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術前化学療法と腫瘍の大きさについて

[管理番号:2442]
性別:女性
年齢:58歳
田澤先生
初めまして
いつも乳がんQ&Aを拝見しております
平成26年、鏡に映った脇の下の膨らみから乳房のしこりにたどり着き乳腺外科を受診しました
治療の流れは次のとおりで、現在はホルモン療法中です
基本的には、再発しない人は何もしなくても再発しないし
再発する人は何をしても再発してしまうと考えており
気に病んでも仕方ないと思っておりますが
このコーナーを知り田澤先生のご意見を伺いたくなりました
よろしくお願いいたします
CT、エコー、細胞診の結果
  乳房の腫瘍 22.4×24.2×17.1㎜
  腋窩リンパ節転移多数
  鎖骨・傍胸骨リンパ節転移あり
  T2N3CM0 stageⅢC
  ER    90%
  PgR    陰性
  HER2  陰性
  核グレード3
  Ki・67  50%
  LuminalB
術前化学療法
  FEC×4  ドセタキセル×4
乳房切除(全摘)腋窩リンパ節郭清後の病理結果
  治療効果  Grade 2b
  LNレベルⅠ 0/7, LNレベルⅡ・Ⅲ 0/2
乳頭直下より10㎜の位置に3㎜大の遺残浸潤巣あり
  ER    98%
  PgR   16%
  HER2  陰性
  Ki・67  5%
  脈管侵襲  -
放射線治療
  胸壁、鎖骨上、腋窩に照射 全25回
現在アロマターゼ阻害薬服用中
受診時、腋窩にピンポン玉より少し小さいぐらいのしこりがありました
CTでは腋窩のリンパ節転移が多数あり白い塊のようになっていて
転移個数はわかりませんでした
LuminalBでしたが術前化学療法がとてもよく効いて
リンパ節転移も消えたようです
治療効果がわかる反面、転移個数などはわからないままになりました
 
質問は
① 
腋窩リンパ節郭清をレベル3までして
放射線治療も腋窩までしたせいかリンパ浮腫になってしまいました
術前化学療法でリンパ節転移が消えていたのに
そこまでする必要があったのでしょうか?
それに、レベル3まで郭清したのに
病理にまわしたリンパ節が9本だけというのは少ない気がします
 

出来た場所が乳頭に近かったことと、もともと乳房が小さかったため、始めから全摘の予定でした
田澤先生は、術前化学療法の意義は温存手術をするためのみと
おっしゃっていらっしゃいますが
私のようによく効いた場合は予後がいいと主治医には言われました
化学療法の治療効果は予後にどのくらい影響するのでしょうか?
 
   
③ 
田澤先生は、腫瘍の大きさが問題だと書いておられますね
私の場合、リンパ節転移が多いわりに原発巣が大きくないと
主治医が独り言のように言っていました
stageⅢCでも腫瘍経2.4cmぐらいの場合
再発リスクは髙くないのでしょうか?
田澤先生のお考えでは再発率はどのくらいでしょう?
以上3点についてよろしくお願いいたします
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
ひとつ気になったのは
化学療法前のCTで「傍胸骨リンパ節転移あり」となっているのに、術後の照射の範囲に入っていない(もしくは、照射野にできるだけ含めるようにしているのかもしれませんが、不十分の可能性がある)ことです。
「質問は① 腋窩リンパ節郭清をレベル3までして  
放射線治療も腋窩までしたせいかリンパ浮腫になってしまいました  
術前化学療法でリンパ節転移が消えていたのに  
そこまでする必要があったのでしょうか?」
⇒術前化学療法前の状況で郭清すべきとの原則(術前化学療法前にレベル3まで転移
所見があれば、そこまで郭清すべき)からすれば、全く問題はありません。
 ただし、術後患肢浮腫が起こるかどうかは「郭清をどこまでするか?」というよりも「手術精度や、もともとのリンパ節転移によるリンパ流の阻害など」の比重が高いことは明記しておきます。
 
「それに、レベル3まで郭清したのに病理にまわしたリンパ節が9本だけというのは少ない気がします」
⇒リンパ節は「本」ではなく「個」です。
 術前化学療法により「瘢痕化してリンパ節の構造として(病理で)認識できなかった」可能性は十分にありませう。
 
「② 出来た場所が乳頭に近かったことと、もともと乳房が小さかったため、始めから全摘の予定でした 
田澤先生は、術前化学療法の意義は温存手術をするためのみと
おっしゃっていらっしゃいます」
⇒その通りです。
 本来「術前化学療法の適応」ではありません。
 強いて言えば、「術者側」が「手術する際に楽なように」術前化学療法を勧めたというのもあると思います。
 (効果が解るだの、全身の癌細胞を先に叩くだのという、根拠のない理由はおいておくとして)
 
「私のようによく効いた場合は予後がいいと主治医には言われました化学療法の治療効果は予後にどのくらい影響するのでしょうか?」
⇒(術前に行っても、術後に行っても)全く無関係です。
 冷静になって、良く考えてみてください。
 質問者が例えば「手術先行」したとして、当然(術前化学療法と同じメニューで)
「術後化学療法をします」よね?
 
 ○その場合には「術後の化学療法も、凄く効果的」で、結局(抗がん剤が効果無い人に比べて)予後が良好となると思いませんか?
  つまり、「術前化学療法は効果が目に見える」というだけであり、「術前に行ったから予後が改善する」などという事は決して無いのです。
 
「stageⅢCでも腫瘍経2.4cmぐらいの場合 再発リスクは髙くないのでしょうか?  田澤先生のお考えでは再発率はどのくらいでしょう?」
⇒30~40%位だと思います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
お忙しいなか早々にご回答ありがとうございました
仕事をしながらの治療ということで
職場に近い総合病院を選び
言われるままの治療をすべて受けました
過ぎたことは取り返せませんが
先生のコーナーにもっと早く出会いたかったです
傍胸骨リンパ節の放射線照射については
胸壁に含まれていると勝手に思っていました
通常胸壁への照射とは別なのでしょうか?
田澤先生の他の方への回答を拝見すると
そもそも傍胸骨リンパ節への転移が珍しいのですね
化学療法前のCTには写っていて化学療法後のCTでは消えていたので、あったのだと思いますが
当初の放射線科医の説明では
腋窩は照射しないという話でしたが
何回か照射しているうちに腋窩まで色が変わってきたので話が違う!
と思いました
今更言ってももう遅いと思い何も申し上げませんでした
最後に「腋窩には照射しない方がいいという意見も読みますが」
とお聞きしたところ「最近は再発リスクが高い場合は
照射するようになりました」というお返事でした
本当にそうなのでしょうか?
リンパ浮腫の原因が放射線治療にもあるような気がして
今更ながら少し恨めしい気分です
前回の質問で
抗がん剤は術前でも術後でも効果は変わらないというのは
充分理解できますが
私の場合幸いにも術前化学療法で目に見える効果があったので
効果が少なかった人より予後がいいのでは?と思いお聞きした次第です
再発率がどのくらい下がるのかなど
もしわかりましたら教えていただきたいと思います
術前化学療法をお勧めにならない先生にお伺いしてすみませんが
よろしくお願いいたします
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「傍胸骨リンパ節の放射線照射については胸壁に含まれていると勝手に思っていました通常胸壁への照射とは別なのでしょうか?」
⇒別です。
 私は勿論「放射線科医ではありません」が、以前仙台に居た時に「東北大学病院の放射線科医」とその点について「直に」腹を割って話しあったことがあります。
 結論として通常の「リニアック」では「傍胸骨リンパ節領域は殆ど無効(照射野に入らない)」ということです。
 私は仙台時代「腫瘍が内側にある場合」必ず(照射依頼として)「傍胸骨リンパ節領域も含めるようにお願いします」としていたのですが…
 後から聞いてみたら(依頼書に、「傍胸骨も…」とある以上)「一応、傍胸骨リンパ節領域も照射野に入れている振りをしているけれど… どうしても心臓など縦隔臓器への有害事象が怖くてかけられなかった」というのが本音のようでした。
 ○もしも本当に「化学療法前に、傍胸骨リンパ節腫大があった」のであれば」本来は、「トモセラピーで狙うべき」だったと思います。
 
「最近は再発リスクが高い場合は照射するようになりました」というお返事でした本当にそうなのでしょうか?」
⇒違います。
 おそらく、このコメントは「センチネルリンパ節生検をして腋窩郭清を省略しているが、転移があった場合の照射」などと混同しているのでしょう。
 実際は「通常の郭清をしている」以上、(全摘後の照射部位は)「胸壁+鎖骨上」であり、「腋窩は含まれない」のです。
 ♯傍胸骨領域は「リスクが有る場合」に考慮するとなっています。
 
「私の場合幸いにも術前化学療法で目に見える効果があったので効果が少なかった人より予後がいいのでは?と思いお聞きした次第です再発率がどのくらい下がるのかなど
もしわかりましたら教えていただきたいと思います」
⇒当然、下がってくるとは思いますが…
 そのような数字を出す事は不可能です。
 
 ○結果として質問者は以下の3群のなかの①か②に相当する可能性が高いということです。
①化学療法をしなくても再発しなかった群
②化学療法をしたことで再発を免れた群
③化学療法をしても再発してしまう群
 
「術前化学療法をお勧めにならない」
⇒これは質問者の「勘違い」です。
 私は「術前化学療法を勧めない」わけではありません。
 正しい理由「小さくして温存」であれば「化学療法を勧める」し、実際にそのような理由で「江戸川病院で術前化学療法をしている」方も多いです。
 あくまでも「見えない癌細胞を先に叩く」とか「効果の有る薬剤が解る(術前術後に使用する抗がん剤の種類は決まっていて替えようがないのに…)」とか「トリプルネガティブだから」とか「HER2陽性だから」などの『誤った理由で術前化学療法を勧める医師に辟易している』だけです。
 ○正しい理由であれば何ら問題はありません。