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今週のコラム 44回目 『これは肉芽腫性乳腺炎じゃないよ。 何故なら自分はそんなもの1回も見たことないから』

皆さん。こんにちは。

台風が過ぎ去るたびに季節は秋へ確実に進んでいる事を実感します。

それにしても、岩手県に台風の被害が出るとは!

東北人にとって台風とは「熱帯低気圧に変わった後」でしかなかったものでしたが…

 

世界的な異常気象。その根底には「地球の温暖化」

宇宙戦艦ヤマト子供の頃、「宇宙戦艦ヤマト」の最後に画面に出た「地球の滅亡まで、あと○○日」

満更、アニメの中だけでは済まないのかもしれません。

 

 

○スタッフの1人が体調不良で、休養していたのですが本日より復帰(予定)となりました。

残りのスタッフと私で、「替り」を務めていたのですが、ようやく通常状態に2週間ぶりに戻ります。

「秘書とのメール」のやりとりで「回答が遅くなり」ご迷惑をおかけした方達には、この場をお借りしてお詫びいたします。

 

 

『乳腺の炎症』

乳腺に炎症が起こるには、通常理由があります。

①鬱滞性乳腺炎 授乳期に(特に初産)ミルクの鬱滞により炎症が起こる

更に乳頭から菌が侵入すると「化膿性乳腺炎」となります。

②乳輪下乳腺炎(乳輪下膿瘍)

陥没乳頭が原因で乳頭部分の剥がれ落ちた皮膚(垢)が外へ出れずに、乳管内部に溜まり炎症を引き起こす。

 

○通常、乳腺に炎症を引き起こすとすればほぼ全てが上記①②が原因となります。

 

先日、市川に地元で4カ月も上記②乳輪下膿瘍として治療されてきた患者さんが受診されました。

抗生剤を処方され、切開されていました。

患者さんは(4カ月もかけて)良くなるどころか、乳腺内に「拡がってきた」ことに不安となり、ネット検索しているうちに「今週のコラム 42回目 肉芽腫性乳腺炎(前医での診療~当院初診まで)」をみつけて、その皮膚所見(及び、その経過)が「自分に当て嵌まる」ような気がして受診されたのです。

正しい判断でした。

患者さんは地元で実に3病院も転院しています。

何処へ行っても「乳輪下乳腺炎」だ。 切開して膿を出そう。と言われていました。

 

極めつけは、患者さんが「これは肉芽腫性乳腺炎ではないのか?」と担当医に質問した際に、『これは肉芽腫性乳腺炎じゃないよ。 何故なら自分はそんなもの1回も見たことないから』だそうです!!!

ちょっと、救いようがないですね。

 

 

実際に私が診察してみて、

①皮膚所見が「乳頭近傍」というよりは(まさに42回目に提示したように)離れた部位に広範に拡がっている

②陥没乳頭もない

以上より、「これは肉芽腫性乳腺炎だな」と思いながらエコーしましたが、

予想通り「43回で示したような特徴的な横長の肉芽像」が広範囲に拡がっていました。

 

外科医が「膿瘍を見たら、切開」するのは本能的であり、原則として間違いではありません。

今回の件もあり、私も「自分の過去」を思い起こしてみました。

仙台、東北公○病院時代

最初の肉芽腫性乳腺炎の症例(10年は経っていると思いますが…)です。(思い起こすと、やはり30代後半だったと思います。)

 

とにかく「難治性」でした。

抗生剤を投与しても(通常の炎症のように)改善しない。

ほとんど変化無く、症状の改善もない。

「膿が貯まっている?」と考え(外科医の原則通り)切開してドレーンを入れて「今度こそは、良くなりますよ」と説明しなのに、一向に良くはならない。

ドレーンを1週間毎に細いものに入れ替えて、「いよいよ抜去、これで治癒!」と思うと、数日後に「再燃」するのです。

 

そのような経過を辿りながら、いよいよ最後の手段として

手術的に「炎症性の組織(その当時には炎症性肉芽との認識はありませんでした)」を摘出したことで、ようやく治癒しました。(全身麻酔で癌の際のような大きな切除範囲となった事を覚えています)

 

○その「苦い」経験から学び、「肉芽腫性乳腺炎」としての診療を確立したのは恩師「木○先生」のお陰だったと(かすかに)記憶しています。

ただ、「あの(東北中から患者さんが集まる)東北公○病院」でさえ、「肉芽腫性乳腺炎」は非常に珍しかったわけですから、(世の中の殆ど全ての)乳腺外科医にとって「一度も経験したことが無い」もしくは(仮に経験しても)「記憶の中で風化したままとなってしまっている」ことは想像に難くありません。

 

この乳がんプラザのお陰で、そんな「希少な疾患」でも「全国に目をむければ」(当たり前と言えば当たり前ですが)実に沢山いらっしゃる事を目の当たりにして驚いている次第です。

 

★「乳プラザ」という名が表すように、あくまでも診療の中心は「乳癌」であり、「乳癌」は(それら良性疾患に比して)「重要度及び緊急性」は高いことに疑問の余地は無く、当然ながら当院の診療も乳癌が殆どを占めています。決して「葉状腫瘍」とか「乳頭分泌」とか「肉芽腫性乳腺炎」などに特化した診療をしているわけではありません。

ただ「乳頭分泌」にしろ「肉芽腫性乳腺炎」にしろ、その「誤った」診療で苦しんでいる方達を放っておく事はできないのです。