なかなか結果が出ず、治療が進まないため、とても不安です。
よろしくお願い申し上げます。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
まず「乳頭のびらん」ですが、これには「パジェット」と「パジェトイド」があります。
パジェット:『(乳頭部の)乳管開口部の乳管細胞』が癌化したもので、「乳管内癌
=非浸潤癌もしくは微小浸潤」である。(この場合には乳腺内には腫瘍は存在しな
い)
パジェトイド:(乳頭部ではなく)『乳腺内にできた浸潤癌が、乳管沿いに乳頭部に
到達して乳頭部で皮膚浸潤』したもので、当然「浸潤癌」です。
○質問者のケースでは「針生検(文面には細胞診と記載されていますが、針生検の誤
りだと思います)をして診断しているし、これから「マンモトーム」しようとしてい
るのですから当然「乳腺内にしこり」が存在している筈です。
 ♯乳頭部だけの病変であれば、針生検も、マンモトーム生検もできないのです。
(これらの検査は乳腺内の腫瘍にしか事実上不可能です)

回答

「右脇のリンパ節に腫れが見られる」
⇒これは「どの程度の所見」なのでしょうか?
 リンパ節は転移でなくても腫大することはあります。
 例)針生検による反応性腫大、アトピー性皮膚炎に伴う腫大
 
「画像と細胞診の結果が一致しない」
⇒無意味なことです。
 術前に「非浸潤癌か(微小浸潤のある)浸潤癌なのか」は解りません。(手術で病
理標本全体でないと本当のところは解らないのです)
 同様に、「リンパ節の腫大」も「本当に転移によるものなのかは画像診断では不明
なことはあります」
 ◎そのために、「センチネルリンパ節生検」があるのです。
 
「明日、マンモトームとリンパ節の細胞診を行う予定です」
⇒全く無意味な検査です。
 「針生検で(非浸潤)癌と診断されている」のであれば、マンモトーム生検で「浸
潤の有無を改めて調べる意味」などありません。
 同様に「リンパ節」は、術中に「センチネルリンパ節を術中迅速診断」行えばいい
だけの話です。
 
「このように、画像と細胞診の結果ぎ食い違うということはあるのでしょうか」
⇒時にはあります。
 ただし、問題になるケースは「画像上悪性と疑われるのに、組織診で良性とでる」
場合のみです。
 この場合には「外科的生検」も十分考慮されます。
○今回は「癌」と診断されているわけですから、「無駄な検査」はせずに「速やかに
手術」すべきです。
 本当に「浸潤癌なのか、微小浸潤があるのか、完全な非浸潤癌なのか」は術後病理
組織検査結果で確定するわけです。
 同様に「センチネルリンパ節生検」を行い、(腫大があったとしても)迅速病理診
断で陰性ならば「転移は無い」のです。
 ♯逆に「センチネルリンパ節生検」を行い「転移と判明」すれば「腋窩郭清」は
しなくてはなりません(この判断を術前にしなくてはならない理由はありません。術
中に「きちんとした病理診断」をすればいいのです。)
 
「なかなか結果が出ず、治療が進まないため、とても不安です」
⇒診断精度にも問題ありそうですが、一番の問題は「検査の妥当性が無いこと」です。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

ご返信ありがとうございます。
担当医は、術前化学療法の適応のため、術前に浸潤している部分を見つけたいように
説明していました。
乳頭にびらんがあり、なぜ、術前化学療法をとるのか、私は納得いきません。
また、はじめの乳腺科では、1.5センチのしこりとの説明でしたが、総合病院では、
3.7センチぐらいの広がりとの説明です。
リンパ節は画像では2センチほどとのことです。
残念ながら今日、マンモトーム検診を受けて、13日に結果が分かることになりそうです。
その際に、速やかに手術してもらえないか、担当医と話そうと思います。
情報不足とは思いますが、母の病状は深刻でしょうか?
毎日不安です。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「担当医は、術前化学療法の適応のため、術前に浸潤している部分を見つけたいよう
に説明」
⇒何故、そうまでして「術前化学療法を行いたい」のでしょうか?
 「乳頭部に病変」がある時点で『温存手術は不可能(適応外)』となります。
 「小さくして温存」という可能性は完全に消えているのです。
 ○「リンパ節に転移が疑われているから?」
 とんでもない話です。「リンパ節転移の有無は術前化学療法の適応に無関係」
です。
 まともな乳腺外科医ならば「腋窩郭清」は安全に行える筈です。
 (リンパ節に転移があったとしたら)術前化学療法の有無にかかわらず、いず
れ「郭清しなくてはならない」のです。
 
「乳頭にびらんがあり、なぜ、術前化学療法をとるのか、私は納得いきません」
⇒その通りです。 質問者は「良く理解」されています。
 
 
「その際に、速やかに手術してもらえないか、担当医と話そうと思います」
⇒是非、そうしてください。
 それでも、「どうしても術前化学療法にこだわる」ようであれば、『術前化学療法
にこだわる理由を是非、聞いてください』
 
「情報不足とは思いますが、母の病状は深刻でしょうか?」
⇒そんな事はありません。
 「浸潤の有無」や「リンパ節転移の有無」も現時点で不明ですが、
 針生検で「非浸潤癌とでる」くらいであれば、「深刻な状況」とは到底思えません。
 
○術前化学療法の適応がありません。
 是非、「手術先行」して、「術中センチネルリンパ節生検を行い、転移が無ければ
郭清省略、転移があれば郭清」を行うべきです。
 浸潤にかんしては「手術標本全体で検索」すべきです。
 そして、その結果で「適切な術後補助療法」を行うべきです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

丁寧にご説明いただきありがとうございます。
とても心強いです。
本日、マンモトームとリンパの検査結果を聞きに行きました。
マンモトームの結果は、非浸潤とのことですが、リンパの結果が、
乳がんの転移とのことでした。
田澤先生にご相談したとおり、先に手術をしてもらうことになりましたが、
術後は抗ガン剤が必要でしょうか?
または、乳がん以外の転移という場合もありますか?
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
マンモトーム生検で「非浸潤癌」
腋窩リンパ節の細胞診で「腋窩リンパ節転移陽性」ですね。
♯理論上は「少なくとも微小転移は潜んでいる」と考えます。
いずれ全摘を前提としているのであれば、当然「手術先行」です。
(腋窩リンパ節が細胞診陽性ならば)「術中センチネルリンパ節生検は省略し、最初
から腋窩郭清」となります。
そして、「病変全体を評価して,浸潤癌が見つかるか?」⇒(もし見つかったら)
「その浸潤径及び(浸潤部分の)サブタイプ」に応じて術後療法を選択します。
リンパ節転移は「治療方針に有る程度の影響をもたらす」わけですが、「一つの因
子」にすぎません、。

回答

「術後は抗ガン剤が必要でしょうか?」
⇒これは冒頭のコメントに挙げたように「病変全体での浸潤癌の状況」次第です。
 (浸潤癌の)「浸潤径」と(浸潤癌の)「サブタイプ」によって治療方針を決めます。
 
「または、乳がん以外の転移という場合もありますか?」
⇒まず、ありえません。
 乳癌の転移と判断します。
 
 

 

質問者様から 【質問4】

田澤先生いつもありがとうございます。他の方の相談も拝見し、参考にさせていただきとても感謝しています。
本日、母は手術することになっており、昨日術前の説明がありました。
始めに診察していただいた乳腺外科を含めると2度の針生検と1度のマンモトームで非浸潤癌しか見つからず、パジェット病の症状があります。
非浸潤部分は広範囲に広がっているようです。
しかし、腋窩リンパがCTで二箇所腫れており、生検の結果、腺癌が見つかり、HAR2陽性でホルモンの受容体は陰性です。ki67が40%で通常より高いと言われ心配です。
リンパ節の転移があり、N1からN2ということで、ステージが3になると考えるととても不安です。
今後、術後の結果浸潤癌が見つかるかと思いますが、抗ガン剤等の治療で再発を防げる可能性はどの程度あるのでしょうか。希望を持って、術後の治療に臨むべきでしょうか。
一人娘で一人で母を支えなければならず、不安な毎日です。
どうぞよろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答4】

こんにちは。田澤です。
術前に「腋窩リンパ節の細胞診が陽性」だったのですね。
現在は「センチネルリンパ節生検が標準術式」としてあるのに
わざわざ「術前に細胞診」をする意味が不明ですが…
○細胞診は「疑陽性」があるので、その場合には「無駄な腋窩郭清が行われる可能性」があります。
 もしも担当医に「100%正確なセンチネルリンパ節生検の技術に自信がある」ならば、「センチネルリンパ節生検をすべき」と思います。
 正確な「センチネルリンパ節生検が行われれば」正しく「リンパ節転移の有無を確認」し、「正しい腋窩郭清」がなされるわけです。
「腋窩リンパ節の細胞診陽性」が正しいと仮定して
「パジェトイド」となります。
 パジェットとは「乳頭部の乳管開口部の癌」であり、「乳腺内にしこりは形成」しません。
 現状を解釈すると、(非浸潤癌の拡がりのどこかに)「浸潤巣」があり、そこから「乳管内を進展して乳頭部皮膚を破りビランを形成」している状態、そして「リンパ節転移も成立」しているとなります。

回答

「HAR2陽性でホルモンの受容体は陰性です。ki67が40%で通常より高いと言われ心配」
⇒これは「誤った理解」です。
 質問者(の母親)は「HER2タイプ」となりますが、「HER2タイプ」としては
「Ki67=40%」は特別高くはありません。
 むしろ低めかもしれません。
 「40%が高め」という表現は「ルミナールタイプには当て嵌まる」と言えます。
 
「抗ガン剤等の治療で再発を防げる可能性はどの程度あるのでしょうか」
⇒最大浸潤径が不明、リンパ節転移の数も不明なので、評価は困難です。
 ただ、「針生検x2とマンモトームx1」で非浸潤癌しか出ないところをみると、「それ程の浸潤径はない」と思われます。
 「抗HER2療法は、現代において最良の治療(効果と副作用のバランスが抜群)」であることは間違いありません。
 抗HER2療法の登場で「HER2タイプ」は「ルミナールタイプ」と同等の予後となっています。
 ○心配する状況ではありません。
 
 

 

質問者様から 【質問5】

11月6日に手術をし、術後の結果2Bとのことです。
浸潤癌の大きさが2.5センチ、HAR2陽性(3+)グレード2で、脈管浸潤は△(1~3のうち1)、リンパ節転移は16個中3個です。
今後の治療は、1月から放射線(非浸潤癌が広範囲に見られたことから、必要であるとのこと)、その後に抗ガン剤+分子標的薬を半年、残りの半年は分子標的薬のみの一年間の治療することになりました。
抗ガン剤治療の開始まで、通常よりも期間があるような気がしますが、問題はないでしょうか?
あまり深く考えすぎない方が良いのか、貴重な20件の質問の中で、何度も質問することに悩みましたが、どなたかの参考にもなれば良いと思い、質問させていただきます。
いつも本当にありがとうございます。
 

田澤先生から 【回答5】

こんにちは。田澤です。
pT2(25mm), pN1(3個), pStageⅡB, HER2 type
最大浸潤径が25mmあったのですね。
○それでいて、術前の針生検では「非浸潤癌」しかでなかったというのには困ったものです。

回答

「今後の治療は、1月から放射線(非浸潤癌が広範囲に見られたことから、必要であるとのこと)」
⇒誤りです。
 乳房全摘している筈なので、「非浸潤癌の拡がりがあるから」放射線照射をする訳ではありません。乳房切除後照射の理由は『リンパ節転移があるから』です。
♯ 乳房切除術後照射 
リンパ節転移1~3個 推奨度B
リンパ節転移 4個以上 推奨度A
 
「その後に抗ガン剤+分子標的薬を半年、残りの半年は分子標的薬のみの一年間の治療することになりました。」
⇒標準治療では、『放射線照射より抗がん剤が先行』です。
 乳房切除しているのに、「放射線照射を先行させる」理由が全く理解できません。
 ○通常の順番は   抗がん剤(ECx4:3カ月⇒HER+DTXx4:3カ月)
⇒放射線照射⇒分子標的薬単剤(HERx14:9カ月)となります。
 
「抗ガン剤治療の開始まで、通常よりも期間があるような気がしますが、問題はないでしょうか?」
⇒問題あります。
 担当医に「何故、放射線照射が先行するのか?」理由を聞いてみましょう。
 
 

 

質問者様から 【質問6】

田澤先生ありがとうございます。
色々調べていると、抗ガン剤先行が標準治療であり、推奨されているという情報はありますが、実際のリスク、影響はどの程度あるのでしょうか?
推奨されていることは分かりましたが、生存率などには影響が無いと書かれているところもありました。
来週の診察の際に主治医に相談する予定ですが、それまでに情報を集め、より的確に相談したく考えております。
宜しくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答6】

こんにちは。田澤です。
すでに「手術されている」筈ですが、「術前抗がん剤」治療について調べているとはどういうことでしょうか?
「色々調べていると、抗ガン剤先行が標準治療であり、推奨されているという情報」
⇒誤りです。
 術前抗がん剤の目的は「小さくして温存」のみです。
 それ以外の尤もらしい理由「抗がん剤の効きが解る」とか「最初に見えない癌細胞をたたく」は、全く無意味です。
 
「推奨されていることは分かりました」
⇒推奨されていません。
 誤りです。
 
「生存率などには影響が無いと書かれているところもありました」
⇒その通りです。
 抗がん剤は「術前に行っても、術後に行っても」生存率は同じなのです。
 それで、「術前抗がん剤の適応は小さくして温存」のみなのです。
 
○「生存率は同じ」なのに、一方で術前抗がん剤の「3-6%が病勢進行」します。中には(術前抗がん剤中に)「手術不能や転移性乳癌へなってしまう」例もあります。
 その一方で(術前抗がん剤により)乳房温存率は「12%上昇」します。
 このことより、「術前抗がん剤の適応は小さくして温存」となるのです。
 
 

 

質問者様から 【質問7】

言葉足らずで申し訳ありません。
術前抗ガン剤ではなく、術後の治療として、放射線治療よりも、抗ガン剤治療を先行することが標準的であるという意味です。
もし、放射線治療を先に行う場合、どのくらいのリスクがあるのでしょうか?
母は担当医が判断して、放射線治療を先に行うのだから、問題ないのでは無いかと言いますが、やはり心配です。
宜しくお願いいたします
 

田澤先生から 【回答7】

こんにちは。田澤です。
術後に「放射線治療」と「化学療法」をどちらを先にすべきか?ということですね。
失礼しました。
多数の臨床試験の結果では全身療法としての「化学療法を先行」させることで「局所再発の発生は増加させない」というエビデンスがあります。
これに対し、「放射線治療」を先行させることは「遠隔転移再発を増加させる可能性」が示唆されるため、「化学療法先行」が一般的なのです。
「もし、放射線治療を先に行う場合、どのくらいのリスクがあるのでしょうか?」
⇒あくまでも「放射線先行」の方が「化学療法先行」よりも遠隔転移再発を増加させる『可能性がある』程度の違いと考えてください。
 「どの位」と言う程の差は無いと思います。