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HER2 2プラス

[管理番号:473]
性別:女性
年齢:30歳
初めまして。
30歳、授乳中にしこりが見つかり、乳癌であることが分かりました。
今分かっていることは
浸潤性乳管癌(硬癌)
グレード2
サイズ36mm(広がりはなくとどまっている形状のようです)
エストロゲン受容体プラス(90%)
プロゲステロン受容体プラス(90%)
ki-67 9.9%
遠隔転移なし
リンパ節への転移は判断が出来ない
(エコーでは異常なしだが、PETの結果光っている。健側は母乳の影響だろう、癌のある方は健側より強く光っている。何とも言えないので手術前に調べましょうということになっています)
HER2がプラス2で、遺伝子検査の結果待ちです。
もし、HER2プラスと結果が出た場合をインターネットで情報を探しておりましたが
HER2プラス3に比べ、ハーセプチンの効果があまりないようであること、
ホルモン感受性が高いと抗癌剤が効きにくいようであること、
医師によって(患者の希望によって)手術とホルモン療法のみを行うケースもあること
HER2の検査結果は判定者の経験でばらつきがあること
など、本当にハーセプチンと抗癌剤の治療が必要なのか、どうも疑問に感じてしまっております。
HER2の結果がマイナスと出れば何も問題がないのですが、結果が出るまで後1週間かかり、その間、もしプラスと出た場合について、考えを進めたく、田澤先生のお考えをお聞かせ頂ければと思います。
お忙しい中大変恐縮ですが、ご回答を何卒よろしくお願い致します。
(余談かもしれませんが、全摘同時再建を希望しています)
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 内容は完全に解りました。
 大変、整理された内容であり「きちんと状況把握されている」事を頼もしく思います。
 ただ、「ネットの情報」には誤情報(誤解?)があり注意が必要です。

状況の把握

エストロゲン受容体プラス(90%)
プロゲステロン受容体プラス(90%)
ki-67 9.9%
HER2がプラス2で、遺伝子検査の結果待ち
    ↓
これはHER2 FISHを行っています。
(参考に)
HER2はまずは(ER, PgR同様に)免疫染色を行い
 HER2 0, 1+ :陰性
 HER2 2+ :FISHによる遺伝子の増幅を確認する事が推奨
 HER2 3+ :陽性
♯データとしてHER2 2+でFISHを行うと25%がFISH陽性 75%がFISH陰性となる。
◎私の経験ではKi67 9.9%とかなり低値では、殆どがFISH陰性です。
 
「リンパ節への転移は判断が出来ない」
⇒エコーで陰性ならば、cN0でいいと思います。 cT2, cN0, cStageⅡA
 

回答

「HER2 2+はHER2プラス3に比べ、ハーセプチンの効果があまりない」
⇒これは誤解です。
 いろいろな情報が交錯しているようです。
 HER2 2+はHER2 FISHで確認しなくてはいけません。
 これをせずにHER2 2+のままハーセプチンを行うと、ハーセプチンの効果は落ちます。
 これは当然のことであり、HER2 2+はFISHを行うと75%は実は陰性であることが解っています。
 一方で『FISH陽性』と『HER2 3+』はほぼ同じ効果があります。
◎結論としてHER2 2+でFISH陽性ならば、HER2 3+と同等の効果があります。
 ♯HER2 2+でハーセプチンの効果が劣るのは「75%を占めるFISH陰性症例が混ざっている」からなのです。
 
「ホルモン感受性が高いと抗癌剤が効きにくいようであること」
⇒ルミナールタイプ(HER2陰性)では抗癌剤の奏効率は低い(効きにくい)です。
 ただ、「質問者の意図」は(もしもFISH陽性だった時の自分の場合)つまりルミナールB(HER2陽性)の場合の事だと思います。
◎ルミナールタイプでも「HER2 陽性」であれば化学療法の奏効率は十分高いのです。
 奏功率は高い順に、 (ER-, PgR-)HER2陽性タイプ > (ER+, PgR+)HER2陽性タイプ, トリプルネガティブ > ルミナールタイプ
 
「医師によって(患者の希望によって)手術とホルモン療法のみを行うケースもあること」
⇒ルミナールB(HER2陽性)の場合だと思いますが
(NCCNのガイドラインでは)
 ハーセプチン(通常の抗がん剤を含む)を省略する事が推奨されているのは「浸潤径5mm以下」の場合です。
 但し浸潤径5mm~1cmも「予後良好な為、使用を考慮する」とされています。
 また、70歳以上での(ハーセプチンを含む)抗癌剤の有効性は明らかではない
 以上のケース以外で「ハーセプチンを含む抗癌剤を使用しない」のは「ガイドラインから外れた治療」であり、『自己責任』となります。
 
「HER2の検査結果は判定者の経験でばらつきがあること」
⇒これは免疫染色の判定の事です。
 だから「HER2 2+はあてにならない(75%が実は陰性)」のです。
 ただ、そのためにFISH法があり、これは十分に信頼がおけます。
 
「本当にハーセプチンと抗癌剤の治療が必要なのか、どうも疑問に感じて」
⇒HER2 FISHが陽性であれば(浸潤径が1cmより大きければ)間違いなく、ハーセプチンを含めた抗癌剤をするべきです。
注)サイズ36mmとありますが、(最大)浸潤径は「術後にしか解りません」
  Ki67 9.9%からはFISH陰性の可能性が高いとは思います(前述)
 
 

 

質問者様から 【感想2】

田澤先生
お忙しい中、早急なご回答をありがとうございました。
とてもわかり易く、理解することが出来ました。
可能性は低いようですが
もしFISHで陽性と出た場合には悩むことなく
ハーセプチンと抗癌剤の治療を受けます。
根治を目指して治療に励みたいと思います。
本当にありがとうございました!
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生
こんにちは。
その後、FISHの結果はマイナスと出ました。
その結果に安心していましたところ、
腋窩リンパ節の細胞針結果で転移が見つかりました。
リンパ節への転移があると
予後が悪いというデータを見て悲観しております。
また、患部が痛むことを訴えエコーで見てもらった所、
皮膚の内側に異変があり(脂肪が薄く、皮膚が厚くなっていると言われた気がします)、腫瘍のサイズも以前は36mmに見えていたものが
一番長く測れる所で47mmとのことで、急遽、22日に
全摘手術をすることになりました。
そこでお尋ねしたいのですが、前回お答え頂いた
「リンパ節への転移は判断が出来ない」
⇒エコーで陰性ならば、cN0でいいと思います。
と言われていたところが、転移が分かったとなると違ってくるのでしょうか?
たくさん転移が見つかる可能性もあるのでしょうか。
また、自分で触っても明らかに大きくなったように感じますし、
皮膚の方へ向かって出てきているようにも感じますが、
急に進行が早くなることは考えられますか?
主治医は母乳の影響がなくなり、見え方が本来の見え方に
変わってきたのだろうとのことでしたが。
また、術後の病理検査結果で、組織診とは違った結果が出ることはあり得ますか?
(グレード、ki67が誤差とは言えない数値、HER2プラス等)
長文になり、質問も多く申し訳ございません。
主治医に直接聞きたかったのですが、連絡がつかなかったことと、
田澤先生の見解をお聞きしたく再度質問させて頂きました。
お忙しい中大変恐縮ですが、よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 前回は、
 「HER2 2+でHER2-FISH中」という質問をいただき、「Ki67 9.9%からはFISH陰性の可能性が高いとは思います」と回答させてもらいました。
 その点は予想通りでしたね。
 ただ、「エコーでは異常なしだが、PETの結果光っている」として腋窩リンパ節の細胞診を行った結果が「positive」だったのですね。
 「エコー検査の精度」の問題もありそうですが、『エコーでは異常無し。と言っている位だから、複数のリンパ節転移陽性ではない』と考えます。

?回答

「エコーで陰性ならば、cN0でいいと思います。と言われていたところが、転移が分かったとなると違ってくるのでしょうか?たくさん転移が見つかる可能性もあるのでしょうか。」
⇒(エコーで陰性でも)術前に細胞診でpositiveであれば、cN1となります。
 cN1となると、「センチネルリンパ節生検の対象から外れ、腋窩郭清の対象」となりますが、
 もともと「エコーで陰性」なのであれば、「複数の転移」は無いと思います。
 くれぐれも「郭清し過ぎ」とならない様に注意が必要です。(質問者に言っても仕方が無い事ですが…)
 
「急に進行が早くなることは考えられますか?」
⇒針生検をしたことで「急に増殖が速くなる」ことは通常はありません。
 ただ、「腫瘍内部で壊死を起こし、見掛け上大きくなる」ような事はあり得ます。
 
◎「皮膚が厚くなる」=「皮膚や皮下組織の浮腫」は良くないサインです。
 担当医の判断は正しく、皮膚に広範に拡がらない内に、乳房切除する事が肝要です。
 
 

 

質問者様から 【質問4 リンパ節郭清について】

昨日、質問を新たにさせて頂いたところですが、
他の方の質問を見ていて疑問に思うことがありましたので、
さらに追加で質問させて下さい。
リンパ節に転移していることがわかり、
リンパ節をレベル2まで郭清すると、言われています。
自分でもリンパが腫れているような違和感を感じています。
エコーではわからなかったが、エコーで見えるリンパから癌が見つかったとなると
レベル2までの郭清は必須ということでしょうか?
リンパ浮腫など後遺症が心配です。
(それ以上に再発や転移が心配ですが…)
色々、自分なりに調べた結果、放射線治療は受けた方が良いなと思いました。
が、抗癌剤についてはやりたくないなという思いが強いです。
他の方のQ&AでルミナルAはホルモン療法が基本と書いてありましたが、
リンパ節への転移がどれくらいだと抗癌剤も視野に入れる必要がありますか?
ki67の数値にもよりますか?
よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答4】

 こんにちは。田澤です。
 術前の超音波診断で「陰性」なのに、(腋窩リンパ節の細胞診でpositive)ですね。
 「超音波診断で陰性」なのに「レベルⅡまでの郭清」は議論の多いところです。
 私自身は不要だと思います。

回答

「エコーではわからなかったが、エコーで見えるリンパから癌が見つかったとなるとレベル2までの郭清は必須ということでしょうか?」
⇒私の意見では「レベル2までの郭清は不要」、レベル1で十分です。
(参考までに)
 ♯日本での臨床試験で(術前評価)「N0-N1」症例での「level1までの郭清」と「level3までの郭清」で『局所再発も生存率にも差が無かった』ことが示されており、『術前N0, N1症例ではレベル1までの郭清で十分』とされています。
 一方で「術前及び術中に明らかな腋窩リンパ節転移陽性の場合にはレベル2までの郭清が必要」とされています。
◎この「捻じれ現象」を解釈すると、「術前超音波など画像上リンパ節転移が明らか」な場合には「レベル2までが標準」であり、
 「術中センチネルリンパ節生検でたまたま見つかった転移」や(今回のように)「超音波でははっきりしないが(細胞診で判明した)」ケースでは「レベル1で十分」という解釈だと思います。
 
「リンパ節への転移がどれくらいだと抗癌剤も視野に入れる必要がありますか?ki67の数値にもよりますか?」
⇒リンパ節転移4個以上です。
 luminal Aであれば、原則として「ホルモン療法単独」でいいですが、リンパ節転移「4個以上」であれば「化学療法を考慮してもいい」というのが妥当でしょう。(luminalAでの化学療法の上乗せは証明されてはいませんが)
◎30歳という年齢からは、是非タモキシフェンに加えて「LH-RHagonist」を併用してください。
 SOFT試験からも「化学療法を考慮する群」と「35歳以下の群」では『LH-RHagonistの上乗せ効果が高い』ことが解っています。
 
 

 

質問者様から 【質問5】

先日は早々にご回答頂きましてありがとうございました。
お礼が遅くなりまして大変申し訳ございません。
手術前にもう一度、主治医と話ができ、
なるべくリンパ節の郭清をしないで欲しいと伝えることができました。
主治医もその考えだったようですが、レベル2をほんの少しだけ取るとのことでした。
また、もう一度エコーで見た所、皮膚の異変がなくなり
腫瘍のサイズも一番大きい所で32ミリでした。
痛みもなくなっていたので、一時的に炎症を起こしていたのかな?とのこと。
予定通り22日に手術を終えることが出来ました。
リンパ節のいくつかに腫れがあったそうです。
以前の組織診でHER2 2+からFISHで-でしたが
微妙な判定ラインだったそうです。
病理検査結果がわかるまで不安はありますが
今はリハビリに励んでいます。
ここまで沢山の質問に答えて下さり、本当にありがとうございました。
毎回、不安を解消することができ、前向きになることが出来ました。
また田澤先生を頼りに質問をするかもしれません。
その時はまたよろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答5】

こんにちは。田澤です。
無事に手術が終了して良かったです。
もし術後病理が確定して疑問点がある場合には遠慮なく「QandAの扉」を再度たたいてください。
 
 

 

質問者様から 【質問6 リンパ節転移】

何度もすみません。
またどうしても田澤先生の解説をお願いしたく、質問させて下さい。
術後の結果が13日に出揃い、今後の治療を決定することになっています。
先日リンパ液の排出で病院に行き、術後の結果で分かっていることを教えて欲しいと言った所、HER2がまた2+と出たので遺伝子検査中である。
リンパ節への転移が21個取ったうち、9個に転移がみられたとのこと。
術前エコーでわからなかったのだから4個以上は考えられないと思っていたので、
あまりにも多く転移していたこと、抗癌剤をすることになるだろうことで頭が真っ白になってしまい、それ以上に話を聞くことが出来ませんでした。
その後自分なりに調べてみましたが、自分のリンパ節転移の状況が理解出来ません。
(転移数は多いものの状態は悪くない?)
勿論、主治医に詳しく解説してもらうつもりですが、、、
ステージに関しても分類の表現が様々で、、、特にリンパ節転移の状況について、
数に言及していることもあれば、状態だけのこともありまして。
ちなみに腫瘍サイズは32ミリ、ki67が23%程度でした。
リンパ節転移が多いことからステージは3aでしょうか。
ステージ分けにも幅があるので参考程度とは思っていますが、
自分の状況をある程度把握したくて気になります。
ルミナルbということで半年間抗癌剤はするようですが、
抗癌剤、放射線、ホルモン療法と出来る限りの治療をすれば
完治を目指すことは可能でしょうか。どれくらいの確率でしょうか。
お忙しい中大変恐縮ですが、よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答6】

 こんにちは。田澤です。
 術前針生検でHER2 2+でHER2-FISHnegativeだったと思います。

回答

「ちなみに腫瘍サイズは32ミリ、ki67が23%程度でした。リンパ節転移が多いことからステージは3aでしょうか」
⇒pT2(32mm), pN2(9個), pStageⅢAとなります。(p:pathological stage)
 
「ルミナルbと言う事で」
⇒エストロゲン受容体プラス(90%)
 プロゲステロン受容体プラス(90%)
 ki-67 9.9%
 だった筈ですが…
 これだとルミナールAとなります。
 
「半年間抗癌剤」
⇒ルミナールAですが、リンパ節転移が9個となると「やはり化学療法」はする事が多いでしょう。
 レジメンとしては「アンスラタキサン」アンスラサイクリンx4とタキサン系x4の順次併用で3週間に1回を計8回(6ヵ月)となります。
 
「完治を目指すことは可能でしょうか。どれくらいの確率でしょうか。」
⇒可能です。
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