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術後の治療方針について

[管理番号:3274]
性別:女性
年齢:44歳
先日、浸潤性乳管癌の全摘出手術をしました。
?
ER: + / PgR: +
HER2 (-)?
Ki67 15~20%?
リンパ転移無し
NG:1
ステージ:2a
上記病理結果に加え、オンコタイプDXを依頼し、22という結果が出ました。
結果は中間リスクですが、低リスクに近いということで、抗がん剤無し・タモキシフェンのみの治療方針となりました。
以前、先生のご回答の中で、中間リスクの場合、<抗がん剤による上乗せは僅か3%=中間リスクは化学療法をしない>とありましたが、一方で、ルミナールBの場合、タモキシフェン+TCを勧めていらっしゃいました(この場合、抗がん剤の上乗せは5%でしょうか?)
1) 私のケースの場合(ルミナールB?)、抗がん剤無しという方向性でいいのでしょうか?
(主治医はやってもいい・・・といった風ではありました)
2)また、ホルモン治療の場合、タモキシフェンのみ(閉経前)が標準という理解でいいのでしょうか?
色々とお伺いして申し訳ありませんが、先生のご意見をお教え頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
質問者は勘違いをしています。
Ki67が15~20%というのは、所謂「グレーゾーン」であり、「ルミナールB]という判定にはなりません。
そもそも本当のintrinsic subtypeとは「遺伝子発現での分類」なので、「Ki67の数値でのAかBかという分類には、そもそも無理がある」のです。
他に手段がないので便宜的に「Ki67で分けている」というのが正しい表現です。
○ここでOncotypeDXを用いた時、質問者のようにRS=22であれば(レポートに上乗せの数字:かなり低いですね? がありますね)「化学療法の上乗せがない」⇒つまり、「ルミナールAと判定」とすべきなのです。
 Ki67では「グレーゾーンとなり、AかBか不明だった」が、(遺伝子レベルでの分類である)OncotypeDXを用いることで「ルミナールAであることが確認された」と解釈すべきです。
 
「結果は中間リスクですが、低リスクに近いということで、抗がん剤無し・タモキシフェンのみの治療方針となりました」
⇒当然です。
 「低リスクに近いから」という意味ではなく、レポートを良くご覧ください。 
 「Tam alone」と「Tam + chemo」で再発率に殆ど差が無い筈です。
 そもそも「中間リスクでも上乗せはない」のです。
 その数値で「化学療法をする気になれますか?」
 
「ルミナールBの場合、タモキシフェン+TCを勧めていらっしゃいました(この場合、抗がん剤の上乗せは5%でしょうか?)」
⇒あくまでも(OncotypeDXをせずに)Ki67の数値だけで「化学療法の適応を決める」
場合には、そうなりますが、そもそも「質問者の値はグレーゾーンであり、その数値でルミナールBとして化学療法を勧めるのは誤り」です。
 
「1) 私のケースの場合(ルミナールB?)、抗がん剤無しという方向性でいいのでしょうか?(主治医はやってもいい・・・といった風ではありました)」
⇒上記コメントの通りです。
 重ねて言いますが…
 OncotypeDXのレポートを見ていますか?
 そこに記載の有る「Tam alone」と「Tam + Chemo」の数値の差(これが上乗せです)を見て、(もしも担当医が強引に化学療法を勧めたとしても)化学療法をする気になれますか??
 
「2)また、ホルモン治療の場合、タモキシフェンのみ(閉経前)が標準という理解でいいのでしょうか?」
⇒「年齢」と「低リスク」からはタモキシフェン単独となります。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生、
早速ご丁寧にご説明頂き、本当にありがとうございました。
Ki67に関してですが、術後には数値を出しておらず、術前の針生検で『25%』『15%』という結果が出ていました(二回針生検をしました・
また20%ではなく25%の間違えでした)25%という数字から、ルミナールBなのかと推測しておりました。
度々お伺いして申し訳ありませんが、理解が中々出来ないため、再度お教え下さい。
1)ルミナールAとBの境というのはKi67で大体何%位と考えればいいのでしょうか?
2)オンコタイプの結果(RS=22)、Tam AloneとTam+Chemoの違いは約4%位でした(チャートに定規を当てて図りました・・)先生のおっしゃる通り、4%というのは低い値だと認識しておりますが、以前こちらでルミナールBの方に抗がん剤を勧めていらっしゃいました(上乗せ5%)ので、4%と5%だけを比べると差がなく、抗がん剤をしないことに不安を感じてしまいました。
4%だから5%だから・・・というよりは、ルミナールBだから抗がん剤必要、Aだと抗がん剤必要なし(効果低い?)
という理解でいいのでしょうか?
3)⇒「年齢」と「例リスク」からはタモキシフェン単独となります。
上記、『例リスク』とはどのようなリスクなのでしょうか?
度々、先生のお時間及び貴重な質問枠を拝借し大変申し訳ないのですが、お教え頂けると幸いです。
いつも、こちらのQ&Aを見て(勉強不足で申し訳ありません・・)先生のご回答にとても励まされております。
中々、はっきりご意見・結論を出して下さる先生が少なく、外来後にすっきりすることが出来ず、田澤先生のようなお医者様が近くにいれば・・・と常々思っております。
宜しくお願い致します。
お忙しい中、大変申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「術後には数値を出しておらず、術前の針生検で『25%』『15%』という結果が出ていました(二回針生検をしました・また20%ではなく25%の間違えでした)25%という数字から、ルミナールBなのかと推測」
⇒全くの誤りです。
 誤りの1つは「針生検でのKi67」で判断していることです。
 実際に質問者も2回の針生検(そもそも何故2回調べているのか??? 前の病院で測定していても「必ず当院では再度、確認します」みたいなことですか? 若手医師に経験を積ませる機会とするため?? 患者さん無視のくだらない大病院のやりそうなことです。)をしていて、その数値には「開き」がありますよね?
 こと「Ki67」は「手術標本で病変全体を評価」しない数値は全くの無意味です。
 誤りの2つめは「Ki67=25%」でルミナールBとしていることです。
 Ki67は「10~30はグレーゾーン」です。 決してルミナールBではありません。
(もしも主治医が昔の基準「Ki67=14%」としていたとしたら大変な誤りです)
 
「1)ルミナールAとBの境というのはKi67で大体何%位と考えればいいのでしょうか?」
⇒一定の評価はありません。(そもそもintrinsic subtypeは遺伝子発現による分類なので、それを強引に免疫染色でしかもその線引きにKi67を用いている事に無理があるのです。
  ♯是非、『今週のコラム 15回目 どうやって、免疫染色だけで、AとBに分けるか? 』を参照してください。
 
 St.Gallen2015では、それで「10~30%をグレーゾーン」としているのです。
 但し、実際の専門家によるvoting(投票)では「20~30%に、その境界がある」としている意見が最多でした。
 つまり、「10~30%がグレーゾーンというよりは、実際のところ20~30%がグレーゾーン」としていいと思います。(もしも、Ki67=20%をルミナールBか迷う医師がいたら、それは経験不足と非難されるべきです 当然Ki67=20%はルミナールAです)
 
「2)オンコタイプの結果(RS=22)、Tam AloneとTam+Chemoの違いは約4%位でした(チャートに定規を当てて図りました・・)先生のおっしゃる通り、4%というのは低い値だと認識しておりますが、以前こちらでルミナールBの方に抗がん剤を勧めていらっしゃいました(上乗せ5%)ので、4%と5%だけを比べると差がなく、抗がん剤をしないことに不安を感じてしまいました。4%だから5%だから・・・というよりは、ルミナールBだから抗がん剤必要、Aだと抗がん剤必要なし(効果低い?)という理解でいいのでしょうか?」
⇒これは単純な話です。
 本来の分類は「マイクロアレイを用いたintrinsic subtype」です。
 これを患者さんに適応できれば、
(intrinsic subtypeでの)luminalA⇒(迷うことなく)ホルモン療法単独
      〃      lumianlB⇒   〃 ホルモン療法+化学療法
 これでいいのです。
 でも現実には「マイクロアレイ」はできません。
 それで「簡易的に決める手段」として「Ki67を用いた分類」があるのです。
  「それ以上の検査(Oncotype DX)をしない」のであれば、これで方針を決めるしかありません。 
   そうすると(実際はルミナールAでもKi67だけの判断によりルミナールBとされる人も当然でてきます。 ♯ここでいうルミナールAとはintrinsic subtypeでのルミナールAのことを指しています。)
   実際は「化学療法による上乗せは低くても」、「Ki67で分けると」ルミナールBとされるのだから、(ガイドライン上)化学療法が勧められてしまうのです。
 ただし、ここで「21遺伝子とはいえ」遺伝子検査を用いた「OncotypeDXを用いる」ことにより、より「intrinsic subtypeに近づいた判断」となることが期待されています(これは文献的に証明されています)
  つまり、「マイクロアレイを用いた本物のintrinsic subtype」 > 「21遺伝子解析によるOncotype DXによる評価」 > 「Ki67を用いた簡易的なサブタイプ」
 となります。
 ○質問者は「Ki67を用いた簡易的なサブタイプではAかBかグレーゾーン(そもそも手術標本で測定していないので無意味ですが…)」とはいえ、(それより上位の検査であるOncotype DXでは)「ルミナールA(上乗せが低いとはそういうことです)」だということなのです。
  Oncotype DXを用いた時点で、「Ki67を用いた簡易的サブタイプは無視すべき」だということがお解りですか?
「3)⇒「年齢」と「例リスク」からはタモキシフェン単独となります。上記、『例リスク』とはどのようなリスクなのでしょうか?」
⇒失礼しました。
 そいれは「低リスク」の誤植でした。
 
「中々、はっきりご意見・結論を出して下さる先生が少なく」
⇒これは「経験の差」です。
 単なる「文献的な知識」だけで言えば私よりも詳しい医師はいくらでもいる(大学病院の医師のように暇であれば、いくらでも時間が割けます)でしょう。
 ただし、その知識が実際のところ本当はどうなのか? どのように臨床に活かせるのか?
 その知識を「実際の場に還元すること」は臨床経験が全てなのです。
 その意味で「学会的に有名な大学病院の医師(教授など)」がやっているようなサイトもあるのかもしれませんが「ろくに臨床経験もなく、机上の空論でしょう」(私自身は、それらには何の興味もありません)
 その中でこの「乳がんプラザのQandA」が本当に役立つサイトと認識いただければ幸いです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生、
再度、ご丁寧にお返事頂き、本当にありがとうございました。
ルミナールやオンコタイプの結果に関して、きちんとしたお話(+データ)をして頂くことが出来、自分自身理解した上で、前に進む気持ちになることが出来ました。
再度、お教え頂きたいのですが、
浸潤癌・全摘・リンパ転移無し
浸潤癌の最大径: 2.2×1.5×1.5cm
NG: 1
ER/PgR: 共に+(8/8)
Her2: (1+)
Ki67: 15~24%
オンコタイプDX: 22
このような数値の場合、ホルモン療法(タモキシフェンのみ)を行った場合と、無治療の場合の、生存率・再発率をお教え頂けますでしょうか?(長期ホルモン治療をすることによる上乗せを知りたく思っております)
この場合の、生存率・再発率というのは10年のみでしょうか?5年も数値は出るのでしょうか?
また、再発率というのは、局部ではなく転移という理解でいいのでしょうか?
お忙しい中、度々申し訳ありませんが、お教え頂けると、今後の励みになります。
宜しくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「このような数値の場合、ホルモン療法(タモキシフェンのみ)を行った場合と、無治療の場合の、生存率・再発率をお教え頂けますでしょうか?」

10年生存率 再発率
無治療 90% 24%
ホルモン療法 92% 15%

 
「この場合の、生存率・再発率というのは10年のみでしょうか?5年も数値は出るのでしょうか?」
⇒10年だけです。
 
「また、再発率というのは、局部ではなく転移という理解でいいのでしょうか?」
⇒再発率とは「遠隔転移再発」のことです。「局所再発ではありません」