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化学療法の適用について

[管理番号:4000]
性別:女性
年齢:49歳
妻(49歳)の乳がんの件で質問いたします。
今年9月に乳がん(ステージII)がみつかり、10月下旬に部分切除術を受けました。
術後の病理検査結果は、以下の通りです。
組織型
充実腺管がん
しこりの大きさ
1.8cm
リンパ節転移
0/3
ホルモン受容体の有無
あり
ER (+)100%
PgR (+)100%
HER2
組織学的悪性度(核異型度)
3
切除断端
(-)陰性
脈管侵襲
(-)陰性
Ki67
40%
上記の結果から、
乳がんのサブタイプ、ルミナールB
ザンクトガレンのガイドラインによると、中間リスクAに分類されると考えております。
この場合、今後の治療方針として、ホルモン療法単独と、化学療法の併用が考えられるものと理解しております。
ここで、ホルモン療法はやるとして、化学療法を選択するか、迷っております。
ホルモン療法単独を検討する根拠としては、
ER、PgR陽性の割合が、最大評価。
センチネルリンパ節生検の結果が陰性
脈管侵襲が陰性
であること、
化学療法を積極的に選択する根拠としては、
グレードが3
Ki67が40%と高い。
であることが上げられます。
田澤先生が紹介されていた以下の記事で引用されている
グラフでは、
Ki67 > 39の場合は、高リスク群(RS result > 30)が80%を超える、と読めます。
今週のコラム53回目 Ki67が「30未満」ならホルモン療法単独、Ki67が「30以上なら、Oncotype DXを推奨」しています。
この理解が正しいとすると、上記の病理結果から、
Ki67=40%であれば高リスク群に分類される可能性が80%と高いのならば、高額の費用を投じてOncotype DXを実施しても結局化学療法を選択することになり、Oncotype
DXの検査を選択する意味がないと考え、一旦は抗がん剤治療を決断しました。
しかし、改めてよく考えてみると、
・Ki67はがん細胞の増殖性を評価する指標であり、Ki67とOncotype DXのRS resultは正相関になるのは当然である。
・Ki67はがん細胞の増殖性のみを評価する指標であり、
例えばホルモンの反応性が高いためにホルモン療法が効果を発現しやすいといった他の要素は加味されていないはず。
であり、上記の病理結果にはOncotype DXのRS resultを下げる要素もあるため、再び迷いを深めております。
さて、このような場合において、
1)ホルモン療法単独
2)化学療法の併用
のいずれが推奨されますか?
もしくは、
3)Oncotype DXを実施してからの判断がよいでしょうか。
なお、Ki67とOncotype DXの相関に関する私の理解は、
妥当でしょうか?
何卒、アドバイスをいただけますように、お願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
男性らしい「理論的な思考」です。
私も(個人的に)そのような思考をとても支持しています。
まずコメントとしては
pT1c(18mm), pN0, luminal
十分な早期癌です。
(私が良く使う表現ですが)10年前だったら(日本中どこの施設でも)「1秒も迷うことなく、ホルモン療法単独」としていたでしょう。(しかも、結果的にそれで何ら問題は生じなかったでしょう)
今はサブタイプの時代です。
ただ残念な事にintrinsic subtypeはDNAのマイクロアレイによって496遺伝子の網羅的パターンによる分類であり、現行の「ER, PgR, HER2, Ki67だけによる分類」とは「大きな乖離」があるのです。
その溝を埋めるのが18遺伝子の発現レベルによる「Oncotype DX」です。
質問者がおっしゃるように、「Ki67」が「細胞分裂期にある癌細胞の割合
(%)」だけを示しているのに対し、「Oncotype DX」は(ER, PgRを含め)
様々な癌遺伝子(Ki67も含まれています)の発現を網羅しているので、意味するところは異なります。
○(同様の指標として)核グレード3を化学療法を勧める理由に挙げる医師がいますが、これも「誤り」です。「核グレードはOncotype DXのRSとは相関しない」ことが証明されています。
「さて、このような場合において、
1)ホルモン療法単独 
2)化学療法の併用のいずれが推奨されますか? 
もしくは、3) Oncotype DXを実施してからの判断がよいでしょうか。」

⇒Oncotype DXを勧めます。
 Ki67=40%は、たしかに(グラフでの)「40以上」には分類されますが…
 「30-39ではhigh riskは半数以下」となっており、実質「こちらに近い」と思います。
 まさに、「Oncotype DXで判断すべき、一番の対象」と言えます。
「なお、Ki67とOncotype DXの相関に関する私の理解は、妥当でしょうか?」
⇒上記を参照してください。
 ご理解いただいているように、「Ki67は最も解り易いOncotype DXのRS値の予測因子」ではありますが、「同一ではない」のです。
 今なお、Oncotype DXの結果は予測不能なのです。