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病理結果と今後について

[管理番号:2326]
性別:女性
年齢:48歳
田澤先生
癌と診断されてから、先生のご回答を参考にさせていただいています。
どうぞよろしくお願いします。
左B領域の乳がんと診断され、12月上旬に温存手術を受けました。
術前の所見によると、MRI検査で同じく左C/D領域に0.6センチ大の境界明瞭な類円型腫瘤、とあります。
今回お聞きしたいのはこのC/D領域の腫瘤のことです。
この腫瘤に関して主治医からは「今後のことを考えて手術の際に一緒に取ります」と言われ、同時手術となりました。
私は勉強不足から、悪いものではないのだろうと思っていました。
病理結果なのですが、
B領域
・浸潤性乳管癌、pT1a相当 5ミリ
・nuclear grade2(3+1)
・tubular grade3
・ly0、v0
・センチネルリンパ節陰性(0/1)
・断端陰性
・ER,PgR ±0
・HER2 1+
C/D領域(病理所見をそのまま書きます)
・3×3×1センチ。
割面では腫瘤は指摘できない。
組織学的には#○○の切
片に2ミリ径程度の
Atypical ductal hyperplasia ~ ductal carcinoma in situ を認める。
肉眼や切片上は取り切れているように見える。
主治医からは、このC/D領域は非浸潤癌もしくはその前の状態で、B領域に放射線治療を行う際に同時にあたる、と説明を受けました。
放射線は25回+5回です。
病理所見が「~のように見える」という表現であることが気になりましたが、非浸潤癌でも放射線が当たればより安心だし、順調に進んでいるのだと思っていました。
ですが、先生のこのQ&Aを見ていくうちに、「その前の状態」とはADHのことだと気づき、ADHも癌であり、「ADH~非浸潤癌」ということで病理自体があいまいであり、断端はどうなっていたのか、また、非浸潤癌としてマージンをとっての手術であったのかなど、放射線治療を前にして不安がこみ上げています。
私に追加切除は必要なのでしょうか。
もし追加切除が必要な場合、切除範囲はどのように決めるのでしょうか。
初期治療の大切さを訴えられる田澤先生のご意見を何度も拝読し、不安が増すばかりです。
来週、診察がありますが、私が指摘しなければこのまま次に進むと思います。
どのように主治医に質問をすればいいのでしょうか。
どうか先生のご意見をお聞かせください。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1a(5mm), pN0 素晴らしい早期癌ですね。
「C/D領域 割面では腫瘤は指摘できない。組織学的には#○○の切片に2ミリ径程度のAtypical ductal hyperplasia ~ ductal carcinoma in situ を認める。肉眼や切片上は取り切れているように見える。」「主治医からは、このC/D領域は非浸潤癌もしくはその前の状態」
⇒この主治医の認識は間違っています。
ADH:atypical ductal hyperplasiaは「前癌病変ではなく、あくまでも非浸潤癌(DCIS:ductal carcinoma in situ)の範囲が2mm以内だった際に用いる用語」であり、今回は「2mm径程度」ということでADHとするかDCISとするか、その境界線という内容です。
♯決して「病理組織像が曖昧」という意味では無く「病変の範囲が小さい」から使用されているのです。
トップページの「ADH」や「ADH」の中の「鑑別困難とADH」を参照してみてください。
 
『「ADH~非浸潤癌」ということで病理自体があいまい』
⇒この理解は誤りです。
冒頭でコメントしたように、実態は「low grade DCIS(低悪性度非浸潤癌)が2mm前後(2mm以内であればADHと表現されるし、2mm<ならばDCISと表現されるのです。
 
「断端はどうなっていたのか」
⇒断端陰性です。
病理医のコメントに「肉眼や切片上は取り切れているように見える」と記載があります。
 
「私に追加切除は必要なのでしょうか。」
⇒不要です。
今回のケースでは「たまたま腫瘍の中に低悪性度の非浸潤癌が2mm程度存在していた」にすぎません。
実は、これは意外と時々あることであり、「それ自体を摘出することで根治」と考えて差し支えありません。
今回は「B領域の浸潤癌がある」から「温存乳房照射がある」わけですが、もしも「C/D領域のしこり」だけならば「放射線照射も省略することが多い」程度のものです。
 
「もし追加切除が必要な場合、切除範囲はどのように決めるのでしょうか。」
⇒追加切除は不要です。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
先日は迅速にご回答いただきありがとうございました。
状態を理解することができ、感謝しています。
さらに質問をさせてください。
「乳房温存療法の適用にならない場合」として、「2つ以上の癌のしこりが、同じ側の乳房の離れた場所にある場合」とあります。
私がこれに当てはまるのか教えてください。
管理番号118「非浸潤癌について」を参考にさせていただきましたところ(こちらは非浸潤の場合ですが)同じ乳管系によるものかどうかが重要なようですね。
私の場合は、B領域の浸潤癌pT1aと、C/D領域の非浸潤癌~ADH2ミリです。
田澤先生が随所で「浸潤径5mm」は極めて低リスクと書かれていることに安心していたのですが、術後一か月を過ぎてこのような思いになるとは思いませんでした。
一度主治医に同じ乳管系かどうかを確認して、(聞くまでもなく別の乳管系になるのでしょうか)もし別であるならば、「乳房温存療法の適用にならない場合」として全摘出を選択したほうがいいのでしょうか。
整容性の面ではとても満足しています。
ですが、根治性の面において、局所再発のリスクがより高まり、さらなる不安を抱えたまま闘病するのなら、放射線治療に入る前にいっそ全摘、という思いが湧き上がっています。
今回2つ見つかったことで、私は乳癌になりやすいのだと思っています。
このまま温存した場合、単発の場合と多発の場合の局所再発のリスクはどの程度の差があるのでしょうか。
私はホルモン療法の適用がわずかしかなく、また婦人科系に不安を抱えているため、再発防止のためのホルモン療法はやらない方向で考えています。
どうかご意見をお聞かせください。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
『「乳房温存療法の適用にならない場合」として、「2つ以上の癌のしこりが、同じ側の乳房の離れた場所にある場合」とあります。』「私がこれに当てはまるのか教えてください。」
⇒前回の回答でコメントしたように…
 確かに「別の乳管系」ですが、
 C/D領域の腫瘍は「それ自体が癌」というよりは「腫瘍の中にたまたま早期癌が(極めて小範囲に)存在していた」という状況にすぎず、(癌が別の乳管系に別々に存在するとは)「似て非なる」状況と言えます。
 つまり(癌は癌でも)「低悪性度の癌が2mm程度」というのは「B領域の癌と併せて多発」としての扱いは不要です。
 実臨床上は「B領域の癌」を温存、たまたま「C/D領域の腫瘍を生検(内部に、ごく小範囲の癌を認めたが、あまりにも小範囲なので、治療としては今回の生検で十分)」でOKです。
 
『「乳房温存療法の適用にならない場合」として全摘出を選択したほうがいいのでしょうか。』
⇒治療としては「B領域の温存」+「C/D領域の生検(たまたま極小範囲に低悪性度の癌が見つかった)」となり、これ以上の治療は不要です。
 
「根治性の面において、局所再発のリスクがより高まり、さらなる不安を抱えたまま闘病する」
⇒「局所再発のリスク」は高まりません。
 
「このまま温存した場合、単発の場合と多発の場合の局所再発のリスクはどの程度の差があるのでしょうか。」
⇒通常の「多発」とは同等に考える必要はありません。
 「差は存在しない」と思います。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生
前回は二度にわたり質問にお答えいただきありがとうございました。
自分の病状をより理解し、納得して次に進むことができました。
心から感謝申し上げます。
今回はホルモン治療に関して質問をさせてください。
私は左B領域の浸潤癌と、C/D領域の非浸潤癌~ADH(2ミリ)の温存手術
を受けました。
その後、放射線治療を受けました。
B領域に関しては
・pT1a相当 5ミリ
・nuclear grade2(3+1)
・tubular grade3
・ly0、v0
・センチネルリンパ節陰性(0/1)
・断端陰性
・ER,PgR ±0
・HER2 1+
所見では「ERやPgRは少数の癌細胞核に弱い染色性を示す。
J-スコアで1+ 」とあります。
とてもわずかな数値ですが、主治医からは健側の発生予防のためにもホルモン治療(タモキシフェン)を勧められています。
Q&Aでたくさんの方がホルモン治療に関する質問をされているので、ずいぶん読ませていただきました。
そして私なりに理解したうえで、効果があるなら受けたいと思うようになりましたが、「リスクと効果のバランス」を計れずにいます。
決められない理由は下記の2点です。
①≪1%でも陽性であればホルモン療法はすべき≫とのご意見を、管理番号2376「ルミナールBの抗がん剤治療」、管理番号2649「ホルモン治療について(受容体)」で拝読しました。
1%未満の私の場合はどうでしょうか。
標準治療から外れますか。
②3年前に子宮内膜増殖症と診断され内膜掻把とポリープ切除を受けました。
管理番号395「温存手術をうけました。」に
≪タモキシフェン(タスオミン)内服により「子宮内膜の肥厚が起こり、子宮体がんのリスクが若干上昇」します。
但し、10年間で0.4%増加する程度であり、「乳癌再発のリスク低減効果に比べて1/30程度」でしかありません。
「健診を定期的に受けていれば全く問題ありません」≫ とあります。
私の場合もこれに当てはめていいでしょうか。
田澤先生でしたら私にホルモン治療をすすめられますか。
また、ホルモン治療を受けない場合、私には全身治療は無しということになります。
不安はありますが、仕方のないことですよね。
ホルモン治療を受けた場合と受けない場合とで、再発率をと生存率を教えていただけないでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「1%未満の私の場合はどうでしょうか。標準治療から外れますか。」
⇒標準治療では「ここは曖昧な部分」です。
 その他の状況から「総合的に判断」すべきです。
 どちらでも問題ありません。
 pT1aなので、私なら「やらない」と思います。
 
「3年前に子宮内膜増殖症と診断され内膜掻把とポリープ切除を受けました。
私の場合もこれに当てはめていいでしょうか。」
⇒子宮の状態次第です。
 本来は「婦人科医と相談」すべき事案と思います。
 ただし、pT1aでER±では「バランスとしては、やらない」が正解ではないでしょうか。
 
「田澤先生でしたら私にホルモン治療をすすめられますか。」
⇒上記通り、勧めません。
 
「ホルモン治療を受けた場合と受けない場合とで、再発率をと生存率を教えていただけないでしょうか。」
⇒ホルモン療法による恩恵は「数字に出るほど」ではないと思います。
 pT1aでは再発率は10%以内、生存率は95%以上だと思います。(pT1aだけのデータはありません)