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病理検査の信頼性と評価基準、ホルモン療法と他の治療法の特性比較について

[管理番号:2827]
性別:女性
年齢:44歳
田澤先生、こんにちは。
右胸のしこりに気づき、受診した乳腺外科でエコーと針生検をした結果、乳ガン(1センチ程度)と診断されました。
まさか私が・・・信じられないという気持ちです。
診断の根拠や基準、手術の方針や術後の治療についてきちんと理解したいのですが。
担当医の先生からは第一に「どこで手術を受けますか?」と問われ、「調べれば解ります」と言われてお聞きしづらく・・・ 自分で本など調べてはいるのですが、調べるほどに解らなくなります。
少し長文になりますが、ご容赦下さい。
まず、
■何を基準として「浸潤性」で「硬癌」であるか否か、およびホルモンレセプター等の有無を決めているのでしょうか?
 私の場合、一回目の病理診断で「悪性の浸潤性の硬癌、Nuclear grade1(nuclear atypia 2, mitotic counts 1)」と告げられ、ホルモンレセプターの有無は翌週2回目のに追加報告で「ER:陽性(10%以上,染色強度は高度)、PgR:陽性(10%以上,染色強度は中等度)、HER2/neuタンパク染色法(IHC):1+(過剰発現は無しで、被検体組織中の腫瘍細胞の中でのHER2陽性細胞が10%以上あるが、腫瘍細胞の一部の膜に限局した弱い染色強度を有する)」とのことから、「ルミナールA型では」と言われました。
お聞きできると思っていたKi67などの数値は記載されていない用紙のみの報告ということもあるのか、なぜそのような結果に至ったのかが理解できず、悩んでいます。
また、
■病理組織診断の結果はどの程度、確定的なのでしょうか?
改めて、別の病理医の方に診断をして頂く意義はあるのでしょうか?
私がコピーをして頂いた病理診断は「結果」だけで「データ」が無いのですが、それは一般的でしょうか?
希望すれば、
担当医に具体的な数値などの結果を頂くことはできるものなのでしょうか?
 「乳癌であるか否か」「その特性は何か」という非常に重要な診断を、直接お話を
する担当医ではなく、見知らぬ病理医(場合によっては病院外の、どこかの会社の)が診断するということを初めて知りました。
「顔の見え病理医」の著作を拝見すると、実際のところ病理診断をする医師によって、診断も多少はぶれる場合もあるのかなと思います。
 さらに、手術をしてみないとわからない、あるいは手術をしてみても、
取りきれたかどうか・・・真の意味は再発するかどうかで
判断せざるを得ないものなのかなと思ってしまいます。
 田澤先生のコラム(15回「どうやって、免疫染色だけで、AとBに分けるか?」)で、「ルミナール」のAとBの判別も、歴史的な経緯を辿れば(グレーゾーンがあって)難しいことなど、たいへん興味深く拝見しました。
極論をすればAとBの分類も、例えば国際乳癌学会で治療に役立つ別の基準(や分類法)が見つかれば、変わってしまうこともあるのか?などと考えてしまいます。
仮に、
■ルミナールAタイプの疾患だとした場合、ホルモン療法のメリットとデメリットは何でしょうか?
 特に心配なのはホルモン療法のデメリットで、更年期障害のような諸症状が出る場合があると聞くので不安です。
閉経前であり、まだ子どもを授かる可能性を捨てたくない
場合に、適した薬や適量はあるでしょうか。
処方するお薬やその量、投与する期間が人によって違う場合はあるのか、あるとしたらその条件は何かも気になります。
このタイプの疾患である場合はホルモン療法が主となると聞きますが、
手術と治療において抗がん剤を使用することは無いのでしょうか。
また、術後の放射線治療は必須でしょうか。
抗がん剤と放射線に対しては、やや抵抗があります。
最後に、
■ホルモン療法で対処する乳癌は、女性ホルモンの過剰生成が原因(←抗ホルモン剤を投与するため)との見解ですが、その原因と対処法にはどのような幅があるのでしょうか。
 原因も複数あるかと思うのですが、例えば自律神経失調はありうるのか。
ホルモンの過剰生成が乳癌の原因であると推定されるのであれば、まずホルモンバランスを測定
して実際にバランスが崩れていることを確かめる必要はないのか。
また、ホルモンバランスをコントロールする、もしくは免疫をコントロールすることで、癌そのものを縮小さ
せたり、進行を食い止めることはできないのか、などです。
併せて、免疫療法やジョン・R・リー氏のホルモン療法などに対する田澤先生の見解を、お伺いできれば幸いです。
職業柄、細かいところまで気になって調べてようとし、
くたくたになってしまうところがあります。
お忙しいところ誠に恐縮ですが、ご見解をお聞きできれば幸甚です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

「何を基準として「浸潤性」で「硬癌」であるか否か、およびホルモンレセプター等の有無を決めているのでしょうか?」
⇒「浸潤癌」や「硬癌」という病理所見は病理標本(HE染色)で、「ホルモンレセプター」は病理標本(免疫染色)です。
 
「Ki67などの数値は記載されていない用紙のみの報告ということもあるのか、なぜそのような結果に至ったのかが理解できず、悩んでいます。」
⇒Ki67は「摘出標本で施行するつもり」なのかもしれません(当院もそうです。)
 ルミナールAという根拠は『Nuclear grade1(nuclear atypia 2, mitotic counts1』から来ていると思います。(特にmitotic counts 1)
 
「病理組織診断の結果はどの程度、確定的なのでしょうか?改めて、別の病理医の方に診断をして頂く意義はあるのでしょうか?」
⇒確定的だと思います。
 病理のセカンドオピニオンは、「この場合は無意味(確認して質問者本人が納得するなら意味があるかもしれませんが)」です。
 
「私がコピーをして頂いた病理診断は「結果」だけで「データ」が無いのですが、それは一般的でしょうか?」
⇒病理診断は「アナログ」なのです。
 病理医が「見た目を経験で判断」するのです。
 病理医が信頼できなければ、「病理のセカンドオピニオンで納得」するしかないでしょう。
 
「希望すれば、担当医に具体的な数値などの結果を頂くことはできるものなのでしょうか?」
⇒そのようなものはありません。
 病理の世界はアナログなのです。(医療そのものがそうであるように)
 
「ルミナールAタイプの疾患だとした場合、ホルモン療法のメリットとデメリットは何でしょうか?」
⇒メリットは「再発予防効果」、デメリットは「副作用」です。
 
「特に心配なのはホルモン療法のデメリットで、更年期障害のような諸症状が出る場合があると聞くので不安」
⇒残念ながら…
 副作用の無い治療はないのです。
 やらないのであれば、「リスクを承知(やらないことによるリスク上昇)」するしかありません。
 
「閉経前であり、まだ子どもを授かる可能性を捨てたくない場合に、適した薬や適量はあるでしょうか。」
⇒ホルモン療法は「内服中は妊娠できない(催奇形性の問題あり)」し、「内服を終了」すれば「妊娠可能」となります。
 
「手術と治療において抗がん剤を使用することは無いのでしょうか。」
⇒ルミナールタイプでの「抗がん剤を上乗せする条件」については、一般的に「リンパ節転移の有無」があります。
 ちなみにSt. Gallen 2015では「リンパ節転移4個以上」がその条件でした。
 
「また、術後の放射線治療は必須でしょうか。」
⇒放射線治療は「局所療法」です。
 行うとしたら以下の2つの場合
 ①術式として温存を選択した場合
 ②全摘だが、リンパ節転移4個以上などの条件を満たした場合
 
「ホルモン療法で対処する乳癌は、女性ホルモンの過剰生成が原因(←抗ホルモン剤を投与するため)との見解」
⇒これは質問者の勘違いです。
 Luminal typeの乳癌とは「ホルモン過剰が原因」ではありません。
 「ホルモン受容体を持っている」ので、「ホルモンを抑性することが、その増殖抑制に有効」だということです。
 
「ホルモンバランスをコントロールする、もしくは免疫をコントロールすることで、癌そのものを縮小させたり、進行を食い止めることはできないのか」
⇒残念ながら、そのような治療の有効性は証明されていません。
 
「免疫療法やジョン・R・リー氏のホルモン療法などに対する田澤先生の見解を、お伺いできれば幸い」
⇒私は学者ではなく「臨床家」です。
 残念ながら「乳癌に有効な免疫療法は皆無」です。